2017-09-13 00:01:00

Fable Enables 40

テーマ:Fable Enables

 長い坂道を上り、丘の中途半端な位置にある骨董喫茶店を目指す。そのさなか、俺はマコトに声をかけてみた。
「ヒビキに気になることでもあったのか」
 彼が黒幕なら大いに驚くところであるが、マコトの返事は俺の思考の範疇外にあった。
「彼、事件を未然に防ごうとして動いていました。わたしは犯人の正体を掴めていないのに」
 言い終わって、マコトが下唇を噛んでいるように見えた。
 そうか。犯人の暗号署名の解読にシルキーの力が通じなかったことで後ろ髪を引かれているのか。
「誰にだってできないことはある。仕方ないさ。真面目すぎるのもどうかと思うぞ」
 マコトは何も言わなかった。こちらの言葉を認めているようでもあり、不満に思っているようでもあった。

 『一本木』の店主は不在であった。代わりに、テーブルには『競りに行ってきます。アミちゃん留守番宜しく』とのメモがあった。また骨董集めか。バイトに自分の都合を押しつけるのはよくないだろう。アミはアミで仕事の『し』の字すら感じさせず、パソコンを立ち上げて「火事のことで情報がないかしら」と、蚊帳の外での野次馬になる気が満々である。
 マコトは奥の事務机からペンとメモ用紙を拝借すると、客が使うはずのテーブルに着いてアルファベットの羅列を始めた。顔には並みならぬ気迫が漲っている。間違いなく"fourth Jonar Lee"の解読に挑む顔だ。生真面目なところは変わりそうにない。
 真面目とは縁遠い俺は、アミの後ろに立った。
「何かわかりそうか」
「いくらか――もとい、いくつかあるわね」
 画面のウィンドウを閉じたり開いたりしつつ、アミは答える。
「場所は市立図書館の屋外のトイレ。また珍妙なところで火を起こしたものね」
「カケル先輩との関わりは」
「そんなことまではわからないわ。貸出カードを作っていたんじゃない?」
 カードを作るだけなら、ここの市民なら簡単にできる。利用するだけならもっと簡単だ。これまでの学習塾、墓地、農場は、カケル先輩との結び付きが強かった。今回も、図書館でバイト――という話なら頷けるが、単なる利用者では、こじつけるには無理がある。
 その分、今回は本人に直接危害が及んだのであろうか。
「それにしても納得いかないのよね」
 アミは腕を組んで椅子の背凭れに小さな身を預けた。
「何が」
「Webでの予告は『cross over a church』よね。ニホンゴだと『教会の上を横切る』。これって、教会を通る直線ルートを使い、相対する二ヶ所で放火をする、ってのが妥当と思うのよね」
「それで」
「でもまだ二ヶ所目の報せはない」
「教会近くでの事故が二件目なんじゃないのか」
「あんたも気付きなさいよ。教会で――、もとい、教会付近で二件目を起こすんなら『go to the church』とか『appear in the church』とかのほうが正当でしょ。クロスしちゃってどうすんのよ。クロスしたら絶対に反対側が要るでしょ」
「なるほど。お前もたまにはいいこと言う」
「それは喧嘩買ってんのね。一万円払いなさい」
 アミのエルボーを腹筋で受け止めつつ、俺はもっともだと感心した。我ながら間抜けな話だ。
 すると、アミによれば二件目の放火が起きていないことが新たな疑問点となる。
 いったい何が起こっている。
 犯人は何を考えている。
 思案しかけたとき、携帯の着信音が鳴った。ナオキからだった。
「カケル先輩は」
 こちらが先に訊くと、ナオキは珍しく憔悴した声で返してきた。
『大事が起きた。カケル先輩が消えた』
「きえ――た?」
『意識を取り戻して、病棟の一室に運ばれた、そのあとのことだ。スタッフの目が離れた隙に、部屋にいるはずのカケル先輩が消えていた』
「どこに行ったんだ」
 俺は必死で混乱を抑えながら言った。
『病室の窓が開いていた。そこからとしか考えられない』
 俺はしばし呆然となった。
「――その病室はどこだ。一階か二階か」
『三階』
「……」
 どうなっている。人ひとりが三階の窓から消えた。
 例のタクシー運転手の言い訳が頭の中をよぎった。
 曰く、空から人が降ってきたと。
 まさか犯人は、空が飛べるのか――?
 追い打ちをかけるように、客のテーブルにいたマコトが大声を出し、こちらに駆け寄ってきた。
「ユキヤさん! アミさん! 解けました! 犯人の正体がわかりました!」
 マコトがメモ用紙を目の前に突き付ける。俺は口の利けぬまま、それを見つめる。一面にアルファベットが踊っている中、丸で囲まれた右下隅に、とある単語が綴られている。
「"fourth"が解読の鍵でした」マコトの興奮は収まらない。「"Jonah Lee"のそれぞれのアルファベットをその順番に四つずらすんです。AならEに、BならFに。"Jonah Lee"は"Nsrel Pii"に。これを並べ替えると」

 マコトの導いた単語はある幻獣の名前だった。
 北欧神話でオーディンが愛したと言われる八本脚の馬。天をも駆けるその幻獣の名前――"sleipnir"だった。

 

 


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