それに、ぼくも、そのうち、数字しかおもしろがらないおとなと、同じ人間になるかもしれません。それだからこそ、ぼくは、えのぐ箱とエンピツを買ったのです。
―サン=テグジュペリ『星の王子さま』(内藤濯訳、岩波書店、2021年)
 

(画像1 'Rock with you' MVで使用された小道具。
画像の引用元は記事末尾にまとめて記載します。)
 
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今回はSEVENTEENの
POWER OF LOVEプロジェクトにおける
ジョンハンの役について
書いていきます。
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※この記事はこちらの記事の続きです。

 

※考察をはじめから読むにはこちらをご覧ください。

 

 

《JEONGHAN/王子さまの心を取り戻した現代の「ぼく」》
(SEVENTEEN 'Rock with you'MVよりスクリーンショット。絵を描くジョンハン。MVは後ほど引用します。) 
 
 前回の記事でも触れたように、POWER OF LOVEプロジェクトのクライマックスとなった‘Rock with you’には、サン=テグジュペリが亡くなってからおよそ八十年後の現代の世界が描かれているのではないかと考えられます。
 
 これまでの記事では「サン=テグジュペリの生涯や作品に登場する人物たち」と「POWER OF LOVEプロジェクト作品におけるメンバー」との重なりを指摘する考察を行ってきましたが、ここからはSEVENTEENオリジナルの物語が展開していきます。
 
 'Attacca'のコンセプト・トレーラーや'Rock with you'のMVの街や衣装を見る限り、おそらく、この現代の世界では、前世的な世界で離れ離れになってしまったサン=テグジュペリと僚友たちや、王子さまと「ぼく」や キツネ、また、別の国の飛行士やヘビなどそちらの世界では彼らと敵対していた者たちが、皆それぞれ現実世界の人間として暮らしています。
 ある者は絵を描き、ある者は空を眺め、またある者はバイクに乗りながら…'Second Life'(2019)や'Heaven's Cloud'(2021)の歌詞の中で想像されているような新しい人生の中で、互いに「知らない人」として生きているのだと思います('Second Life'は2019年の曲ですが、プロジェクトが緩やかに始まったと思われる2020年のオンラインファンミーティングでも歌われていました)
 
 そこへ、前回お話ししたように'Rock with you(2021)'のジュンが、自分たちが互いに大切な存在であったことを思い出すための目印として白い風船を放ちます。
 そして、彼らは再び巡り合い、一緒に歌い踊り世界中を飛び回る仲間となっていきます。

 

SEVENTEEN 'Rock with you' Official MV

 背景に雲が広がっているガラス張りのエレベーターのような部屋以外は、ファンタジーの世界というより私たちが暮らしているリアルな世界のように見えます。現実的な衣装や小物の中に少しずつ、ファンタジーの要素や、前世的な世界での役割を表すモチーフが見え隠れしているような気がします。


 この現代の物語の中で、ジョンハンは、王子さまの生まれ変わり、というか、王子さまの心を取り戻した「ぼく」(大人になった「ぼく」と、子どもの頃の「ぼく」が融合したもの)の生まれ変わりを演じていると考えられます。そして、それはすなわち、サン=テグジュペリの生まれ変わりでもあります。
 
 これはちょっと複雑な役ですが、そう思う理由をいくつか挙げながら詳しく説明していきたいと思います。
★・ ・ ・ ・ ・ ★ ・ ・ ・ ・ ★
 
①ディエイトからのバトン

 考察Part2でお話ししたように、POWER OF LOVEプロジェクトにおいて王子さまの役はディエイトが務めています。

 そして、ジョンハンは、プロジェクト中の作品において、ディエイトが中国で活動していた期間にはその役を代理で行い、また、二人が揃っている時には二人の重なりを強調するようなカットや振り付けを任されているように見受けられます。

 

 二人の重なりをいくつか見てみましょう。

 

(1) Rock with youの振り付け

(SEVENTEEN 'Rock with you' MVよりスクリーンショット)
(下に引用した'Rock with you' Comeback Showの動画よりスクリーンショット)

SEVENTEEN 'Rock with you' Come back Show

 

 まず、‘Rock with you’のダンスパフォーマンスについてです。

 

 ジョンハンは、‘Attacca’のカムバック期間中、‘Rock with you’のリフトの部分で、ディエイトの代わりを務めました。

 

