『アントニオ猪木をさがして』を見に行きました。

事前に口コミなどで映画の評判を見ていると「プロレスの映像が少ない。」「ファンとして見ると内容が浅い。」なんていう感想を見つけましたが、私が見た感想としては、そんなことありませんでした。

濃いすぎる！複雑すぎる！

ただ、映画の感想ってネタバレになるから、あまり書けないんですよね。

ここから下の文章は、ちょっとネタバレになるかと思いますので、そこを理解されて読んで下さい。

以下、ネタバレ注意！

一言で感想を言うなれば「色んな視点で見れる映画だな～」と思いました。

一番の大きな括りとしては、アントニオ猪木の人生を題材にした『馬鹿になれ』とか『迷わずいけよ』というタイトルのビジネス書だなと思いました。そういう映画としても見れます。

この場合、試金石がありますから。試されますよ？これに乗れるか？映画館のマナーを守るか？です。

もう一つは、アントニオ猪木のマニアックなエピソードを紹介する記録映画としての見方。

勿論、各種のプロレスの書籍や映像ですでに知っているエピソードもあったんですけど、私としては、このエピソードのそこを掘り下げるか！という驚いた話もありました。

・ブラジル時代の話。こんな人をよく発掘したなと。あと、私はプロレススーパースター列伝とかの影響か、コーヒー農場でスカウトされるようなイメージを抱いてましたが、実際は１年半でコーヒー農場の契約は終わり、猪木17歳のスカウト時はサンパウロの市場で働いていたんですね。

・ペールワン一族と猪木の関係の話。夢があるよね。

・新日本道場の猪木のパネルの話。やはり棚橋選手は逸材です。

・イラクの人質解放の話。確かに一番のダーです。

このような私の知らないエピソードも多くありました。ただ、プロレスラーとしてのエピソードは少なかったです。

まだまだこの映画の見方は他にもあって、もう一つ思ったのは、色んな人の色んなアントニオ猪木の受け取り方を楽しむ映画だなとも思いました。

プロレスラー、関係者、ファン。ナレーションの福山雅治のエピソードすらありますから。

あ、そうなんですよ。映画の中にちょいちょいそういう遊び心もあります。この福山雅治のエピソードとか、田口選手とか後藤選手の出演パートとか、猪木問答をこれでもかとフューチャーするところとか、遊び心だな(笑)と思いました。

猪木問答の蝶野の顔がアップになる瞬間で、会場では笑いが起きていました。やり取り自体はクスクスで、蝶野の怪訝そうな表情でドッとなるんだなと。

まあ、それはさておき。

そんな感じで、映画の見せ方自体も、ドラマパート、インタビュー、講談、昔の映像など、多種多様です。

色んな人の色んなスタイルのアントニオ猪木のしがみ方を楽しめます。共感もあるし、驚きもあるし、感心もあるし、落胆もある。

くりーむしちゅーの有田さんがよく話す【熊本の興行で猪木を見ようと楽しみにしていたのに欠場。メインが木村健吾だったエピソード】は、youtubeや他の媒体で聞くと普通にエピソードとして面白いのですが、映画の大スクリーンで見ると「こんな大画面でそんなしょうもない笑いをとろうとするなよ！」というミスマッチ具合を面白く感じます。

あとの他の見方としては、棚橋選手視点で見る見方もあります。この見方がプロレスファンとしては楽しめます。

何と言うか『燃える闘魂ラストスタンド』が、あの猪木問答を起点とする鈴木健三選手の続きのストーリーだとしたら…

『燃える闘魂ラストスタンドが書籍化されるって！』先日、アントニオ猪木の闘病の様子を撮影したドキュメンタリー番組が地上波で再放送されました。これは、番組が書籍化されることに合わせての再放送だったようです。闘道…

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今回の『アントニオ猪木をさがして』は、猪木問答を起点とする続きのストーリーの棚橋選手バージョンなんですよ。

ここはプロレスの部分になるので、深く書きたいです。

先ほど紹介した新日本プロレス道場のエピソードや、猪木問答の裏話で「あ～やっぱり棚橋選手こそ、新日イズムのプロレスを継承する人物だ。何だったら猪木を越えたんじゃないか？」なんて思っちゃうんですけど、最後まで見るとそうとも思えなくなります。いや、そうと思う気持ちも残りますが。

