私たちはお城の門を潜り、衛兵に事情を話して皇帝陛下のいる玉座の間へと向かった。
ルー曰く、『盗まれた古代石について話がしたい』だそう。普通の人だったら約束もなしに入れてくれるわけなかったけど、古代の民であるルーとサティにそれを言われたんじゃ衛兵の人たちも通さないわけにはいかなかったみたい。
私たちは大広間のレッドカーペットの上で膝をつき、頭を垂れながら玉座に座る皇帝と向き合う。
「お目にかかれて光栄です、リュートベルト皇帝陛下。」
ルーが、普段からは考えられないくらい丁寧に、目の前にいる一国の王に挨拶をした。その表情は、柔らかい笑顔だ。
そう、“天使のようなルー”。
どうやったらあんなに使い分けられるのか、未だに謎。
そんなルーを初めて見たウィノとアンタルは、口を開けて呆然としている。
「何、あの子・・・・・・毒でも飲んだ?」
「ルーさん・・・じゃなくて、ルー、どうしちゃったんですか?」
私は、皇帝の前だからと必死で笑いを堪えながら、2人に説明した。2人とも、すごく驚いていたけど。
私も、初めはすっごくびっくりしたよ。でも、慣れてきちゃうと逆にすごいと思っちゃうんだよね。
ルーは、何の為にこんなことをしてるんだろう・・・・・・旅を始めてからずっと、考えていたことだった。
確かにルーは、世渡り上手。私やメルなんかよりも、ずっと。いろいろルーに助けられたし、ここへもルーがいたから来れたんだ。
でも――――どっちが本当のルーなのか、よく分からない。あるいは、どっちも本当のルーじゃないのかもしれないけど。私たちの前では見せない素顔があるのかもしれない・・・・・・。
そう考えると、私ってまだルーのこと何も知らないんだなって実感した。そのことが、少し寂しかった。
「お前は古代の民・・・だよな。古代石のことで話がある、とか言ってたから通したが・・・・・・水魚石のことか?」
皇帝は、玉座の上から訝しげにルーを見た。
思ったよりも――――というか、予想もしていなかったほど、皇帝は若く見える。まだ、20代後半から30代前半といったところだろう。
こんな若い人が、この国をまとめる王様なんだ・・・・・・もっと年配の人が王位に就くんだと思ってた。
それでも、威厳がないわけじゃない。寧ろ、普通の人よりも頼もしく、威圧感があるような気がする。まさに“皇帝陛下”って感じ。
でも、話し方は軽いんだよねぇ。見た目ほど、重々しくはないのかも。
ルーは、皇帝の質問に対し、頭を垂れたまま答えた。
「はい・・・・・・それだけではありません。レトロアの炎竜石、ギルンニガの木幽石、ミクシルの天空石も同様です。このままだと、この世界にある古代石は全て・・・・・・。」
「ふむ、それで?」
それだけではないだろうと言いたげに、若き皇帝はルーに次の言葉を促す。
ルーは再び、口を開いた。
「犯人は・・・古代の民です。それも、とても強い能力の持ち主・・・・・・そのような者が古代石を手にすれば、限りなく強大な力を手に入れるでしょう。」
ルーにしては、曖昧な言葉だった。それは皇帝も感じたようで、遠回しな表現に苛立ちを覚えたのか、腕を組み直してルーを睨む。
「くどいな。何が言いたい?」
皇帝の言葉に、ルーは少しだけ顔を上げ――――真剣な眼差しで、真っ直ぐに皇帝を見つめた。
これまでに見たことのない、ルーの表情・・・・・・私の胸が、一瞬波打った。
そうして、数瞬の間をおいて、ルーは告げた。この大広間にも響き渡る、凛とした声で。
「――――単刀直入に申し上げます。このままでは、世界は・・・・・・滅びるでしょう。」