 ‘Attacca’のカムバック期間はディエイトの中国での活動期間と重なっていたため、歌唱や振り付けにおけるディエイトのパートはメンバーたちが少しずつ補っています。しかし、中でもこのリフトは特に印象的なパートであり、王子が空に昇ることを表すかのような重要な部分です。

 

 歌う順番や声の高さ、ダンスの動線など様々な点を考慮して決めるものだとは思いますが、原作小説で王子さまの特徴として繰り返し語られる「金髪」のジョンハンを、この重要なディエイト(王子さま)のパートに配したことには、何か意味がありそうです。

 

 ※考察Part2でも触れましたが、この期間中、金髪なのはウジとジョンハンだけで、他のメンバーはまるでそれを目立たせるかのように暗い髪色に揃えています。

 

 また、ジョンハンがディエイトから何かを託されたことを強調するかのように、13人揃っているオリジナル・バージョンの振り付けには、ディエイトがジョンハンの肩をぽんと軽く叩く振り付けもあります(下の動画の00:20のあたりをご覧ください)。

 

SEVENTEEN 'Rock with you' Choreography Video

 

(2) Golden Disc Awardsの‘Fearless’

  次に、第35回Golden Disc Awardsでのパフォーマンスについてです。第35回は、2021年1月9日、10日にオンライン開催されました。SEVENTEENが、『星の王子さま』の物語を暗示したと思われるオンラインコンサート'IN-COMPLETE'を開催したのと近い時期です('IN-COMPLETE'は1月23日に開催)。

 このステージでは、‘Fearless(2020)’と‘Left & Right(2020)’が披露されました(これら2020年の曲とプロジェクトとの関わりについては、考察Part7~8.5に書いてあります)。

 

 ‘Fearless’には、ジョンハンがダンサーさんたちが作った階段を駆け上り、メンバーたちのもとへ飛び降りるとても緊張感のあるパートがあります。

 

 下の動画の3:50から4:38のあたりをご覧ください。この日のパフォーマンスにはジョンハンが飛び降りた直後にディエイトのソロダンスパートが特別に設けられています。まるで飛び降りたジョンハンと入れ替わったかのようにスムーズに映像が切り替わり、ディエイトが倒れた状態から目覚めたように踊り始めます。

 ここではジョンハンの「死」→ディエイトの「生」のような順番になっており、役割が逆ですが、二人の重なりや交代のイメージは確実に感じられます。

 

第35回 Golden Disc Awards SEVENTEEN 'Fearless' + 'Left& Right'

余談ですが私は'Left & Right'ではこの日のアレンジが一番好きです🎺🥁

 また、落ちた後に水の音がして空から海に落ちたようであるのもポイントだと思います。王子さまの旅立ちにも重ねられることがあるサン=テグジュペリの最期は、偵察機で飛行中に撃たれ地中海に落ちる、というものであったことが推定されているからです。そして、考察Part1で触れたように、それが判明したきっかけは、彼の死後何十年も経った後に海から彼のブレスレットが見つかったことでした。ブレスレットは『星の王子さま』の出版社が彼に贈ったもので、その出版社名と彼の妻の名前が刻まれています。原作小説の『星の王子さま』は王子さまが空に飛び立って帰らないまま終わりますが、このニュースは、王子さまがその後空から海へ落ち、海から地球に帰って来たというイメージを生みました。
 

(3)‘あいのちから’MV

 三つ目の重なりが見られるのは、プロジェクトの最後を飾った曲‘あいのちから’のMVです。

 ジョンハンとディエイトが手を繋ぐ場面があります。異なる時空を繋ぐ扉のような、鏡のようにも見える四角い窓を挟んで二人は向き合い、手を伸ばします。

 これはディエイトが中国へ行く前に撮影されたものですが、この曲のリリース時にはディエイトは中国で活動中であり、ファンの目に、「遠くに居る今もディエイトと繋がっている」「もうすぐまた会える」というメッセージとして映ることが想定された場面だと思われます。

 ディエイトと関わるこのメッセージ性の高い場面にジョンハンが選ばれているのは、やはり偶然ではないような気がします。

 
(SEVENTEEN ‘あいのちから’MVよりスクリーンショット。)
SEVENTEEN 'あいのちから' Official MV

 

 このように、プロジェクト中の作品では、ジョンハンとディエイトの重なりや繋がりが繰り返し強調されているように感じられます。
 これだけでも「ジョンハンも王子なのでは?」という気がしてきますが、別の観点からも見てみましょう。

 

