毎週木曜日、「みんなの学び場美術館」担当の
「彫刻工房くさか」日下育子です。
本日は素敵な作家をご紹介いたします。
画家の 白川美紀さんです。

白川美紀さん
前回の岡沢幸さんからのご紹介です。
第1回 ⇒ http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11323780164.html
第2回 ⇒ http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11329521097.html
第3回 ⇒ http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11329602523.html
第4回 ⇒ http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11329602926.html
白川美紀さん 第1回⇒http://ameblo.jp/mnbb-art/entry-11345589993.html
第2回の今日は、制作や素材についての思いについてお聴かせ頂きます。
お楽しみ頂けましたら、とても嬉しいです。
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ベルガモのかけら
40×53cm
2009

果物籠 フレスコ
32.5×50cm
2006

春のワルツ
31.8×41cm
2009
日下
さて、白川美紀さんの制作や素材についての思いをお聴かせ頂きたいのですが。
おもに油彩とテンペラの混合技法で制作を始めたきっかけ、その手法の魅力などを
お聴かせ頂けますか。
私自身はテンペラについて無知なので、素材と技法について少し分かりやすく
お聴かせ頂けたら嬉しいのですが。
白川美紀さん
テンペラとは、卵をのりとして使う絵の具のことです。
今、みなさんが油彩というと連想するキャンバスに油絵具で描くというやり方が出る前の
西洋の昔の絵の具ですね。
私は、油彩とテンペラを併用した方法で、いわゆる古典絵画技法の一つです。
日下
顔料を定着させるのりに卵を使うということですよね。
白川美紀さん
そうですね。卵を使って絵を描く?!と驚かれるのですが、実際に使う卵の量は、
ほんのちょっぴりです。制作も八割ぐらいは油絵具で、1割程度がテンペラ絵具でしょうか。
しかもベターっと一気に塗るのではなくて、油絵具が乾かないうちにハッチングで部分的にいれたりなので、絵具として想像される使い方ではないかもしれません。
西洋絵画の歴史では、フレスコという漆喰に直接絵を描く方法があり、次にテンペラという
卵を糊にした絵具が使われはじめて、そこからテンペラと油彩、そして最後に油彩
というやり方になっていくのですが、現代のみなさんが連想される油彩の前の描き方です。
完全な油彩画でもないし、100%のテンペラ画でもない。その中間です。
昔の西洋の方法ですが、意外に日本画に共通点も多いと思います。
膠(にかわ)や顔料を使ったり、ちょっと平面的な輪郭の強さだとか、、、
日下
テンペラだけで描くと輪郭が強くなるということでしょうか。
それはハッチングで面が回り込むように線を入れていくので、輪郭に近くなるほど
線の集積が多くなるからということでしょうか。
白川美紀さん
油絵のチューブをギューっと絞って沢山つかうのと違って、薄塗り薄塗りを重ねて
完成します。
絵具の盛りで表現ができないので、かたちをちゃんと理解していないと、
すぐに行き詰まります。なので、大幅な変更をするときは、全部取り去って、
はじめからやり直します。
日下
すごくデッサン力が問われる制作ですよね。
白川美紀さん
それと私はキャンバスではなく、下地を施した板を使ってます。
下地でにかわと石膏を混ぜたものを、何層も塗って乾かした板に描いているんですよ。
下地作りも描き方も、ちょっとずつ積み上げて進めるので、 結構ストイックな感じですね。
日下
テンペラというのは、本当にハッチングで描くというものなのでしょうか。
白川美紀さん
そうですね。例えるなら刺繍をするような感じです。
面相筆の細さとか、針の先みたいな筆で油性の上に、水性の絵具が乗っかるものだから、
ものすごく細い線が、ピリピリピリ~ッと入る感じです。
日下
う―ん。油性の上に水性。
白川美紀さん
そうなんです。油が水をはじくので。物凄く鋭い線になるんですよね。
やっぱり油絵の上に油絵の白を乗せるのとは違う緊張感というか、物凄く繊細で
鋭いというか。
日下
本当に間近で見てみたいですね。
白川美紀さん
そうですね。結構細かいんですよ。
日下
そうしたら本当に時間もかかるのでしょうね。
白川美紀さん
はい。
本当に最初はこういう画風になるつもりは無かったのですが。
日下
じゃあその都度、顔料を卵で溶いて、という感じでしょうか。
白川美紀さんが以前受けられたインタビューでは、テンペラでは卵の速乾性を活かして
描くということをお話になられていましたね。
白川美紀さん
色はある程度作っておいて、ある程度時間が経ったら捨てて新しいものと変えてという
感じです。色は白テンペラなので。
日下
白テンペラ。

