今まで27年間生きてきて、そんなに深く考えたことはなかったはずだ。

いや、たった一度だけ、雑誌のインタビューで、有名評論家が言っていたのを覚えてる。

"これは現代ロックですね"

何だ?現代ロックって何?
そんな抽象的な言葉、評論家が使っていいのかよ……。

教えてくれる人なんか周りにいりゃしないし、
とっくに忘れかけてたワードだった。

そう、あの日、マスターに出会うまでは………








現代ロックの館


俺はある日の会社帰り、なんて事はない、
少しだけ一杯ひっかけていくつもりで、
東十条駅をほどなく歩いた先で、
裏路地を通ることにした。

建物の隙間からは、今にもネズミが出てきそうな薄気味悪さが漂う。
電柱は、いかがわしいチラシで埋め尽くされていて、何とも居心地が悪かった。

さっさと酒場を選んで入りたいな。

そう思ったその時だった。

電柱に貼り付けられている、一枚のチラシに目を奪われた。

現代ロック、試してみませんか?

!?

俺は、このチラシに惹かれて、チラシに書いてある住所、電柱から徒歩5分の場所へ向かうことにした。
この時既に、俺の頭には酒の事など、どこ吹く風であったことは言うまでもない。


現地に到着した俺はビックリした。
予想以上にドッシリした館にね。

館の扉は鉄製で、2トンぐらいするんじゃないかってくらい、重厚感に溢れている。

あ、因みに俺 作家志望は、人生の半分以上をロックに捧げている、いわゆるロックオタクだ。

チラシに惹かれたのはそういう理由。
ロックって言葉に目がないんだ。

俺は現代ロックってものは、グランジの終末みたいなものだと思ってたんだ。
じゃあグランジはいつ終わったんだ?
って聞かれたら、答えに窮するんだが 笑

さて、そろそろ館へお邪魔しようかな。
館の扉をノックしようとした俺の肩を、何者かが掴んだ。


不思議とビックリしなかったし、家主だろうなって、ピンときたよ。
これが、俺とマスターの出会いだった。

暗闇で、マスターの顔ははっきり見えないけど、
スーツ姿に180cmくらいのなりに見えた。

(マスター)
私はこの館の主人、マスターと呼んでくれ。
君は、現代ロックに興味があるのかい?

(作家志望)
え、ええ、まぁ。チラシを見てきたんですが。


マスターは、扉を豪快に開けると、中に招き入れてくれた。

館内では、うっすらとBGMがかかっていた。



これは確か、ジミー・クリフの曲だっけな。
ん?ジミーのがカバーだったっけか?

まぁ、どちらでもいいか。

そんなことを考えながら、俺はマスターの後ろを付いていった。

それはまるで、長い長いロックの歴史を遡る、ルート66のようであった………


(続く)










「現代ロック」を真面目に考えてみるにて