②海から帰還
 先述の通り、王子さまやサン=テグジュペリには、物語内部に描かれたものや作家本人の意図した部分ではありませんが伝記情報から、「海から帰って来た」というイメージがあります。
 
 'Attacca(2021)' Op.2のコンセプト・フォトを思い出してください。
ジョンハンとウジが海から上がって来た人魚のように見える写真がありました。二人の手首にも注目です。
 
(画像2, 3)
 
  片腕を伸ばしたポーズにより、手首のブレスレットが強調されているようにも感じられます。海から発見されたブレスレットが「王子の帰還」のイメージを持っていることは、先に述べた通りです。また、実際のブレスレットも銀の鎖にプレートが付いているだけのシンプルなデザインで、ジョンハンやウジの付けているものに近いと言えます。
 握りしめているガラス玉が何を表しているかについてはいまひとつ自信がないのですが、球体であることからlove cloudの風船と同じイメージか、 王子さまそのものを表す星やダイヤモンド、あるいはバラに被せたガラスの覆いなどを思わせるもの、いずれにせよ、前世から持って来た記憶の欠片のようなイメージなのかなと思います。
 
 Op.2の写真ではボーカルチームは全員海にいますが、目を閉じ、このポーズを取っているのはジョンハンとウジの二人であり、'Attacca'のカムバック期間中金髪だったのもジョンハンとウジだけです(コンセプト・フォトではエスクプスも金髪ですが、彼の役は考察Part8でお話しした通り王子さま自身でもあるサン=テグジュペリなので特に矛盾はありません)。
 
 ウジも同じような役割を担っていることについては次の記事で書きたいと思っていますが、いずれにせよ、ジョンハンが、「王子さまの生まれ変わり(時を経て地上に帰って来た王子さま)」を表現しているということは、この写真からも十分あり得そうです。
 
 
③楽しそうに絵を描いている
(上の画像は‘Rock with you’MVよりスクリーンショット。下の画像はMVのオフショット[画像4])
 
 次に'Rock with you'のMVのジョンハンを見ていきたいと思います。
 
 'Rock with you'のMVでは、ジョシュアが信号機に腰かけて歌い出し、ジュンが白い風船を放ちます。それがジョシュアの居る交差点にも届いたかと思うと、きらきらと輝く眼差しでキャンバスを見つめ、楽しそうに絵を描くジョンハンが登場します。
 
 タイトルや曲調から、また、SEVENTEEN自身の職業から、楽譜を書く、ギターを弾く(コンセプト・トレーラー)、キーボードのそばに居るなど、ロックや音楽に関わる行動をとっているメンバーがいるのは頷けます。
 しかし、この、絵を描くという行動は、何のために取り入れられているのでしょうか。
 
 私は、これもやはり、『星の王子さま』のイメージから来るものではないかと思います。「絵かき」というのは、『星の王子さま』の語り手である「ぼく」が、子どもの頃に諦めた職業だからです。
 
 『星の王子さま』は、「ぼく」が子どもの頃に描いた絵の話題で始まります。
('LE PETIT PRINCE'[SAint-Exupery, Edition Gallimard, 1946]の本編一ページ目。'Bittersweet'のハットや、'Rock with you'のドミノのような振り付けで完成する形はこれなのでは…?と思います。)
 
 「ぼく」は、六歳の時、原始林のことを書いた本を読んで興味を持ち、ジャングルの中でのできごとを想像して人生で初めて絵を描きました。それはゾウを丸のみにしたウワバミの絵だったのですが、大人たちには帽子の絵に見えてしまいます。そこで、「ぼく」は大人たちにわかるように、ウワバミの中身も描いて見せます。すると、今度は、ウワバミの絵なんかやめにして地理と歴史と算数と文法に精を出しなさいと言われてしまいます。
 
('LE PETIT PRINCE'[SAint-Exupery, Edition Gallimard, 1946])
 
 ぼくが、六つのときに、絵かきになることを思いきったのは、そういうわけからでした。ほんとに、すばらしい仕事ですけれど、それでも、ふっつりとやめにしました。第一号の絵も、第二号の絵もうまくゆかなかったので、ぼくは、がっかりしたのです。(中略)
 そこで、ぼくは、しかたなしに、べつに職をえらんで、飛行機の操縦をおぼえました。
 ―サン=テグジュペリ『星の王子さま』(内藤濯訳、岩波書店、2021年)
 
