「でも、王都で1年間捜しても、何の手がかりも見つけられなかったんです。だから、王都を出て他の町も聞いて回ろうと思ったんですけど・・・僕の力不足で、結局戻って来てしまいました。」

そこまで話し終え、アンタルはふうっと息をついた。

当たり前に家族がいて、隣にはいつだってメルがいて、当たり前に学校に行って、当たり前に辛いこと、嫌なこと、嬉しいこと、楽しいことを経験して・・・・・・。

そんな私の日常が、本当はとても幸せなものだったんだと今更ながらに気付いた。

例え町を追い出されようと、それまでの楽しかった日々は今でも私の中にある。アンタルには、それすらもない・・・・・・衝撃的な告白に、私はショックを受けた。

私には、何も出来ないの?アンタルの力になってあげられること・・・。ううん、怪我を負って倒れていたところを助けた、種族も違う赤の他人――――所詮、私なんてそれだけの関係じゃない。

でもね、それでも・・・・・・やっぱり、放っておけないんだよ。いくらお人好しって言われようが、誰かの力になること・・・そういうことでしか、自分を好きになれないから。私には、何の取り柄もないから。

そんな私に出来ることは、ひとつだけ――――・・・。

「ねぇ、アンタル。私たちと一緒に来ない?」

私が唐突に告げると、アンタルを初め、メルとウィノも驚いてみせた。

「へ・・・?」

「リ、リオ!?」

「リオナ・・・どうしてそんなこと?」

みんな、明らかに動揺してる。まあ、そりゃそうだよね。話の流れ無視で、本当に唐突だったんだから。

でもね、同情とかじゃない。ただ単純に、アンタルと一緒にいてあげたい。ずっと傍にいてあげたいんだ。

「ほら、1人だと危ないでしょ?また襲われちゃうかもしれないし。それに、私たちは古代石を探して各地を回ってるんだから、アンタルが写真の女の子を捜すのにも丁度いいんじゃない?ルーとかサティから、アンタルの知らない“古代の民”についても聞けて、一石二鳥。ね、いいでしょ?」

我ながら、良い考えだと思う。というか、私にしては結構説得力のある理由だよね。

私たちの目的、アンタルの目的、アンタルと一緒にいてあげること――――これが、一遍に果たせるんだもん。

後は、アンタルの気持ち次第だけど・・・・・・。

私はアンタルに、ちらりと視線をやる。

アンタルは迷いの感情からか、また俯きがちになっていた。

「嫌なら・・・いいんだよ。アンタルが決めることだから。」

私がそう声をかけると、アンタルの表情はますます暗くなった。

アンタルは、胸の前でぎゅっと拳を握り締める。

「で、でも・・・・・・僕・・・・・・。」

アンタルが何かを言いかけた、その時だった。

その静寂を、外から帰って来たルーが破ったのだ。

「おい、さっさと出発するぞ!」

勢いよく治療院のドアを開けいきなり飛び込んできたかと思えば、私たちに向かってそう叫ぶ。

ほえ!?何事!?

一瞬、何が起こっているのか分からなくなって、戸惑ってしまう。

それから私はルーの言葉の意味をゆっくりと理解し、疑問をルーに投げかけた。

「で、でも・・・さっき、犯人は泳がせとくって・・・・・・。急ぐ必要ないんじゃない?」

「気が変わったんだよ!そいつの目的、何となくだけど分かった気がした。古代の民なのに、古代石を盗む理由・・・・・・それ考えたら、放っておいちゃいけないやつだって・・・追いかけなきゃいけないやつだって思ったんだ!」

犯人の・・・目的?

私たちが、いくら考えても分からなかったことのひとつ。

犯人は、何か理由があってこんなことをしている――――それは当たり前なんだけど、その理由がどうしても分からなかった。

でも、やっと分かったかもしれないんだね。

「ルー、それって・・・。」

「説明なんてしてられっか!とにかく、さっさと準備しろ!」

ルーの考えた理由を聞こうとして、見事に遮られる。

うぅ、ルーってば酷いよ・・・・・・。

遮られたことも、考えを言い当てられたこともショックだった。更に言えば、ルーの言葉遣いが荒々しかったことも。

そんな私たちの横で驚きの声を上げたのは、アンタルだった。

「え・・・・・・こ、古代石が盗まれた!?ど、どういうことですか・・・?」

「え?アンタル、知らなかったの?」

あまりに突然のことで、戸惑いを隠せないアンタルに、メルが今までの経緯を説明した。

レトロアの炎竜石が始まりだったこと、そこから王都までの全ての町で古代石が失われたこと、そしてまたここの水魚石も盗まれたこと・・・・・・。

知らない、ってことは、少なくともレトロアやギルンニガの古代石が盗まれた情報は、王都には届いてなかったってことだよね。水魚石が盗まれて初めて、この町の人たちは今回の騒動を知ったのかな。

「ったく、そんな話してる場合じゃねーだろ!本当にとろいな!」

ルーは、立ち止まって話を続ける私たちに苛立ちを感じたのか、そう怒鳴りつけてさっさと治療院を後にした。サティも、そのすぐ後に続く。

「とりあえず、アンタルもおいで。さっきの話は後にしよう。」

メルはそう言い、さっと身支度を済ませると、アンタルについてくるよう促した。

本当、ルーってせっかちだよね。アンタルの話もしたかったのに、何も聞かずに出てっちゃうんだもん。

「リオ、のんびりしすぎ!置いてかれちゃうよ。」

メルにそう言われた時は、あれ?って思ったけどね・・・・・・私がのんびりなの?