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この記事は「ジョーカー」の細部について情報をまとめ、検証する内容です。従って結末に至るまでネタバレしています。映画を未見の方はご注意ください。

この記事は「ジョーカー」ネタバレ徹底解説その1の続きです。

アーサーの解雇

1981年10月19日月曜日

HA HA プロダクションの楽屋。皆の話題は、昨日の「ピエロによるサラリーマン殺し」で持ちきりです。

もしランドルが拳銃をアーサーに渡していて、ピエロが目撃されてる地下鉄殺人事件が起きたのなら、周りの人々はもっと明確に、アーサーが犯人だと思うでしょうね。

アーサーが「拳銃の出どころはランドルに聞け」と言ってランドルが心外そうな顔をしますが、実際に寝耳に水だったのかもしれません。

アーサーはクビにされ、荷物をまとめて出て行きます。

出て行くときに彼が殴って壊すタイムカードの時計は、またしても11時11分を指しています。

トーマス・ウェインとトランプ

テレビで、トーマス・ウェインがピエロ殺人事件についてのコメントを述べます。

地下鉄で殺された3人は、ウェイン社のエリート社員でした。

トーマスは事件は「富裕層への反発」であり、犯人は「仮面なしでは人を殺せない卑怯者」だと非難します。「彼らのような落伍者は、ただのピエロだ」と。

トーマスのこの発言は、ピエロに共感する貧困層の人々の反発を招き、ピエロ・マスクによるデモを誘発することになります。

 

トーマス・ウェインを演じるのはブレット・カレンですが、当初はアレック・ボールドウィンが同役をオファーされていたようです。

アレック・ボールドウィンはコメディアンでもあり、テレビ司会者でもあり、トランプ大統領の物真似が得意。彼が同役を降りたのは、トーマス・ウェインがドナルド・トランプを思わせる役だったから、と言われています。

 

大富豪であり、貧困層の自己責任論を説き、政治家に転身しようとしているトーマス・ウェインは確かにトランプを思わせます。役者が似ていたら、もっと露骨にトランプがイメージされていたでしょう。

そうなると、ブルース・ウェイン/バットマンはトランプの息子、ということになってしまうわけですが。

 

そして、トーマスを父と信じようとし、彼に人生の救いを求めるアーサーは、トランプに救いを求める白人貧困層の象徴のようなキャラクターになってくるわけです。

カウンセリングその2

アーサーはラジオで彼のステージ・ネームを聞いたことをカウンセラーに話します。彼は「カーニバルはクラウン・ネームだ」と言っています。

ジャクソン・C・フランク「マイ・ネーム・イズ・カーニバル」はアーサーが解雇されるシーンで流れていました。

ジャクソン・C・フランクは1960年代に活動したシンガーソングライターなのですが、なかなか激動の生涯を送っている人です。

小学生のとき小学校が火事になり、彼は火傷を負いました。そのときに15人もの同級生を亡くしたことがトラウマとなり、生涯を通じて精神障害に悩まされました。

ジャクソンは1965年、ポール・サイモンのプロデュースでレコード・デビューしますが、その直後に統合失調症を発症し、音楽活動からリタイヤしてしまいます。その後も入退院を繰り返し、1999年に56歳で亡くなっています。

ジャクソン・C・フランクは統合失調症だったわけですが、ラジオやテレビで聞いた物事を自分へのメッセージや意味のあるものと解釈するのも、その病気の症状です。

 

アーサーはソーシャルワーカーに「僕はずっと自分が存在するのか疑問に思ってきた」と伝えます。ですが、ソーシャルワーカーはアーサーの話を聞いていません。

「僕の話は聞いてないよね?」とアーサーは言います。「僕はずっと自分が存在するのかどうかわからなかった。でも僕はいる。世間もやっと、気づき始めた」

ソーシャルワーカーはやっぱり聞いておらず、市による予算カットが行われ、面接もこれが最後になることを伝えます。

 

アーサーは「自分が存在するのかどうか」を気にしているわけですが、しかしその訴えさえもソーシャルワーカーは聞いておらず、まるでアーサーが本当に存在しないと彼女は言っているようです。

そして、もしこれが精神病院に入院しているアーサーの妄想なら…11時11分の時計がそのヒントなら…実際にアーサーは今ここに存在せず、ソーシャルワーカーも存在しないわけです。

Pogo'sのステージとスマイル

アーサーはいよいよ、Pogo'sでコメディアンとしてのステージに臨みます。

しかし、緊張したアーサーはステージ上でいつもの笑いの発作に襲われ、喋り出すことができません。

必死で発作を抑えてネタを披露するのですが…そもそもネタ帳見ながらのジョークは受けるはずもなく、アーサーのネタはダダ滑りです。

 

