第6話 あの人が何故苦手なのか(『タッチ』)


 上記のリンク先の記事、楽しく読ませてもらった浅倉南論でした。「あいつはそんなやっすい手をつかう女じゃねえよ!」で実質始まる浅倉南に対する怨嗟と嫉妬と羨望による論述、当時から南ちゃんファンの一人だった少年として、一々納得するところ。私の理解と違う個所も含めて。ピクルズジンジャーさん自身は浅倉南の高校生離れしたハイスペックを「人間関係に余計な波風を立たせないために発揮される政治能力及び社交スキルの高さ」に求めてる。私は優しさと聡明さを同居させた人間という理解。しかも浅倉南が怖ろしいのは女であることを武器にできる点。上杉達也、タッちゃんの野球部入部初日が典型例と思う。

 甲子園という大目標のため、まずはタッちゃんを受け入れてもらわなければと思ったはず。だから南ちゃんは愛想を振りまき、タッちゃんの頭を強引に下げたと推測でき。しかしもう一つ、孝太郎くんという難関が控えていると、重々承知していたと考えられ。だから南ちゃん自身がタッちゃんのボールを受けると一芝居うち、孝太郎くんにキャッチャーをさせるきっかけを作ったと理解できるのですね。しかも南ちゃんの聡明さから考えると、タッちゃんとの作戦会議で明かした計画通りと私は憶測。つまり孝太郎が駄々をこねたときのため息は、「やっぱりね」という意味と理解できるのですよ。因みにミットを動かさない状況は予想外だったようで、咄嗟の事態にはバケツに大量のボールを入れて用意する、タッちゃんの臨機応変さが勝った形。

 上記で浅倉南のハイスペックさを私なりに論じた一方、カッちゃんこと上杉和也、タッちゃんこと上杉達也との関係ではまったく違う見方を持つ。カッちゃんに甲子園を託すのは幼い頃からの成り行きであり、連載一回目ですでに「甲子園をめざすカッちゃん」を応援していたと推察を。

「絶対南を甲子園につれて行くって。自分一人で投げぬくんだって。南の夢を叶えるのに人の手は借りたくないからって。それを放っておいて帰るような南のほうがいいの?」

 上記の台詞はタッちゃんとの電話での台詞だけど、今読むと殆ど恋人同士の会話。では二人にとって上杉和也とは、子供であったり大切なひとであったり恩人と私は理解し。つまり上記の個所で「幼馴染の三人」は崩れてきたと理解できるわけ。では(フィクションであることを忘れ、)上杉和也は浅倉南を恋人にできないのは規定路線だったか? 私は実は、十分機会があったという考え。南ちゃんの聡明さから考えれば、カッちゃんに罪なことをしていると考え続けていたかと。だから「ふざけるな、弄んでいるのか!」と罵倒され、押し倒されて襲われても、罪の罰としてカッちゃんの思いを受け入れたのでは? しかし南を大事に思う和也は、後ろからそっと抱きしめるのみ。だから(多分勇気を振り絞り)熱のせいと言い訳ができる状況で「好きだよ、タッちゃん」という告白に。ファーストキス以後のタッちゃんへの好き好き宣言からも、南ちゃんが三人の(今までの)関係を終了/精算したかったと思われるから。

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