いわゆる精神性発汗である手掌多汗は、ストレスなどの刺激で交感神経活動亢進により誘発されます。

 

今回、交感神経活動を抑制させる可能性がある施術を行うことにより、実際の発汗の有無をみて、施術効果を検討しました。

 

腕神経への鍼通電刺激を行うのにあたり、使用した鍼は直径0,18mm、長さ40mmのステンレス鍼を10mm刺入し、刺激頻度は1Hz、刺激時間は15分として、刺激強度は疼痛閾値以下で筋収縮が見られる強度としました。

 

末梢血中の顆粒球とリンパ球の比率(G/L比)、皮膚血流量、皮膚温、発汗量、VAS(ビュジュアルアナログスケール)を指標とし施術効果を客観的に調べてみました。

 

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結果は、手掌多汗症に対する腕神経への鍼通電刺激はVAS、皮膚血流量と皮膚温の変化を見る限りでは十分な効果が得られませんでした。

 

全期間を通してVASの変化には一貫性が見られず、心因性疾患への鍼灸施術の難しさを改めて考えさせられました。

 

腕神経叢への刺鍼で改善が見込まれる疾患として胸郭出口症候群や頚部神経根障害が知られていますが、今回は手掌多汗症への刺鍼でどのような効果が現れるかを期待していたので少し残念です。

 

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施術部位として選択した腕神経叢は、第5,6,7,8の頚神経と第1胸神経の神経根(前肢)で始まり、筋皮,橈骨,腋窩,正中,尺骨神経により形成された神経叢として終わります。

 

交感神経の腕神経叢への関与は節前線維では様々な変異が見られ、節後線維では第5~8の頚神経の神経根が前,中斜角筋の間を進もうとする場所で浸入しています。

 

今回はこの部位で施術を試みた訳です。

 

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手掌多汗症とは、局所性多汗症に含まれる掌蹠多汗症のことをいい、全身に分布するエクリン汗腺のうち特に多く分布する手掌・足底での異常な精神性発汗を主症状とします。

 

精神性発汗の中枢機構は大脳皮質の前運動野や辺縁系が関係するといわれいるので、精神性発汗の手掌・足底で入眠数分前より発汗が止まり、睡眠中を通して発汗がほとんど現れません。

 

これに対し温熱性発汗は体温中枢機構の統制化にあるので視床下部により統合されています。

 

皮膚血流量の調節はほとんど体温調節機構の一部であり、特に手の血管は豊富な交感神経支配であり、血管拡張はこの神経の緊張低下によるものだと考えられます。

 

通常は汗腺活動時には血管拡張が見られますが、精神性発汗では、発汗神経と皮膚血管運動神経とは無関係に活動する事が多いようです。

 

情緒刺激やショック時には両者が同時に活動し、いわゆる冷汗が出ます。

 

冷汗が長く続くには、多量発汗には十分な水分補給が必要であり、時間の経過と共に精神性発汗は減少するはずなのですが、実際、発汗は止まらず、皮膚温度はどんどん下がってしまいます。

 

手掌多汗症では汗の気化熱により局所皮膚温は低くなり、皮膚色は紫紅色調を帯びて、レイノー症状を伴い、皮膚の低温化により交感神経が緊張して、さらに発汗が増加し、悪循環に陥っていると考えらます。

 

精神性発汗反応の遠心路がコリン作動性交感神経節後線維で効果器が汗腺であるのに対し、皮膚血管運動神経活動の遠心路はアドレナリン作動性交感神経節後線維で効果器が皮膚血管であり、これら遠心路及び効果器の相違が一因なのかもしれません。

 

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手掌多汗症の治療には、薬物治療や外科治療があり、ともに交感神経の活動を抑制するものです。

 

今回、腕神経叢への施術を選択するにあたって参考にした他の掌蹠多汗症の治療法には、局所外用治療、内服治療、イオントフォレーシス、交感神経ブロック治療、ETS(胸腔鏡下胸部交感神経遮断術)などがあり、どの治療も交感神経活動を抑制させる事により効果を得ているようです。

 

このうち、ETSは手掌多汗症以外の適応症としては、上肢の血行障害(閉塞性動脈硬化症、バージャー病、レイノー現象)、CRPS(疼痛性感覚異常 / 複合性局所疼痛症候群)などがあり、現在一番多く行われている治療法ですが、代償性発汗やホルネル徴候の出現の可能性があります。

 

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生体にはそれぞれ特有なリズムが存在し、生体のリズムは自律神経系、内分泌系をはじめとして生命活動の様々な局面において重要な役目を果たしています。

 

近年、心拍や血圧などの一見極めて規則正しいリズムにも変動【ゆらぎ】が存在するといわれています。

 

指尖の血流は血圧と血管抵抗によって規定され、心臓の自律神経や血管平滑筋の交感神経の活性によって【ゆらぎ】が生じているらしいのです。

 

指尖の血管支配には胸部交感神経支配が大きく関与するものの、ETS後も【ゆらぎ】が消失しないのは、指尖の血管支配には他の交感神経支配も存在する可能性を示しています。

 

今回、鍼通電刺激直後の皮膚血流量の変化もこの【ゆらぎ】が関係しているのかもしれません。

 

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『傷寒明理論』には「胃は四肢を主る、手足に汗出る者は陽明の(胃)の証なり」とあります。

 

脾は手足と深くつながっていると考えられていて、手掌に汗をかくことは脾胃気虚による体調の現れとされています。

 

津液の気化が緩慢になり体内に湿が生じ、脾胃に鬱積し津液が汗となって外へ漏れると考えられているのです。

 

生体は機械のような1対1の単純な繋がりでなく、全身の各神経が網のようにめぐらされ綿密に各器官・組織・細胞が連動しています。

 

心身まるごとを全体から診る東洋医学の概念にも通じますが、現代西洋医学でいわれる【ゆらぎ】も生体が営みを続ける為に臨機応変に対応した巧みな繋がりなのではないでしょうか。

 

手掌多汗症に対する腕神経への鍼通電刺激はVAS、皮膚血流量と皮膚温の変化を見る限りでは十分な効果が得られたとは言えませんでしたが、腕神経への鍼通電刺激はある一定の生体反応が起こっていることが各評価の変化から推測されます。

 

今後、他疾患への有用性の検討が行われることが期待されます。

 

 

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