 ウワバミの絵の一件があって以来、「ぼく」は絵を描かなくなってしまいます。しかし、砂漠で出会った王子さまに「ヒツジの絵を描いて」と頼まれたことで、久しぶりに絵を描きます。そして、王子さまがいなくなった後、王子さまとの思い出を残しておくために『星の王子さま』を執筆し、なんと自ら挿絵まで手掛けるのです。
 
あの友だちがヒツジをつれて、どこかへいってしまってから、もう六年にもなります。あの友だちのことを、いま、ここにこうして書くのは、あの友だちを忘れないためなのです。友だちを忘れるというのは、かなしいことです。だれもが、友だちらしい友だちをもっているわけではありません。それに、ぼくも、そのうち、数字しかおもしろがらないおとなと、同じ人間になるかもしれません。それだからこそ、ぼくは、えのぐ箱とエンピツを買ったのです。六つのとき、ウワバミの内がわと外がわをかいたきりで、ほかには、なんの絵もかいたことのないぼくが、いま、この年になって、また絵をかくのは、なかなかのことです
―サン=テグジュペリ『星の王子さま』(内藤濯訳、岩波書店、2021年)
 
 このように、「絵を描く」ということは、『星の王子さま』において王子さまと「ぼく」を繋いだ大事なできごとであり、「ぼく」が子どもの頃に捨て、そして取り戻したものでもあるのです。この行為自体が、誰もが持っていた子どもの頃のまっすぐな心、すなわち王子さまそのものを象徴していると言ってもいいでしょう。現実ではディエイト(王子)とミンギュ(「ぼく」)に絵を描く趣味があるところも面白いですよね。
 
 また、作品内部では「ぼく」が描いたことになっている『星の王子さま』の素朴な挿絵の数々は、サン=テグジュペリ本人が描いたものです。サン=テグジュペリは飛行士と小説家であって画家ではありませんが、この作品には自分で絵をつけたのです。このようにして『星の王子さま』の作品の中の世界と外の世界は繋がっており、「ぼく」はサン=テグジュペリの分身とも言えるわけです。
 
 このようなことを考えると、'Rock with you'のMVでジョンハンが楽しそうにのびのびと絵を描いているのは、彼が王子さまでも、「ぼく」でも、サン=テグジュペリでもあることを表していると言えるのではないでしょうか。
 
 つまり、プロジェクトにおいては、純粋な魂そのもののような王子さまがディエイト、王子さまと出会ってその心を取り戻した「ぼく」がミンギュ、そして、その分身であり作者であるサン=テグジュペリがエスクプス、さらにその生まれ変わりがジョンハン、といった関係が成り立っているということです。そうであれば、'Ready to love'ではエスクプスとジョンハンが双子のような淡い金髪であったことにも納得がいきます。
 
 きっと、ジョンハンが表している現代の「ぼく」は、子どもの頃に絵を描くことをやめなかったのでしょう。
 それは、王子さまを心に抱いたまま、大人になったということです。いつまでも大人としての責任を持たず未熟であり続けるという意味ではありません。誰かの心無い言葉や表面的な「常識」にとらわれず、物事の本質を見つめる心や何かを好きだと思う気持ちを忘れないで生きるという意味です。
 
 ジョンハンが描いている絵が、星座のようなものが浮かぶ銀河らしきものであることも、この説に信憑性を持たせてくれると思います。これは、前世において王子さまの故郷が宇宙であったことや空を愛する飛行士「ぼく」の気持ちが、キャンバスの中に無意識に溢れ出たものだと解釈できます。
 
 
④バラを抱きしめるひと
 ディノがバラを演じていることについて書いた考察Part5でもお話ししましたが、オンラインコンサート'IN-COMPLETE'(2021)で歌われた'Flower(2017)'と、'Your Choice'収録の'Anyone(2021)'には、繋がりがみとめられるように思います。
 
 愛する人を棘のある花に喩えて歌った'Flower'のメンバーは、エスクプス、ジョンハン、ウォヌ、ディエイト、スングァン、ディノです。

 

 私の考察があっているとすれば、POWER OF LOVEプロジェクトにおけるこの六人は、
 ・サン=テグジュペリ(エスクプス)
 ・王子さまの心を取り戻した「ぼく」(ジョンハン)
 ・キツネ/ヘビ(ウォヌ)
 ・王子さま(ディエイト)
 ・『星の王子さま』を捧げられた親友レオン・ウェルト(スングァン)
 ・バラ(ディノ)
ですので、『星の王子さま』の主要人物はすべて揃っています。
 