終盤で海野選手と棚橋選手が飲みながら色々と語るシーンがあって、海野選手が自分の夢を語るんですよ。

その瞬間、棚橋選手の非常に苦い表情をした顔が映るんです。

ここが問題のシーンです。

「まだハッピーエンドじゃねぇな。」と感じました。

あとね、オカダ選手が『もし、自分がアントニオ猪木と試合をしたら…』みたいな想像を語るパートもあるんですね。

オカダ選手が語るその試合構成は、面白いんだろうな～と思える試合の作りで、一流レスラーは凄いなとも思うんですけど、同時に何か違和感を感じるんです、これ。

オカダ選手は「猪木さんにプロレスとは何ぞやともっと聞きたかった。」とか語るんです。オカダ選手のパートのみを見れば、非常に夢のある良いインタビューです。

でも、映画内の他のパートでは人間アントニオ猪木に着目していて、そんなにプロレスの話題なんかないわけです。だから、プロレスの話をするオカダ選手が物凄く小物に感じてくるんです。

これを感じるのは私だけでしょうか？いや、意図的な構成だと思う。

猪木を知らない世代のレスラー(オカダ選手の場合は対談もしてますが…)は、あくまで『プロレスの枠として一流』なんですよ。海野選手の夢も、オカダ選手の視点も、あくまでプロレスの枠内に収まる話。

でも、ファンとして猪木を知る世代の棚橋選手は、そのスケールの差を認識しているんです。

故の苦い表情という。そんな意図で差し込まれたシーンのはずです！

映画全体を徹して、プロレスのエピソードが少ないのもここに繋がってるんじゃないかなと思いました。そうだ、今のレスラーとのスケールの差を表現するためなんだ！

でも、腑に落ちないですよ。どう考えても映画の構成として、今の世代のプロレスラーを落とすような作りになっているんです。そんな必要あります？

で、ここからの考察は勝手に私が深く考えすぎているだけかもしれないんですが…

途中でアントニオ猪木が徹子の部屋に出演した時の映像が流れるんです。話が少し逸れますが、製作者はこの貴重な映像をどうしても差し込みたかったんだろな～と感じました。センスとしては紙プロ的な匂いを感じますね。

で、猪木は黒柳徹子からプロレスが八百長だなんだと追及を受けるんですが、猪木は別にショーであることを否定しないんです。「観客論みたいなところも意識しないといけないから次元が高い」みたいな感じのことを言って、徹子の追及を上手く乗り越えるんです。

【ショー】という『虚』と【スポーツ】という『実』を論じながらも、この映像自体が【テレビ】という『虚』であり【黒柳徹子との対談】という『実』である点が興味深い。

また、映画内の他のシーンでも『虚』と『実』がテーマになっているシーンは多い。

それを伏線として捉えると、海野選手が夢を語るシーンも、棚橋選手の苦い表情も、映画を面白くするために演出された台本のある『虚』なんじゃないかと勘繰ってしまうわけです。

思えば、棚橋選手の苦い表情のシーンもカメラワークが作られた感じなんですよ。たまたま撮れた映像じゃない！

で、さらにこれの伏線なんじゃないかと感じるシーンがあって、藤波選手の語るエピソードで、猪木が試合前なのに中継車のスイッチングをしにいくという話があるんですよ。これって、猪木がカメラワークも気にしている演出家の側面もある話で、カメラワークがあるということは『演出ですよ』って示しているのですよ。

こんな感じ。

例えるなら『最後の答えのみ【ア・ン・ト・ニ・オ・猪・木】と想像がつくのですが、他の部分は明確な正解のないクロスワードパズル』を解いているような感じで、色々と考察を楽しめる映画でした。

面白かったです。

最後に、アントニオ猪木に関する過去のブログ記事のリンクも貼っておきます。

『アントニオ猪木と私』燃える闘魂、アントニオ猪木氏がお亡くなりになりました。闘病生活が話題になっていたので、死去のニュース自体にはあまり衝撃はありませんが、格闘技界・プロレス界にと…

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