■横浜国立大学(国立・横浜市保土ヶ谷区)
ミナトヨコハマ・・・らしさを全く感じさせない、うっそうと茂った密林の中にあるキャンパスだ。
ここを訪問することは散歩ではない。サバイバルだ(言い過ぎ感)。
最寄り駅は最近開通した相鉄線・羽沢横浜国大駅だが、やはりJR横浜駅からバスで岡沢町停留所という昔ながらのルートをお勧めしたい。
羽沢駅だと裏門から入ることになるので、いまいち高揚感が感じられないんですよ。
というわけで、岡沢町停留所。
ずんずんと高みに登っていく階段状のウッドデッキと、花と緑のゲートの連なりが出迎えてくれる。
登った先はまさに密林。熱帯樹ではないけれど、リス(かモモンガ?)らしき小動物もいるぐらいだ。
写真には撮れなかったが、まちがいなくリス(かモモンガ)がいた、と断言しよう。
巨大な岩に刻まれた校名標が、これまた密林感をいや増している。
ベトナムの友好校から贈られたそうだ。
大学名といえば、校名の真ん中に「国立」と入っているのは、ここの大学だけだ。
なんでそんなことになったかというと、戦後に学制が変更されて「新制大学」が誕生した際、3つのグループが「横浜大学」を名乗りたいと希望したためだ。
そのため「横浜大学」は永久欠番となり、3者とも微妙に違う名前にすることで妥協した。
その3グループの一つである「旧制横浜経済専門学校+同横浜工業専門学校+同神奈川師範学校」の旧制官立学校連合は、「横浜国立大学」を名乗ることになった。
ちなみに旧制の専門学校と師範学校は、現在の大学にあたる高等教育機関だ。
そんでもってのこる2つのライバル校は、「横浜市立大学」と「神奈川大学」になったという。
それはさておき、ここのキャンパス、中央にメーンストリートが走り、キャンパス外周を車道が山手線のように楕円を描いて、それを囲んでいる。
平面図で見るかぎり、戦後派の地方国立大としてはオーソドクスな作りなのだが、とにかく起伏が豊かで木々が生い茂っているため、実際に歩くと、非常に強い個性を感じる。
なにやら緑の迷宮、のようなのだ。
メーンストリートも直線ではなく、蛇行しながらすすんでいく。
途中にはすり鉢のように下っていく芝生の中央広場があり、これが絵になる。
キャンパスもいたるところに密林が残され、か細い歩道がその中へ消えていく。
うっかり足を踏み入れようものなら、どうなってしまうのか。不安すら感じさせられる。
とはいえベンチや休憩スペースなど、文明の息吹も豊富なので、遭難の心配はない。
建物は、何ともまあ、うーん、個性的だ。
年季の入った、つるっとした白い校舎がほとんどなのだが、単純な直方体ではなく、そこかしこが出っ張ったり引っ込んだりカーブを描いたりしている。
何ともまあ、普通じゃないんですよ。
かといって、「建築家のこだわり個性派デザイン」というには、ちょっと、それも違う気がする。
だけれども、微妙な面白みも感じさせるものも少なくない。
新しめの建物は、図書館+学生ホールぐらいかな。
建築学科棟は建築学科らしく、他と比べて手が込んでいる(壁面緑化しただけだけど)。
本部棟も、若干手がかけられている(ルーバーがついているだけだけれど)。
あとまあ、割に背が高い建物が多いが、キャンパスの面積は45万平米とかなり広く、余裕をたっぷり取った配置なので、圧迫感は感じない。
学生数も約1万人で、人口密度もそんなに高くない。
建物の配置は起伏が多いため立体的で、階段や見下ろしなど、写真にするとユニークな眺めになる場所も多い。
ちょっとインパクトを感じたのは、工学部棟の排気ダクトとその目隠し?処理だろう。
一瞬、ポンピドゥーセンターかと思った。
一瞬だけだけど。
大通りだけではなく、毛細血管のように広がる小道を歩き回ると、おなかも減る。
メーンストリートの両端に設置された食堂は、どちらもそれほど個性的ではないが、まあそういうものだろう。
そのかわりなのか、生協の大学グッズは結構な充実ぶりだ。
ブレザー用ワッペンなど、よそではあまり見ないものがおいてある。
ところで、この大学を一通り歩いてみれば、きっと誰しもが「山を切り開いて造成したに違いない」と確信するだろう。
ところが、そうではないという。
1974~79年にかけて、市内に点在していた旧キャンパスが順次移転してきたのだが、もともとはこの場所、ゴルフ場の跡地だったそうだ。
そんな場所を「現代の里山」にするべく広葉樹をばんばん植林した結果、現在の姿になったという。
緑を切り開くのも、作り出すのも人間の力なのか。今日一番の驚きだ。
帰りは、いや、帰りこそは裏門から羽沢横浜国大駅へ向かう。
尾根筋を横切る形になる、か細い坂道を登っていく。
交通メモ
横浜国立大学
場所: 横浜市保土ヶ谷区常盤台
JR品川駅から東海道線で20分、横浜駅で下車。バスで約15分。歩くと30分ちょっと。帰りは20分ぐらい歩いて相鉄線羽沢横浜国大駅に出てもいいし、横浜駅に戻って建築散歩や中華街、というのもまたよし。