観ている方もいたたまれなくなってくるステージですが、そこからの現実逃避のように、アーサーは客席で微笑んでいるソフィーを見ます。

そこから「スマイル」が流れ出し、アーサーは辛い現実を離れ、妄想の世界に入っていくわけです。

 

「スマイル」は映画「モダン・タイムス」の劇中曲としてチャップリンが作った曲ですが、後に歌詞が加えられ、多くの歌手によって歌われました。

映画で使われたのはジミー・デュランテのバージョン。1893年ニューヨーク生まれの俳優、コメディアン、歌手です。

パンフレット情報で和訳を掲載しましたが、あらためて…

 

Smile, though your heart is aching 

Smile, even though it's breaking 

When there are clouds in the sky 

You'll get by 

 

笑って 君の心が痛んでも

笑って たとえ心が砕けそうでも

空に雲があるとき

君は切り抜けられる

 

アーサーの座右の銘とも言うべき言葉が、「Put On A Happy Face」

アーサーにとって「スマイル」というのは、辛いときにかぶる仮面。本心を押し隠し見えなくするマスクなんですね。

 

このシーンは、アーサーの妄想スイッチが入って、彼の世界が現実から妄想に切り替わる様子を捉えていると言えますね。スマイルが流れ出してから後が、妄想なわけです。

 

ステージの失敗もなかったように、アーサーはソフィーとのデートを楽しみます。

街角の売店で売られている新聞には、「殺人ピエロ逃走中?」の見出しが。記事は殺人者を「ビジランテ(私刑人)」と呼んでいます。

ソフィーは殺人ピエロのことを「ヒーローよ」と言います。まさに、アーサーの願望通りのリアクションですね。

 

犠牲になった3人は、ピエロに暴行を加えた…とは言え堅気のエリートサラリーマンなわけで、そんな彼らを殺した犯人を新聞が「ビジランテ」と持ち上げるのは違和感があります。

ソフィーがあっさりと殺人犯に肩入れするのも考えてみれば変ですね。

このシーンのソフィーは妄想。だから、新聞記事も妄想である可能性が高いです。

となると、地下鉄の殺人事件自体が現実だったかどうか、やっぱり怪しいですね。

 

「デート」から帰ったアーサーは上機嫌でペニーと踊ります。

しかし、ペニーがトーマス・ウェインに出そうとしていた手紙を読んで、アーサーの気分は一変します。

そこには、アーサーがトーマスの息子であると書かれていました。

 

ペニーは30年前、ウェイン邸で働いていた時に、トーマスと恋に落ちたのだと語ります。

ブルースとの出会い

1981年10月20日火曜日。

アーサーは通勤電車に乗って、トーマス・ウェイン邸に向かいます。

通勤客たちの読む新聞は、どれも地下鉄での殺人が一面になっています。

アーサーはトーマス・ウェインが市長選に出馬した記事を切り抜きます。

 

ウェイン邸の柵越しに、アーサーはまだ少年のブルース・ウェインと話します。

これはジョーカーとバットマン。後の宿敵同士の出会い…ということになりますが、この映画の時空でそんな「アメコミ的なこと」が本当に起きるのかどうかはわかりません。

 

アーサーはブルースの口角を指で引き上げ、笑わせようとします。

この時はまだ両親を失う悲劇の前ですが、ブルース・ウェインは笑わない少年です。富豪で忙しい両親のもとで、寂しい生活を送っているのかもしれません。

指で口角を引き上げたり、口を描かないと笑えない…という点で、アーサーとブルースは似たもの同士なんですね。

 

執事のアルフレッドはアーサーがペニーの息子と知るとすべてを察して、「イカれ女だ」と切って捨てます。

ペニー・フレックの名前は、ウェイン邸では極めて有名みたいですね。

ペニーの入院

アーサーが家に帰ってくると、もう日が暮れています。ウェイン邸への往復は、結構時間がかかったみたいですね。

 

アパートには救急車がやって来て、ペニーが運ばれていくところ。

病院で、ギャリティとバークの二人の刑事から、アーサーは何が起こったかを聞くことになります。

二人の刑事は地下鉄殺人の件でアーサーに事情を聞くために訪れ、それにショックを受けたペニーは心臓発作を起こしてしまいました。

 

二人の刑事はアーサーに、突然笑い出すのは本当に病気なのか、ピエロの演出なのかと尋ねます。

アーサーは答えません。こんなに辛いのに演出だって…?という感じではありますが、実際のところ本当にどうなのかはわからないんですよね。

アーサーは「信頼できない語り手」なので。更に、笑いのセンスが決定的におかしい人なので。

突然笑い出すのも、実は面白いと思ってやってるという可能性もあります。

 

