2018-02-09 00:01:00

Fable Enables 77

テーマ:Fable Enables

 小さいながらもバスの運行や流苑学園の生徒で賑わいを見せる音木駅。その駅前から北西に向け、商店街を擁した目抜き通りが延びている。そのまま真っすぐ行くとやがては運動公園をやり過ごし、小さな山へと這入り、そのまま隣の葉梨町へと至る。県道にこそなれど特に名前の付いていないその道は、生徒のあいだでは「お伽噺通り」と呼ばれている。
 八月二十二日。
 はじめはお伽噺通りを共に歩く召喚者はいなかった。
 午前十一時三十分。音木駅に到着した電車から召喚者ふたりが降り立った。
 一行はお伽噺通りを静かに歩く。
 午前十一時四十五分。流苑学園で部活をしていたひとりと「一本木」に控えていたふたりが合流。
 一行はゆるい勾配に差し掛かったお伽噺通りを静かに歩く。
 午後零時十分。運動公園で薙刀の模擬試合をしていたひとりが合流。
 石板に象嵌された宝玉に反応する召喚者全員が揃い、森林を縫うお伽噺通りを静かに歩く。
 数か月前までは互いの繋がりを知らなかった者同士である。俺たちはその邂逅を再現するかのように、この道へと集ってきた。

 問題の薙ぎには、指定された午後二時より一時間以上も前に到着した。にもかかわらず先客はいた。
 褐色を帯びた長い髪を綺麗に整え、黒いブラウスに黒いパンツという出で立ちの若い女性。山の傷たる薙ぎの端、ハイキングのためにわずかに切り開かれた平地で、彼女は背後にある森に身を委ねるようにして佇んでいた。
 すぐ傍を歩くマコトが反応した。見憶えのある顔らしい。彼女がタツマチトセか。
 彼女に近付きつつそっと周囲を窺うが、他の者の気配はない。仁科ミズキの姿もない。
 アスファルトから剥き出しの土へと俺たちは足を進める。ひとり、ふたり、三人。靴が土と擦れる音が最大限最大数にまで達すると、相手はこちらに向き直った。
「――お待ち申し上げておりました」
 細く儚げな、やや早口の声だった。
「何用でしょうか」
 ナオキが問う。緊張の色が見られる。
「わたくし、タツマチトセと申します。ドラゴンの龍にあいだの間、千歳飴の千歳です。昨日、皆さまのもとにはご一報が届いたかと存じます」
「ワタシにはどうしようもナイ話だったわね」
 アミが憎まれ口を叩く。相手は「さようでございますね」と抗わない。伏目がちの表情で、申し訳なく思っているのか皮肉っているのかその胸の裡が見えない。
「どうしようもないことですが、アミさん――それから皆さまに無関係な話ではございません。本日は知らせを持って参りました。わたくしたちにとっては進展のある――あなた方にとってはある意味残念なものかもしれませんが」
「勿体ぶらないで教えてくれよ」
 マモルが言った。深刻な場面でもお構いなしの言葉遣いである。
「それは」
 チトセはわずかに視線を上げ、少しのあいだ間を置いた。
「しかるべき感覚をお持ちになっておられればご自身で当然お気づきになるはずのことなのです。お気づきではありませんか?」
 あるいはチトセはこちらをからかってそんなことを言ったのかもしれない。ならば俺がもしマモルの立場だったら「わからないから訊いてるんだよ」とでも返しているだろう。しかし、相手の言葉には、こちらの切迫感を掻き立てる何かがあった。俺たちは全員でそれぞれの顔色を窺い、他の誰もがその『心当たり』とやらに心当たりがないことを確認した。
「ならば」
 チトセはゆるりと右を向いた。
「こちらについて来ていただけますでしょうか。あなた方が当然気付くべきであることを気付かせるための装置が、この世界には用意されています」 

 

 


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