五輪ファシズムが国を滅ぼす
汚染水問題の国会審議は五輪招致のため、後回し 猪瀬都知事は防災訓練すっぽかしてジョギング
福島第一原発の汚染水漏れは「コントロールされている」とIOC総会で安倍首相は胸を張った。だが、招致への悪影響を気にして国会審議を先送りするなど問題を軽視してきたのが実情で、出口は見えていない。五輪重視の“五輪ファシズム”が、国を滅ぼしかねないのだ。
ブエノスアイレスで開かれたIOC総会に乗り込んだ安倍晋三首相について自民党幹部がこう語る。
「首相はこの1カ月間、ずっと五輪招致でハイテンションになってました。昨年末、政権に返り咲いた頃から、どんな攻勢をIOCにかければ招致できるか、徹底的に調べさせ、水面下でずっと関係者へネゴを重ねていた。今回は絶対にいけるので、恥はかかないと確信し、高円宮妃久子さまらを動員し、自ら演説すると決断したのです」
8月末にクウェートやアフリカのジブチを酷暑の中、歴訪したのも、IOCに影響力のある王族らに働きかけるためだったという。
だが、誤算だったのは海外メディアの報道だ。
「欧米のメディアは連日、シリア問題に次ぐニュースとして『フクシマ・クライシス』と題し、汚染水漏れの詳細を報じ続けた。汚染水漏れを『五輪招致に影響するような大問題じゃない』とタカをくくっていた官邸は慌てふためいた」(政府関係者)
身内の自民党からも“火の手”が上がった。
8月末の自民党の会合で菅義偉官房長官を名指しし、「汚染水は国際問題になっているのに危機感があまりに薄い」と噛みついた。
「菅さんは人前であそこまでこき下ろさなくてもいいじゃないか、と塩崎さんをかなり不快に思っていたね」(自民党議員)
慌てた安倍首相は9月3日、「政府一丸となって解決にあたる」と国費470億円を投じ、汚染水漏れへの対策を行うことを発表。
内訳は凍土方式の遮水壁建設に320億円、現在トラブルで試運転が止まっている放射性物質除去装置(ALPS)より高性能の装置を開発する費用として150億円を充てるという。
だが、「少し遅きに失した」(脇雅史自民党参院幹事長)といわれる始末。
そして目玉対策である「凍土方式の遮水壁」の実効性についても、大いなる疑問が生じた。事故当時、首相補佐官として原発事故対応に当たった民主党の馬淵澄夫・元国土交通大臣はこう指摘する。
「凍土方式は完成まで2年間もかかる上に、工法自体にも問題がある。私は補佐官時代、原子炉建屋を遮蔽するプロジェクトチームの責任者として、4種類の地下遮水壁の工法を検討しました。その結果、『凍土方式』ではなく、チェルノブイリで実績がある、材質が粘土の『鉛直バリア方式』を選定しました。『凍土方式は汚染範囲が大きい場合は困難』という理由で採用しなかった」
だが、今回の凍土方式の遮水壁は、1~4号機周辺の土壌を長さ約1400メートルにもわたって凍らせ、取り囲む巨大なものだ。
そもそも凍結管を入れて土を凍らせる「凍土壁」は永久構造物ではない。
地下水流出を抑えて工事をしやすくするために一時的に設置するもので、長期間、地中の放射性物質を封じ込める目的で使われた前例はないという。
「考案した鹿島建設が細々と実験をし、着工できるか、年内に見極めるはずだったのに、スケジュールが前倒しになりました」(経産省資源エネルギー庁関係者)
元経産官僚の古賀茂明氏はこう言う。
「凍土方式で汚染水を止められる、と言う専門家は一人もいないでしょう。海外のメディアも取材し、そのことをすでに知っているので、安倍政権の対応を評価していないのです」
米紙ウォールストリート・ジャーナル、英BBCは専門家らにインタビューし、「技術的にも政治的にも困難」と報じている。
さらに海外メディアで問題視されたのは、政府や東京電力の隠蔽体質だ。
野党が要請した「衆院経済産業委員会の閉会中審査」も、五輪招致への悪影響を懸念した自民党が早々に先送りを決め、開催のメドはいまだ立っていない。
この対応には自民党国会議員からも疑問の声が続々、上がっている。
「国会閉会中でも審査を開いていれば、『与野党の知恵を結集し、公明正大に汚染水問題に立ち向かう』とIOC総会でアピールできたのに……。逆に安倍政権の隠蔽体質を海外に発信することになり、マイナスになった。了見が狭すぎた」
おかげで、IOC総会を取材する海外プレスの間では「海の汚染で都内の回転寿司は閑古鳥が鳴いている」「東日本の海産物は汚染されている」などのデマが飛び交った。
東京五輪招致委員会の竹田恒和理事長のアピール会見も大誤算だった。
「事前に用意したQ&Aが甘く、あそこまで外国プレスに汚染水漏れをつっこまれるとは想定してなかった」(政府高官)
東電の破綻処理“パンドラの箱”
そして470億円の国費投入という首相の決断が、「東電を破綻処理する」というパンドラの箱を開けかねない事態を招いている。
自民党の河野太郎副幹事長がこう指摘する。
「事故処理費は本来、東電が負担すべきもので、政府が汚染水対策に国費を投入するのだったら、その費用を東電に請求するのかどうかをはっきりさせる必要があります。当面の肩代わりで将来返済を東電に求めるものなのか。それとも、東電を破綻処理し、責任を取らせた上で、国が事故収束に責任を持つのか、ハッキリさせるべきです」
もはや当事者能力がない東電は赤字続きで、借入金総額は3兆円超に上る。
だが、約70行の金融機関が融資を継続中だ。
「7月下旬に汚染水の流出が発覚し、複数の金融機関が10月に借り換えの期限がくる東電への800億円の融資を貸し渋っていた。その最中、首相は河口湖でゴルフをしていたが、『目の前の富士山が噴火したような惨事なのに……』と東電の銀行団は頭を抱えていた。だが、国の支援が決まると、融資継続すると銀行団は豹変した」(東電関係者)
国民的な合意がないまま、泥縄式に東電へ国費が投入されると、税金負担は際限なく膨張する。
「今までは『東電を破綻させないで対応する』というスキームできたが、東電が無傷のまま、事故処理費を納税者にツケ回すのはおかしい。東電を破綻処理すべきです」(河野氏)
「復興」を掲げ、東京五輪招致のプレゼンをぶった安倍首相は間違いなく、汚染水漏れを深刻化させている“A級戦犯”の一人だろう。
だが、やるべき仕事をきちんとせずに五輪招致にのめり込んだのは、猪瀬直樹・東京都知事も同じ。
関東大震災から90年にあたる9月1日の「防災の日」、訓練に参加せず、ニューヨークのセントラルパークでジョギングをしていた。
「IOC総会のため、8月31日に日本を発ち、現地・ブエノスアイレス入りしたのは日本時間の2日夜。『防災の日』の訓練に参加してからでも間に合ったはず」(自民党都議会議員)
首相と東京都知事がそろって五輪に浮かれ、汚染水問題、震災対策を軽んじるようでは、福島の復興はおぼつかないだろう。 横田 一/本誌取材班
(週刊朝日 2013年9月20日号配信掲載) 2013年9月11日(水)配信