その会話の直後、アーサーは自動ドアに激突し、出口のドアの前で四苦八苦する…というコントをひとしきり演じます。

これも、本当に間違えたのか、わざとやってるのか曖昧ですね。病気がピエロの演出か、という話題の直後にこれをやるのは、示唆的でもあります。

アーサーのテレビデビュー

病室で、ソフィーと共に母親に付き添うアーサー。実際はソフィーはいないのですが。

ソフィーがコーヒーを入れに行って席を外した後、テレビのマレー・フランクリン・ショーで、昨夜のアーサーのPogo’sでのネタのVTRが流れます。

それは、盛大にスベっているアーサーを嘲笑うためなのですが。

 

このシーンは大きな転機と言えますね。

マレー・フランクリン・ショーみたいな全国ネットの人気番組で、Pogo’sのような場末の無名コメディクラブのライブをいきなり放送するなんて、かなりあり得ない。

その上に、何人もいるコメディアンの中で、唯一放送されるのが番組に強い憧れを抱いているアーサーだというのも。

 

普通に疑いなく観ていても、ここで「ん?」と違和感を感じるシーンだと思います。そういう引っ掛かりを作ってあるのは、わざとでしょうね。

あえてそういう疑いを起こさせておいて、でもその後は特に怪しい感じを出さずに進めていく。

また、ソフィーのシーンを妄想だと明かすことで、こっちからは疑いが逸れるんですよね。

トーマス・ウェインとの対話

1981年10月21日水曜日。

ウェイン・ホールでトーマス・ウェイン主宰の慈善イベントが開かれ、ホールの前にはピエロの面を被った人々が大勢集まって、手に手にプラカードを掲げています。

“Kill The Rich”(金持ちを殺せ)、“We Are All Clown”(俺たちはピエロだ)、”Clown For Mayer"(ピエロを市長に)などのスローガン。

自分の行動が人々に支持され、ムーブメントを巻き起こしていることに、アーサーは満足そうです。

 

警官と衝突したりしているデモの群衆を尻目に、アーサーはあっさりとホールの中に入っていきます。これも若干嘘くさいですね。

どうやって入手したのか、アーサーはポーター姿で誰にも怪しまれず中へ。

劇場ではチャップリンの「モダン・タイムス」が上映され、正装した上流階級の人々がゲラゲラ笑っています。

これまた、上映されている映画は「アーサーの趣味」ですね。地下鉄殺人の時のシナトラの歌と似ています。

 

「モダン・タイムス」はチャップリン監督/脚本/製作/主演の1936年のサイレント映画(音楽入り)です。チャップリンは音楽もやっていて、主題歌「スマイル」の作曲をしています。

「モダン・タイムス」が「ジョーカー」に登場するのは「スマイル」からの繋がりとは思いますが、機械的な流れ作業に翻弄されたチャップリンが発狂して精神病院に送られる…なんていうシーンも含んでいます。

 

トイレで、アーサーはついにトーマス・ウェインとの対面を果たします。

トーマスが語るのは、「きみは養子だし彼女とは寝ていない」「うちで働いていた時、彼女はきみを養子にした」「彼女は逮捕され、州立病院に拘禁された」ということ。

トーマスが父親でないばかりか、ペニーも母親ではないということをいきなり突きつけられてしまいます。

 

アーサーはトーマスの子でもなければペニーの子でもない…彼は何者でもないということ。

「ずっと自分がいないような気がしてきた」アーサーにとって、自分が何者でもないと突きつけられることは大変なショックであるはずです。

 

アーサーは「僕が欲しいのは温もりとハグだ」と迫りますが、トーマスにはぶん殴られ、「息子に近づいたら殺す」とすごまれるだけに終わります。

温もりとハグどころじゃない、完全な拒絶。

 

このトイレのシーンから、アーサーの自宅のシーンに切り替わるのですが、ここでアーサーが同じポーズをしている。つまり、トーマスとの対話はアーサーが自室で体験した妄想ってことをほのめかしています。

アーサーは冷蔵庫の中のものを取り出して、その中に入ってしまいます。

その間に電話が鳴っていて、ギャリティ刑事が電話をかけて来ています。ということは、トーマスとの対話が妄想で、ギャリティ刑事は現実…?

