造形作家 石山 駿さん(再放送)第2回~専攻科で決定的に変わりました ~ | みんなの学び場美術館 館長 IKUKO KUSAKA

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生命礼賛をテーマに彫刻を創作。得意な素材は石、亜鉛版。
クライアントに寄り添ったオーダー制作多数。主なクライアントは医療者・経営者。
育児休暇中の2011年よりブログで作家紹介を開始。それを出版するのが夢。指針は「自分の人生で試みる!」

みなさま こんにちは。
彫刻工房くさか 日下育子です。


今日は素敵な作家をご紹介いたします。
陶を素材とした作品を作っておられる造形作家 石山 駿さんです。





石山 駿さん

(茶屋町画廊個展2010)



以下、2015年1月の再放送でお届けいたします。

前回までの山本 哲三さんからのリレーでご登場頂きます。
     
山本 哲三さん

第1回  、第2回  、第3回   、第4回 第5回第6回 、 第7回、  第8回 、  第9回   


石山 駿さん

第1回 ~作品のかたちを日夜考える学生時代でした ~

造形作家  石山 駿さん 略歴のご紹介


第2 回目の今日は、石山 駿さんが京都美術大学専攻科に在学中の制作について

お伺いしました。


日本の寺社建築物にみられるフォルムの伝統美を造形要素に取り入れた作品を制作を

されていましたが、米国留学から戻られた先輩の作風の変化に強い影響を受けて、

非常に混乱した気持ちで作風を変化されたという貴重な体験談です。


どうぞお楽しみいただけましたら幸いです。



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0-10

(彫刻専攻科在学1965~)
発泡スチロール材に石膏直付け




0-11


(彫刻専攻科在学1965~)
発泡スチロール材に石膏直付け







0-12

(彫刻専攻科在学1965~)
発泡スチロール材に石膏直付け






A

「I氏のコレクション」 

合板にポリエステル樹脂塗装、ポリエステル成形にカラー蛍光塗料、鏡 アクリルケース

1966年 専攻科1年 修了展出品作







B
※参考写真 

(1995年 豊科近代美術館  福島敬恭作品展のカタログより転載)
福島敬恭氏作 「赤いマント」  
石膏にラッカー塗装  アクリル板  
1966年  専攻科2年修了展出品作






1

個展(京都・ギャラリー16)及び「次元’66展」出品 

1966年






1-4

個展(京都・ギャラリー16)出品

1966年






1-5

個展(京都・ギャラリー16)出品

1966年






1-6

彫刻三人展(東京・秋山画廊)出品

合板にポリエステル樹脂塗装 ラッカー塗装仕上げ

1969年作  





日下
石山さんは京都美術大学では専攻科在学だったということですが
大学院のようなところでしょうか。



石山 駿さん
そうですね。
今で言う2年制課程の修士課程と言いますかね。
その時分は4年制の美術大学全体では、まだ大学院を設けているところは、なかなか少なくて、
2年間のいわゆる修士課程を私たちは専攻科と呼んでいたんですね。


大学の4年間では素材体験を中心に、形と素材の組み合わせを基本にして自分が考えた形を

作り上げていくということを繰り返しておりましたが、専攻科になって初めて何でも自由に、

どういう素材を取り入れてもよいとうことで、ようやく自分の表現を追求してゆくことが

出来るようになるのです。


その2年間は僕にとっては非常に貴重になるだろうということで、僕たちの学年では

山本哲三君と2人が専攻科へ進んだんですね。



日下
そうですか。ではお二人は本当に親友でいらしたんですね。



石山 駿さん
そうですね。
彼は高校から美術コースを選んで、彫刻をずっとやってきた延長で来ていましたから、

傍目で見ていても非常に手馴れているなあと、そういう気がしていました。
その頃から石を彫り続ける覚悟のような気概を持っていましたね。



日下
その時に作られた作品ですが、私には「風」の文字をモチーフにしているように
見えるのですが、この作品についてお聴かせ頂けますでしょうか。



石山 駿さん
僕が決定的に変わったのは専攻科なんです。
そこでの最初の作品は、あの時期、日本の伝統的なフォルムというのは一体何なんだろう

という気持ちから、例えば日本建築に見られる屋根のそりや木組みの形が持っている

フォルムの美しさに惹かれていたんですね。


それをもっと単純化して構成していきたいという意識は持っていました。
写真に見られるような作品の流れが当時の私の思いを端的に表現していると思います。
形が文字に見えたかもしれないですが、文字については特別に意識は持っていなかったですね。
制作の段階では石膏の直付けで構成してゆきました。



