Fable Enables 78 | ユークリッド空間の音
2018-02-13 00:01:00

Fable Enables 78

テーマ:Fable Enables

 チトセに導かれた先には小さな岫があった。森の奥深くから山の中へと通じる洞穴。
 こんなところにこんなものがあるとは知らなかった。
「岫の奥には」
 チトセはその穴を眇めつつ言った。まるでそこからやってくるものを見極めるがごとく。
「しばらく分岐のない道が続いております。そのあと、一箇所で複数の道にに分岐している場所に出ます」
「複数、ね」マコトは嘯いた。
「その複数の道もやがて一箇所でふたたび合流し、一本道に戻ります。その先に岫の終点――行き止まりがあります」
「行き止まりには何があるんですか」ナオキが言った。
「今は次元の断裂が。しばらく前までは存在しなかった空間の歪みです」
「目に見えるものなんですか」
「通常の視力であれば」
 チトセは穴の方に向けていた目を逸らし、そのままこちらに向き直った。
「ここであなた方を試させていただきます。わたくしが先行して穴の中に這入ります。みなさんには少し間を置いて同じくここに這入っていただき、最奥部を目指していただきます。その際――、先行して這入ったわたくしを必ず最奥部に『追い詰めて』いただかなければなりません」
「追い詰める、とは」
「わたくしが洞窟内でどのような経路を歩こうとも、あとから這入ってくるあなたがたは、わたくしがこの洞窟から脱出することを阻止しなければなりません。むろん、一本道であなたがたと出会った場合は、こちらは絶対にすれ違わないと保証致します」
 つまり、洞窟内の分岐した道があるところにおいて、チトセの退路を断つために常にどの道にも人員が存在するように動くということか。道がふたつに分岐していれば二手に分かれる。片方の道を全員が選んだら、もう片方の道からチトセに逃げられるからアウト。
「面倒クサいわねえ」アミは溜め息をついた。「何だってそんなゲームをしなきゃいけないワケ?」
「そうすることにより、あなたがたが本来ならこれまでに気付いていることを改めて思い出していただくためです。それを思い出せば、あなたがたが次にすべきことが見えてくるでしょうから」
 チトセは岫の入口付近にある木の蔭から大型のポーチを持ってきた。中には七つの懐中電灯が這入っていた。
「世界の意志が創り上げた洞窟ですが、明かりまでは這入ってきません。みなさんにはこちらを携えて進むようにしていただきます」
「少し質問が」
 マコトが小声ながらも鋭い口調で言った。チトセは「なんでしょう」と慇懃にそちらを向いた。
「洞窟の中でわたしたちが何者かに襲われないという保証は?」
「ございません。ただ――、ここでそのままお帰りになられても、いずれ『刺客』や剣呑な幻獣を司るものと衝突することになりましょう。その闘いの理由を理解できないままご自身が消耗し続けることは決して得にはなりえないと存じます」
「その衝突がまさにここで行われようとしているのでは?」
「わたくしを信じていただけないのならば、お帰りになって結構です」
 俺たちを抹消したい『世界の意志』に加担するもので、ミズキやチトセはまだ対話で応じてくれるということか。
 加えるのなら、チトセが再三口にしている、俺たちが『本来なら気付いているはずのこと』についても気になる。今後の未来の明るさの期待値は、ここでチトセに従うことが最大を取り得るか。
「応じましょう」
 俺の代わりに、ナオキがそう言った。チトセはゆるりと頷くと、懐中電灯のひとつを手にし、補足説明をすることもなく洞窟の中へと進んでいった。手にした懐中電灯の光がその闇に飲み込まれる際に、「では是非ともわたくしを最奥部まで追い詰めてください」というかそけき声が響いた。開口端補正の影響か、その声は妙に耳の中に谺した。
 俺たちは黙って佇んでいる。作戦を練ることも考えたが、肝心の内部の様子がわからず、これは得策でないと判断した。結局、洞窟内にある分岐がいかようにして形を成しているかを実際に確認するのが最速であり最善であろう。
 チトセが洞窟内に消えてから五分。
「そろそろ行こうか」
 どこから判断したのかわからないが、ナオキはその五分という時間でこちらの出発を決めた。こいつ、肝だけは坐っている。
 俺たちはチトセの用意した懐中電灯を各々手にし、明かりがつくのを確認したあと、一団となってその洞窟に足を踏み入れた。 

 

 


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