『ラスティアル城の前で待ってる』
ルーは、そう書かれた紙をメルに預け、さっさとサティと2人で先に行ってしまったらしい。
メルにその紙を見せられた時は、心底びっくりしたけど。
だって、ラスティアル城って・・・王様のいる、あの大きなお城のことでしょ?
何でそんなところに行くんだろう・・・・・・。
疑問を感じながらも、とりあえずルーたちを追いかけて私たち4人もラスティアル城へ急いでいた。
あまり待たせすぎると、また怒られる気がするんだもん。最近のルー、怒鳴ってくるから余計に怖いし。
でも・・・それって、私たちとちゃんと向き合ってる、ってことだよね?前みたいに、何も言わないってことがなくなったんだから。
私は、喜びを噛み締めながら町の商店街を駆け抜ける。この先に、王城――――ラスティアル城があるんだ。
「ちょっといいかしら?」
その時、不意に一番後ろを走っていたウィノが私たちを呼び止めた。商店街を丁度抜けたところ、街灯のある小さな広場で。
私の前にいたメルとアンタルも、それに気がついてウィノのところまで戻って来る。
どうしたんだろ、真剣な顔して・・・?
ウィノは全員が集まるのを確認してから、アンタルを見つめ言った。
「さっきのことなのだけど・・・・・・私は、リオナの意見に賛成だわ。アンタル、あなたは私たちと一緒に来るべきだと思う。」
どうやら、宿での話の続きらしい。ルーとサティと合流する前に、話をまとめようと思ったのか。
アンタルはそれに対して、突然のことで何を言ったらいいのか分からないといった素振りを見せた。誰とも目を合わせようとせず、下を向き唇を噛む。
迷い、焦り、不安――――アンタルからは、その感情がひしひしと伝わってきた。私たちと行くのか、これからも1人で行くのか。アンタルは、答えを決めかねているようだった。
そんなアンタルに、ウィノは大きく溜め息をつきながら言う。
「厳しいことを言うようだけど・・・・・・あなた、1人で何が出来るの?現に、今日だって獣に襲われて倒れていたじゃない。それに、自分やその少女について知りたいのなら、当てずっぽうで捜すより古代の民と一緒にいた方が確実だと思うけれど?あなた自身、何も覚えていないわけだしね。それとも、古代の民が減少傾向にある今、これから他の古代の民に出会える保障があるとでも?」
一気にまくしたてられて、アンタルはびくりと肩をすくませた。ウィノが言ってることは正しい、そう思っているんだろう。
確かに、ウィノの言うとおりだよ。私もそう思う。でも・・・・・・。
「ま、待って、ウィノ・・・アンタルに決めさせてあげて。これは、アンタルにとって大切なことだから・・・・・・。」
「!リオナさん・・・。」
意外そうな表情で私を見たアンタルに、私はにこりと微笑みかける。
そう・・・これは、アンタルが自分で決めなきゃ意味がない。
自分の人生なんだもん、自分の意志で選ばなきゃ。他人に選ばれたら、後悔で胸がいっぱいになってしまうかもしれない。
それだけは嫌だ。例え失敗しても、間違えても、自分で決めた道ならその先は堂々と生きていける――――そんな気がする。
私は、じっとアンタルを見守った。ウィノも、メルも同じように。
「ぼ、僕・・・は・・・・・・。」
幼くて小さな手が震える。それを抑えるようにアンタルは手を胸の前に置き、ぎゅっと拳を握り締めた。
大丈夫、焦らなくていい。私は心の中で、何度も何度もそう唱えた。実際に、言葉には出来なかったけど。
――――そしてついに、アンタルは顔を上げた。そこに見えたのは迷いのない、強い瞳――――。
「僕は、みなさんと行きます・・・!自分のためにも、みなさんに恩返しをするためにも。」
アンタルの決意の言葉に、私たちは笑顔で頷いた。