日下
では、これは石膏の直付けなんですね。



石山 駿さん
はい。発砲スチロールで形を作って、そこに石膏で直付けして表面を削って調整して、

ごくごく単純な作業で作りました。



日下
とっても面白いです。仰る通り、流れを強く感じるので、

私は本当に風の文字を連想してしまったようです。



石山 駿さん
私は、そういういくつかのエスキス を、だいたい50~60センチの大きさのものを作ったんです

けれど、1年の終了制作の時に、それを一つの透明なプラスチックに置き換えて修了制作展に

出したいと思って作り始めていたんですね。


ちょうど修了制作への準備をしてゆこうという時期に、僕の先輩であった福島敬恭さんという方が

アメリカから戻ってこられたのです。


その方は僕が大学1年の時に4年に在学していた方なんですね。
卒業制作展で非常に素晴らしい作品を作られて、それがまたすごいダイナミックな鉄の塊のような

大きな作品で、門のような形をした非常に強靭な造形物だったんですね。

僕は圧倒されて、すごい力量を持った人だなあと思っていたんです。


当時の彫刻科は、1学年10名でしたので、しかも彫刻科だけが別棟でしたから

先輩後輩の垣根を感じることもなくとても過ごしやすい空間で学ぶことができました。


その方が専攻科を終える前に、海外留学のため、アメリカ、ニューヨークに行かれたんですね。
そして僕が専攻科1年の終わり頃に帰国されて、専攻科終了のために僕と一緒の所で過ごすことになったんです。



日下
はい。



石山 駿さん
福島さんが、制作されるのを傍目で見て、そしてお話を聞いて、まったく違う世界を

持って帰ってこられたんです。


あの素晴らしい強靭な造形力のある彼の力が、どんな形でさらに逞しくなってすごい作品世界を

もって帰ってこられたか、そしてどんな作品を作られるのか期待していたら、まったく違う、

僕にはとても理解できないものでした。



日下
何があったんでしょうか。



石山 駿さん
僕には、というより僕らが、美術大学で学んできた造形教育、
そういう教育から受け継いで作り

上げてきた造形理念とはまったく違う作品。それはアメリカの最先端と言いますか、とにかく

「アメリカの今」という作品を持ち帰ってこられたんですね。


僕らの1960年代の現代彫刻の世界というのはヨーロッパを中心としたモダニズム造形主義的な、

素材の特性や質感を生かした非常に造形的な作品、例えば現代イタリア彫刻であったり、

イギリスの彫刻であったりでした。


いわば彫刻という言葉で説明ができて、共通理解が共有されていたように思うんです。
海外からの彫刻展を見ていても、私たちが習って取り入れようとしていた、現代彫刻の

延長にある作品がずっと紹介されてきたし、私たちもそういうものから影響を受けて作品を

作ろうとしてきたわけだけれども、全く違うんですよね。
僕にとっては、アメリカの彫刻は入ってこなかったんですね、まだ。
本当に全く違うんです。


専攻科での制作の合間に、福島さんからはアメリカの人たちの作品の世界を話してくれたりたり、

教えてくれたりでした。
ところが僕のそれまでの5年間での、自分がこうありたい、こういう風にして自分の作品を

作っていきたいといった気持ちでは、福島さんの話してくれる世界がまったく理解できない、

どういうことなんだろうと思ったんですね。



日下
はい。



石山 駿さん
ものすごく混乱したんです、私自身が作品を作っていく上で。
それで「石山君、こんなもの作っとったらあかんぞ」と言われるくらいに打ちのめされちゃった。
でも何を、どうしていいかわからない。


あれだけの力強い作品を作っていた彼が、現実にアメリカの世界で、それだけ変わらざるを得ない

経験をして、そして僕の隣で作っている彼の作品を、僕は理解できなかった。
僕の持ち合わせている造形に対する概念に照らし合わせても答えは見つからない、

そのことに僕はものすごいショックを受けたんですね。


僕はやっぱりこんなことしとっちゃいかんのだろうか、という気持ちにまで追いつめられた。
もうこんなん作っていたらダメだとその時は思って、作らないでおこうと、衝動に近い気持ちで
発注までしようとしていたその作品をポンッとやめてしまったんです。



日下
そうだったんですか。



石山 駿さん
そして、にょろっとした赤い作品を作ったのです。
「I氏のコレクション」という題名で専攻科1年修了作品として出品しました。

3つの棒状の形がアクリルケースの中にぶら下がるようにあって、それぞれに蛍光カラーで

信号機のように色分けしたのです。

それを合板にポリエステル樹脂塗装した台の上に置きました。


この作品は思いだけがあって、どうも中途半端な出来に思えたので、

次の学年にもう一度作り直して同じ年の個展とグループ展に出品しました。
先にお話した、石膏からプラスチックにしようとして作っていたフォルムの作品を急きょ、

ほんの2ケ月ほどでそんな形のものに変えて出品したんです。


その時の福島さんの作品は、サブロク(3尺×6尺)板くらいの透明なプラスチックを火で炙りながら

有機的な形にグニャッと変形させたものを、円錐形のような形や,そっけない円筒形の形の上に

フワッともたれかかせるように乗せてあったんです。 (※参考作品)

