Logan Lucky (2017 アメリカ)
監督:スティーブン・ソダーバーグ
脚本:レベッカ・ブラント
チャニング・テイタム、アダム・ドライバー、ダニエル・クレイグ、ライリー・キーオ、キャサリン・ウォーターストン、ヒラリー・スワンク
①父娘ムービーでした!
予告編では犯罪映画の部分ばかりがクローズアップされていて、全然気づかなくて嬉しい誤算だったんですが、これは父と娘の絆を描いた父娘ムービーの1本でした!
父娘ムービーというジャンル…というのがあるかどうか知らないですが。
どっちかというとボンクラな父親と、しっかりしていてけなげでかわいくて、そして何よりパパのことが大好きな娘がいて…っていう映画のことです。
最近ではタイトルも似てるけど「ローガン」とか…「ジャック・リーチャー Never Go Back」とか…古くは「コマンドー」とか。
(もっと適切な例があるような気がしますがなんかそんな映画ばっかり思い出します)
この映画は別に娘と一緒に逃避行したり、娘と一緒に悪と戦ったりはしません。
基本的に娘の日常は平和なのでご安心を。別れた妻と、なんかいまいちいけ好かない新しいパパ(でも悪い奴ではない)と暮らしてます。
父親はチャニング・テイタム演じるジミー・ローガン。
娘の親権は母親にあって、今も建設作業員の仕事をクビになったばかり。
でぶっとした大柄なスタイル含めて、全身からいかにもなボンクラ感を醸し出しています。
でも娘サディはそんなパパのことが大好き。(←ここ重要)
ストーリーの主題は別に娘のことではなくて、ジミーとボンクラな仲間たちが繰り広げる一発逆転の金庫破り。そこへ向けてドタバタしながら計画を進めていくさまが笑える楽しい映画なんだけど、その合間合間に、コンテストへ向けて練習におしゃれに余念のないサディの日々が差し挟まれます。
ジミーにとって、サディは頑張るエネルギーの元なんですよね。別にそのことを声高に言ったりはしないんだけど、とてもよく伝わる。
頑張るって言っても、金庫破りなんだけど。
サディはまだ10歳で幼いんだけど、いかにも現代の女の子なんですね。
その辺、ウエストバージニアの田舎もんで、カントリーとビールが大好きな父ジミーとは好対照。
ジミーの妹で美容師のメリーにいろいろおしゃれを手伝ってもらって、バチバチのメイクでリアーナの「アンブレラ」を歌うの!と張り切ってるサディ。
そのようすがまたかわいいんだけど、でもそういう彼女の現代っ子ぶりが、実は後半のある展開の伏線になっているのです。
発表会で娘に泣かされるという、パパ冥利につきるような展開が待ってます。
かなり私情が混じってる感があって申し訳ないですが…いや、でもほんといいシーンですよ。
②王道クライム・ムービーです!
いきなり脇道の父娘シーンのことばかり興奮して書いてしまいましたが、この映画は基本娯楽度満点の笑えて楽しいクライム・ムービーです。
サーキット場の地下金庫に集まる大量の現ナマをぶん取るために、少しずつ仲間を集めて行って、計画を練り、様々なアクシデントをすり抜けながら成功を目指していく。ワクワクして見られる王道娯楽映画になっています。
ぬぼっとしたブルーカラーとか、いかにもバカそうな貧乏白人ばかり出てくるので基本ゆるいムードなんだけど、進めていく作戦は結構緻密で抜かりないのが面白いんですね。
刑務所というアリバイを上手く利用して、不可能犯罪を完成させようとする、結構本格的なミステリーになっています。
でも、それを進めているのが「華麗な犯罪のプロ」とかでは一切なく、本当に貧乏でせっぱつまった田舎者たちばかり、というのがミソ。
NFLのスターになるはずだったのに、足に傷を負ってびっこになり、離婚し、建設現場もクビになって電話も止められた兄ジミー・ローガン。
イラク戦争に行って片手を失い、片手で華麗にカクテルを作るバーテンの弟クライド・ローガン。
のっけから刑務所に入っている、元金庫破りのジョー・バング。
ジョーの弟で間違った単語ばかりで喋る、バカ兄弟のサムとフィッシュ。
みんな気のいいバカたちなので見ていて本当楽しいんだけど、でもみんなある面では社会の犠牲者たちとも言える。
社会のどん底にいて世間からバカにされ、軽く見られている彼らが、いかにして大きなことをやってのけて、金持ちに一泡吹かせるかという、華麗な逆転劇にもなっているんですね。
③役者がみんな素晴らしい!
出てくる人たち、本当にみんなとても良かったです。上手いとか上手くないとかじゃなく、みんな楽しそうにイキイキと演じてる。
特にダニエル・クレイグですね。ジェームズ・ボンドの渋いイメージが強かったけど、ヘラヘラしたタトゥーだらけの陽気な犯罪者を実に楽しそうに演じています。こういう明るいチンピラ役がこんなに似合うとは思わなかった。
それにアダム・ドライバー。戦争帰りで障害者になってしまって少しひねてる、でも基本的に兄貴を信じてるピュアな弟を、ぬぼーっとした存在感で見事に演じてます。
今回デカイですね。「パターソン」のときはそんなにデカイ印象じゃなかったけど。「沈黙〜サイレンス」のときはガリガリでしたね。役作りをやり込むタイプなんでしょうか。
「フォースの覚醒」で初めて見たときはマスクとったときのあまりの馬面にびっくりしたけど、カイロ・レンもすごく良かったし。今後ますます楽しみな役者さんだと思います。
マッドマックスでケイパブルやってたライリー・キーオもいいし、最後の方だけ出てくるヒラリー・スワンクも意外といい。
それにもちろん、サティの子も。
イヤな奴役の人も含めて、みんな何のかんの言って憎めなくなるような、非常に心地よい空間を作ってくれています。
ある種、ファンタジーな世界観なんですね。彼らがいるこの世界に、ずっと浸っていたくなります。
世界観が魅力的な映画。何度も観たくなる、愛すべき作品だと思います。