ってことは、銃撃事件は現実ってことになるのかな。

 

ただ、3人が通り魔的に殺された重大殺人事件の捜査にしては、刑事たちの行動は悠長すぎる気もします。電話をかけてきて、出なけりゃ何もしないとか…。

実は、彼らがアーサーを調べている理由は、病院で拳銃を落とした一件だけなのかもしれません。

アーサーは過去に暴力行為で精神病院に強制収容されています。であれば、もとより要注意人物になっているでしょう。

 

そこからまた画面が切り替わり、時刻は朝になっていて(1981年10月22日木曜日?)、アーサーはいつのまにか冷蔵庫を出てベッドで寝ています。

また電話が鳴っていて、それはマレー・フランクリン・ショーのスタッフからの電話です。アーサーを番組のゲストに招くという嘘みたいな(!)オファーなのです。

出番は次の木曜日。ショーは毎週木曜日に放送で、生放送なので、合ってますね。

しかし、番組の出演者を一週間前に決めないですよね…。

これ、アーサーはまだ冷蔵庫の中にいるのかもしれないですね。

アーカム州立病院

アーカム・アサイラム(アーカム精神病院)はバットマン・シリーズに登場するおなじみの舞台です。

「アーカム」はH・P・ラブクラフトの作品に登場するマサチューセッツ州の架空の地名からとられています。

魔導書ネクロノミコンが所蔵されているミスカトニック大学が存在する、クトゥルー神話の舞台となる街です。

そこから名前をもらった不吉なアーカム精神病院は、バットマン・シリーズにおいて捕縛されたヴィランが送られる場所です。バットマン・シリーズではヴィランは大抵気が狂っているからです。

 

アーサーはここで、30年前のペニーの記録を見ようとします。

黒人の資料係にアーサーは、「ある人たちにひどいことをした」「悩むかと思ったがスッキリした」と話します。

資料係はアーサーがペニーの息子と知ると記録を隠そうとしますが、アーサーはふんだくって逃げてしまいます。

 

ペニーの記録は、ベンジャミン・ストーナー医師によって書かれています。

ベンジャミン・ストーナーという名前はDCユニバースのコミックに出てきます。映画と同じくアーカム精神病院に勤める精神科医であり、ヒーローであるドクター・フェイトに敵対するヴィラン…みたいです。

 

ベンジャミン・ストーナー医師の記録によると…

ペニー・フレックは妄想性精神病であり、自己愛性障害だった。

息子の健康を危険に晒した罪で有罪になった。

息子への身体的虐待、ネグレストが見られた。

男が暴力を振るうのを黙認し、自身も暴力を振るった。

 

そして、アーサーは養子であり、身元も名前も不明の遺児でした。

ペニーが逮捕された時、アーサーはヒーターに縛られ、頭部にひどい外傷を負っていました。アーサーの脳と神経の障害は、この怪我が原因でした。

もっとも愛する相手と思っていた母親が、自分を痛めつけ現在の惨状を作り出した張本人だった…!

こんなショッキングな事実は、そうそうないですね。

 

アーサーはあたかもその場にいるかのように、若き日のペニーの尋問を眺めます。

「あの子は泣かない」とペニーは言います。「いつも笑ってる。ハッピーな笑顔で」

そのシーンが現実なのか、アーサーがただ想像したものなのか、わからない。それでも、アーサーにとってはそれは等価ですね。

彼の主観の上では、事実だから。ソフィーとのデートや、他の様々なことと同様に。

妄想の崩壊

大雨の中、アーサーはアパートに帰ってきます。エレベーターでソフィーの「自殺ジェスチャー」を思い出したアーサーは、彼女の部屋へ向かいます。

ソフィーの部屋の中の様々なものに、アーサーは触れてみます。まるで初めて見たように。前に、銃撃事件の後に訪れていたはずだけど…。

ソファに座っているアーサーを見つけたソフィーは、怯えきったようすで出て行くように懇願します。

「確かアーサーでしょ?」「お母さんを呼ぶ?」「娘が寝ているの。お願いだから出て行って」

ここに来てようやく、アーサーはソフィーと過ごした日々の記憶が作り物に過ぎなかったことに気づきます。

 

ソフィーとつきあっているという妄想は、現実のソフィーと出会ってしまうことで崩壊しました。

これまでは、アーサーは巧妙に現実のソフィーと会ってしまうことを(無意識に?)避けていたのでしょう。

今回、ペニーについて知ったことが衝撃的すぎて、アーサーはいつもの注意深さを失ってしまった。本当にソフィーの部屋に行くという間違いを犯してしまった。

逆に言えば、そのような決定的な矛盾に直面する事態にならない限り、アーサーの妄想は崩壊しない。現実と変わらない体験として、続いていくということが言えます。

 

「ジョーカー」ネタバレ徹底解説その3に続きます。

 

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"My Name Is Carnival"収録。

 

映画に使われたバージョンの”Smile"。

 

チャップリンの名作。