 'Flower'はかなり昔の曲ですので、この時からプロジェクトを計画していたわけではないと思います(歌詞を書く際に、この時たまたま『星の王子さま』をイメージした、ということはあるかもしれませんが)。おそらく、POWER OF LOVEプロジェクトのアイディアを出していく話し合いの中でこの曲が思い出され、配役を決めるのに一役買ったのでしょう。
 
 ディノが振り付けを担当し中心的存在となっているこの'Flower'には、以下のような歌詞があります(原詞は韓国語。括弧内はそのパートを歌っているメンバー)。
 
●私の呼吸がある場所 あなたの香りで私は呼吸する(ジョンハン)
●永遠に私の心に咲き続けてくれるのなら 私は傷ついてもいい(ジョンハン)
●あなたに近づけば傷つくだろう それでも両腕はあなたを抱きしめる(ディエイト)
 
 一方、プロジェクトに含まれることが明言されている'Your Choice'収録の'Anyone'には、「空の上から落ちてきた小さな花 砂漠の真ん中に あなたがくれた私のためのプレゼント」など『星の王子さま』を思わせる歌詞がありますが、この曲の中でディノとジョンハンの最も印象的なパートは、
 
●呼吸を交わして慣れた流れ 永遠に続く作品の中で
 私たちは一緒にいよう(ディノ・ジョンハン)
 
かなと思います。この歌詞を歌い終わるとジョンハンがディノを抱きしめ、一瞬伴奏が止まります。
 「呼吸」も「永遠」も「抱きしめる」もラブソングによく出て来るものではありますが、今までの考察すべてと合わせて考えてみると、これは'Flower'のイメージと重なっていて、王子さまがバラを抱きしめていると解釈することもできると思います。
 
 それも、前世の王子さま(ディエイト)ではなく、現代の王子さま(ジョンハン)の方がです。まるで、前世の王子さまにはできなかったことを叶えているかのように。これは「今度こそ一緒にいよう」という'Rock with you'のイメージにも繋がって来ると思います。
 
 この動画だと、1:25のあたりからの歌詞と振り付けです。その後すぐディエイトが後ろから出てきます。

 後ろに「空に向かう道路」のようなものがあるのも気になるところです。'Rock with you'でも似たようなセットが使われていたことがありました。これは、飛行機の滑走路や、'Left & Right'のMVを介してロケットのイメージに繋がっているのかなと思います。そう考えると、白と黒があるこの'Anyone'の衣装も、少し宇宙飛行士のブルースーツっぽくも見えてきます。

 
 
⑤天使のイメージ
 ④までが、私がPOWER OF LOVEプロジェクトにおいてジョンハンが「時を経て帰って来た王子(王子の生まれ変わり)」だと考える理由です。
 
 さらに、ジョンハンは韓国で「天使の日」である10月4日生まれであることから、SEVENTEENの天使と呼ばれ、彼のことを表す公式の絵文字も「👼(天使)」となっています。
 
 この、「空から舞い降りた人」というイメージも、王子さまによく合っていると思います。役を決める際に、天から舞い降りた王子さまにはジョンハンがよく似合うと誰かが言い出してもおかしくないなと思います。
(画像5 'All My Love'のSpecial Videoのオフショット。これは麦ではなくススキなどの一種かなと思われますが、『星の王子さま』で王子さまの金色の髪に重ねられる金色の穂のイメージとよく合っていると思います。)
 

 SEVENTEEN 'All My Love' SPECIAL VIDEO 

  

★・ ・ ・ ・ ★ ・ ・ ・ ・★

 
 《JEONGHAN/無線電線技師ネリ》
 これまでの考察で見てきた通り、このプロジェクトには複数の役を兼任しているメンバーもいます。もしジョンハンにも『星の王子さま』関連の役だけでなく実在した飛行大隊の仲間の役もあるとすれば、イメージが近いのは「ネリ」かなと思います。これは考察というほどのものではなく、私が本を読みながらなんとなく感じたことなので軽い気持ちで読んでいただけたらと思います。
 
 ネリは、『人間の大地』の第一章「定期路線」にて、サン=テグジュペリの飛行機に無線電線技師として同乗します。無線電線技師とは、地上に居る当直の無線技士から送られてくる情報を書き取って操縦士に伝えたり、その逆を行ったりする人です。
 
 ネリはサン=テグジュペリと非常に仲が良かったようで、『人間の大地』には以下のような記述が見られます。以下、全て『人間の大地』(渋谷豊訳、光文社電子書店、2016年)からの引用です。
 
 ●僕らがすでに絶望的な気分に浸りかけていると、突然、左前方の水平線上に、きらりと輝く光の点が現れた。僕は激しい喜びを感じた。ネリが僕に身を寄せてきた。何と彼は歌を歌っていた!
 
