お婆ちゃん

ママがまた大声を上げて泣いてる

さっきまで大声で笑っていたのに

本当にママって変 怖い

 

桜ちゃんごめんね

病院に入れてあげたいんだけど

お金が無くてね・・・

 

母 桜子に瓜二つの娘 桜は

貧困と狂気に囲まれながら育っていた

 

絵を描くことが好きで

孤独を紛らわすかのように

没頭する

それを幸せだと

子供ながらに感じていた

 

そんな桜に早くも人生の転機が訪れた

 

桜の手を握り締め

ごめんよ ごめんよと詫びる

祖母の声が途絶え

同時に静かに手を放した

 

それは残酷にも

高校退学を意味していた

無論人生を回顧している暇など

微塵にも無く

軽薄な季節に急かされるように

母の唯一の友人恵子に手を引かれ

繁華街の小さなスナックのホステスに

 

ここ

帝国映画エンターテインメント社の会議室

(大都会・完結編)に向けての

手筈が全て整い

和やか

且 晴れやかなムードに包まれている

 

後は主演女優を誰にするかだけだな

相談役の高東が呟く

 

最近は圧倒的な若手女優がいないですから

ただ・・・

桜子の娘 桜ですが

母を凌ぐ程の美女に育っています

今の若手女優なら頭一つ抜けていますね・・・

 

だが・・・

桜子にあれ程の事をしておいて

どのツラ下げて娘に会いに行くというのか

高東が俯く

 

そうですね

しかし各社共にもう動き回っているみたいです

(大都会・完結編)程の超大作に

相応しい逸材ですので

 

うう~ん

高東が溜息を吐く

 

住めば都

郷に入っては郷に従え

なんて言葉が有りますが

桜は

恰も古くからホステスをやっていたかの様に

店に美しい花を一輪添えて

 

東京から

何度も何度も 何人も何人も

芸能スカウトマンが口説きに来るも

芸能界だけは勘弁してくださいと

頑なに拒む

拒み方すら柔らかくも美しい

 

更には

薄々桜子の悲劇を感じ取っていた

恵子ママが

スカウトマンを

丁寧に丁重に追い返せば

二人は目を合わせ微笑むのだった

 

そして

母 桜子が危篤状態に陥った

残り僅かの命を振り絞り

桜・・・ごめんよと

あなたの本当のお父さんは・・・

桜と恵子ママ以外誰もいない寂しい葬儀だった

 

何時にもまして頑張る桜だが

今度は恵子ママが倒れる

ママを担いで深夜の病院へと走る

 

しかし

医師は努めて冷静に

肝臓発作により残念ながら・・・と

 

祖母・母・恩人を立て続けに失い

真の孤独の地に立ち

桜は笑いながら泣いた 泣きながら笑った

 

落ち着きを取り戻し

店を再開

 

今度は

地元のヤクザ者が殴り込んで来た

姉ちゃん この証書よく見な

店の借金 一千万

そっくりと返してもらおうじゃねーか!!!

姉ちゃん美人だしな

カラダで返してもらおうか

 

桜は観念しそして決意した

 

帝国映画エンターテインメント社の

(大都会・完結編)という大作映画が終わるころ

全額お返し致します

 

彼女なりに啖呵を切った

 

数日後帝映に電話を掛ける

 

桜ちゃん本当に出てくれるんだね!!

 

ええ

 

東京行き快速列車が発車します

 

祖母の苦悩 祖父の背信

母の無念 恵子ママへの感謝を担ぎ

桜が東京へと向かう・・・・・・・・・・・・・