塩野七生さんは批判されていますが、オリバー・ストーン的なアレキサンダー、いいじゃないですか。
 「地獄の黙示録」以外のベトナム戦争映画と一括りにされてしまった「プラトーン」や
裁判映画だからといって終幕までの30分を主人公の独演会にして辟易した「JFK」。
 対して本作は、台詞の多さは歴史絵巻のなかに溶け込み、主人公の内憂外患ぶりも見事に描写。また、
父や母からの愛情が理の通った部分があることから逆に、親離れを難しくしている構図は、見事。
 とはいえオリバー・ストーン版のこのアレキサンダー、織田信長と坂本龍馬の影が仄見えて。

 信長は刃向かう者を徹底的に叩きつぶす一方で、進んで臣従する者は寛大だったし、
竜馬は故郷の彼方、遠い地域との友好な世界を展望し。
 しかしこのリーダー論と理想論、時に衝突する事もあり。
 それが証拠には、信長の天下布武の目標はまず日本列島。外の世界は認識しつつも、
敵を作りやすい政策のため、裏切りの監視が必要で。
 竜馬は竜馬で、昨年の大河ドラマでの薩長同盟の場面を観たとおり、
徹底的な平和論者。戦争は漁夫の利をされる危険あるがため。
 つまり日本の二人の知恵者は首尾一貫していたのに対し、
アレキサンダーは理想と権力に行動が伴わない悲劇の人間。
 そんな業を描ききった本作は、今年最高の可能性さえ。