 ●突然、ネリのこぶしが僕の肩をドンと突いた。それに続いて手渡された紙切れには「いい感じだ。今、すばらしいメッセージを受信した」と記されていた。
 
 ●(夜空で進路を見失ってしまった時に、「サン=テグジュペリ殿、カサブランカ空港離陸に際し、格納庫から至近距離の地点で方向転換を行ったかどにより、本官は貴殿が懲戒処分を受けるようパリに申し立てをせざるを得ません」というメッセージが届いた場面で)僕らは僕ら自身の運命を、また郵便物と愛機の運命を背負って、必死の思いで舵取りをしていた。その僕らにこの男はちっぽけな恨みごとを投げつけてきたのだ。だが、ネリと僕はそれに苛立つどころか、逆に、突然の大きな歓喜に見舞われた。この空では僕らが主人公だ(中略)それにしても、よりによって僕らが厳粛な面持ちで大熊座と射手座のあいだを行きつ戻りつしているときに、僕らの夢想をじゃましにくるとは! 僕らの尺度から言えば、唯一問題になり得るのは月が僕らを裏切って姿を消したことだけなのに……。
 
 ●そうすれば、夜明けのすがすがしい時刻にカサブランカに辿り着ける。そこで仕事は終わりだ。僕とネリは二人で街に繰り出すだろう。あそこなら、早朝から店を開けている小さなビストロがいくつかあるはずだ。くつろいだ気分でテーブルに着いたら、前夜の出来事についてネリと冗談を言い合おう。目の前には焼きたてのクロワッサンとカフェオレ。これが人生からの朝の贈り物だ。(中略)僕に生きる喜びを教えてくれるもの、それは香ばしくて、舌が焼けるほど熱い朝食の最初の一口だ。牛乳とコーヒー豆と小麦の入り混じったあの味だ。(中略)この宇宙には無数の星がある。だが、夜明けの食事の香り高い一碗に姿を変えて、僕らに歩み寄ってきてくれる星はただ一つだ。
 
 こんな調子で、サン=テグジュペリとネリは身を寄せ合って歌ったり肩をどんと拳で突いたり、一緒に朝食に出かけたりするほど仲が良く、また、空の上ではまるで生意気盛りの悪戯っ子のようなのです。サン=テグジュペリをエスクプスだと考えて想像すると、私はなんだかネリがとてもジョンハンっぽいなと感じるのですが、いかがでしょうか。

 

 
(画像6,7 飲食店に出かけるエスクプスとジョンハン) 

  ジョンハンは練習生になる前にバリスタを目指していたと聞いたこともありますし、「あたたかい牛乳を一杯」というタイトルでラジオ番組風の音声配信を行っていたこともあるので、先ほど引用したカフェオレや牛乳のイメージともよく合います。その優しい歌声で、あたたかな朝食の準備から始まるソロ曲をリリースしてくれたこともありました。

 

JEONGHAN 'Dream'


こちらは日本語版。大変な努力家で、日本語の発音がとてもきれいです。

  

 先ほど引用した箇所では、サン=テグジュペリがネリとの朝食を想像しながら「この宇宙には無数の星がある。だが、夜明けの食事の香り高い一碗に姿を変えて、僕らに歩み寄ってきてくれる星はただ一つだ」と言っていますが、この温かいイメージは、メンバーにとってのジョンハンのイメージに合っているのではないかと思います。

 

 ★・ ・ ・ ・ ★ ・ ・ ・ ・★

 

 以上、今回はPOWER OF LOVEプロジェクトにおけるジョンハンの役についてでした。バラエティ企画では反則やいたずらを繰り返す子どものような姿を見せる一方で、メンバー一人ひとりのことをよく理解し、気にかけ、誰からも頼られているように見えるジョンハン。王子さまの心を持ったまま大人として生きる現代の青年の役は、彼にとても合っているように感じられます。

 

  私はこのインタビューがとても好きです。グループやメンバー、パフォーマンスに対するジョンハンの誠実な姿勢がとてもよく伝わって来る気がします。


それでは、次回はウジの役について書きたいと思います。

今回も読んでいただきありがとうございました!

 

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