その支えになっている形にはそれぞれ派手な赤と青の色が塗られているのです。


従来の彫刻の概念とはまったく異なる表現でした。

感じるだろう材質感も語りかけてくるフォルムの意味性も存在していませんでした。


その上、これまでの彫刻科の卒業展で作品に色が塗られたということも初めてだったんです。
木をつるつるに磨いて光沢を出すとか、鉄に少し黒いものを塗って材質感をより効果的に

見せるために色を感じさせたりとかはあっても、色を意識的に使う、質感を消して材質を

あえてニュートラルにしてしまうというのはまったく今まで誰もしてこなかったんです。



日下
はい。



石山 駿さん
僕は彼の話を聴きながら自分も変わらにゃいかんと、僕も色を使ったんです。
だから、その年に作られた作品で色をつけて出したのは、福島さんと彼の影響を受けた僕の
2人だけだったんです。


そうやって、僕は突然自分の今まで学んできたことを全部捨てようと思って。
福島さんの世界が理解出来たわけでもないんですが、実際は何もわかっていないんです、

まったくわからずに、その思いだけでした。
次の年も同じように赤いカラスウリのような形をプラスチックのケースに閉じ込めて作品を出しました。



日下
ええ。



石山 駿さん
それまでの4年間と専攻科の1年間は、ものすごく何かをやろうという充実感と意欲があって
そして福島さんに出会ってからめちゃくちゃと混乱して、だけど何をしたらいいかわからない。
ずぅーとそんな状態が続きました。
福島さんと同世代だけに自分も変わらなければとやみくもに思っていました。


専攻科2年の時には、もう福島さんも専攻科を出てゆかれたし、僕はもうここでの時間が必要ないな、やることはないなと思って。
後の方は、早く修了したい、やめたい、そういう気持ちになっていましたね。



日下
そうだったんですか。
これほどまでの大きな変化は、なかなか無いことだと感じます。
このあと、どう作品を展開していかれたのか、とってもお聴きしてみたいです。
本当に貴重な体験談をありがとうございました。




巳ー2

干支(巳-2)




巳ー3

干支(巳-3)


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編集後記


今回、山本 哲三さんのご紹介で、初めて石山 駿さんにお話をお伺いしました。
石山 駿さんは陶を素材とした彫刻作品で国内外での発表活動歴が豊富で多彩な彫刻家で

いらっしゃいます。



山本 哲三さんからは、クレーワーク(学生当時は陶彫と言われていた)をやっていらして、

既成概念に捕われない楽しい作品が大変評価されている彫刻家としてご紹介いただきました。
愛知県瀬戸市で現在開催中の「アートでびっくり!干支セトラ展」を主催するアートのNPOも

していらっしゃいます。


石山 駿さんは美術大学専攻科で、とっても美しい日本伝統のフォルムを追求して構成される

作品を制作なさっていました。

アメリカ留学から戻られた先輩のまったく作風が変化されていたことに混乱されたこと、その方の

お話を聴かれて、ご自身も作風を大きく変化された体験談をお伺いしました。


私も自分なりに迷い迷い、思考錯誤して制作して来ましたが、石山さんほどのショッキングな

体験はまだ味わったことが無いように思いました。


けれども、もしかしたらその体験が、この後に石山さんが素晴らしい造形を生み出される、

一つの大きな原動力にもなったのかもしれないとも感じました。


次回は、 石山 駿さんが専攻科修了後、愛知県瀬戸市の美術教員に赴任され、

陶に出会われたお話をお届けいたします。


どうぞお楽しみに。


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◆ 石山 駿さんが所属する特定非営利活動法人 Art-Set 0のホームページ 
 

  特定非営利活動法人 Art-Set 0で運営しているギャラリーのフェイスブック

  アートセットスタジオ
 



◆ 石山 駿さんの展覧会情報
   アートでびっくり!干支セトラ(午)展
   2015年1月9日(金)~25日(火)
  毎週、金・土・日と祝日のみ開廊/AM11時-PM5時
  
  
アートセットスタジオ
 〒489-0042瀬戸市仲切町3番地  TEL0561-83.0484(開廊日のみ対応)
 


石山 駿さんの略歴


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  2017年6月18日(日)13:30~16:30開催します。


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