第52章 クリーブランド夫妻(前編)

 

 

 ワシントンに土曜日に到着した私たちは、ショーハム・ホテルに部屋をとった。

挨拶に来てくれた最初の人々の中に、合衆国財務官ダニエル・ナッシュ・モーガン卿もいた。

メイソンの最高位にある彼は、私が胸につけていたミスティック・シュライン(訳注:①)の宝石に目ざとく気づいてその由来を尋ねた。

 

ミスティック・シュラインの西部管轄の大司令官、パウェル将軍がハワイ諸島に訪れたのが、ちょうど私がクイーンズ・ジュビリーから帰国した頃でした、と私は彼に話した。

私と面会した時、将軍は自分のコートの襟からその勲章をとり外し、私のドレスにつけてくれたのだ。

私の胸もとにそれを留めながら、「神のご加護をお祈りします」、そう彼は言った。

私が旅をしていて何らかの助けや守りを必要とすることがあれば、きっとこれば大きな助けになるだろう、と。

それで私は以来ずっとそれを身につけている。

モーガン氏はこの物語に非常に心を動かされたようだ。

それで素敵な奥方や可愛らしいお嬢さん、他の家族の皆さんとともに私のワシントンでの毎日が楽しいものになるよう尽力してくれた。

 

ワシントンD.C. のショーハム・ホテル

 

 ショーハムに到着した私がまず最初に訪れたのはホワイトハウスだった。

私たちがボストンを出発した日にクリーブランド大統領はちょうど狩猟に出かけてしまっていた。

このことは直ちに国中に打電され、彼が外出したのは私の来訪のせいであるかのように言われてしまった。

私たち一行の三名以外に私がワシントンを訪問するつもりなのを知る人は誰もいなかったのだから、もちろんそんなことがあるはずはない。

それどころか、ワシントンやそれ以外の場所に滞在中に書かれたごまんと書かれた嘘偽りと同様、全くのデタラメだった。

 

 1月25日月曜の朝クリーブランド氏が大統領府に姿を現すと、ゴシップはピタッと止んだ。

そして11時、私は秘書を通じて大統領の個人秘書官ヘンリー・T・サーバー氏に簡単なメモを届けさせた。

私がワシントンに来ていることを知らせ、もしもお邪魔してもよろしければ個人的に直接お目にかかって旧交を温めたいと思う旨を述べてあった。

 

日時は特に指定していなかった。

だが私の三名の秘書たちが戻ってきてホテルに着くと、大統領から格別に心のこもった手紙が届いていた。

「その日の午後の3時にお待ちしています」と歓迎してくださっていて、それで私は従者の三名とともに伺った。

大統領は小さな赤の客間で私を迎えてくれた。

 

(中編に続く)