空製造器
41×30.5cm
2006

時計 A
15×15cm
2005

時計 -ウサギ-
11×11cm
2005
白川美紀さん
はい、白い色だけテンペラです。全色ではないんです。
他の色は樹脂分が多い油絵具で透明度があります。あとの1,2割だけ、白テンペラです。
テンペラは、白しか使っていないんです。テンペラというと、みなさんに100%テンペラで
描いてると思われるのですが、白だけなんです。
日下
えっ、そうなんですか。
逆に面白いというか、いろんな色をテンペラで描いているのかと思いました。
白川美紀さん
違うんですよね。白を重ねるというよりは入れ込んでいくんですよね。
繊細な刺繍と同じですね。
日下
白を使っているところというのは、例えばいろんなところで白をつかわれるでしょうか。
白川美紀さん
はい、ハイライトとか。あとはすごく強くしたいところを、面取りでハッチングしていくとか。
後は例えば、動物の毛とか。でも黒い毛を描くのなら、ある程度毛をバサバサ描いてから、
白をちょっと入れるとか。
感覚的にやっているから、『どこに使っているの?』と聞かれて、改めて説明するのは
何か難しいですね~。
日下
いえ、私は蓄音器の作品とかとても面白いと思っていたので、あの作品の空の部分かなと思いました。
白川美紀さん
なるほど。空ではなく、蓄音器本体とかちっちゃい人物のところですね。

Giocare-遊ぶ-
22.5×27.5cm
2006
日下
どうして白い所にテンペラを使うのでしょうか。やはり際立たせるためなのでしょうか。
白のところが、油絵のところよりも鋭く入るということですよね。
白川美紀さん
鋭い、鋭いです。すごく緊張感が出ます。私にとっては、ピリピリと繊細な緊張感が
とても心地いいです。
日下
以前に白川美紀さんがお受けになったインタビューを拝読していたら、
『油彩とテンペラの混合技法が自分にあっている』とお答えになっているところが
ありましたが、詳しくお聞かせいただけますか。
白川美紀さん
テンペラだけで具象を描こうとすると、不透明な性質のためか、ちょっと装飾的な画風に
なるんです。
でも、油彩絵具と併用することで透明感も出せるし、繊細な描写もしやすくなる。
例えるなら、油彩だけで描くのが、1+1+1、、と絵具を重ねることだとすると、
もっと微妙な0.5とか0.7の重ねが出来る。
その繊細な作業の積み重ねが、作品に独特の深みを出してくれると思っています。
それと、私はクラシックなモノがとても好きなので、昔から残っている素材なら、
時間が経っても美しいんじゃないかと信用してるところもあります。
以前、北鎌倉に住んでいた時、近所のお寺では、仏画などの所蔵品を一般に
公開していました。
お寺で所蔵してる掛け軸を、鴨居から洗濯バサミでぶらさげた、とても無造作な
展示だったんです。もちろんライトなんて当たってません。
でも、ところどころ剥げたり、何を描いているかよくわからない位色の褪せた絵を、
とても美しいと思いました。 洗濯バサミでぶら下げてあるにもかかわらずです(笑)。
もしかすると、描かれた当時の絵ならば美しいと思わないかもしれない。
時間の経過を感じさせるから、とても感動したのかもしれません。
最近、アクリル絵具を使う作家さんも多くなりました。実際、扱いはとても楽だし、
メディウムで幅広い表現ができるものと思います。
でも、私の場合は油絵具が乾くタイミングとか、テンペラを入れたときの緊張感に
慣れてしまっているので、アクリル絵具を使って、練りが違ったり、乾く時間が変わると、
もう、アレッ?!って手が止まっちゃうんです。
それに、新しい技法を習得するのに時間もかかります。
その時間を、絵を洗練させたり、デッサンに向けたりに使いたいですね。
日下
私はテンペラの経験が無いので、とっても新鮮なお話でした。ありがとうございました。

時計 D
11×11cm
2005
個人蔵
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白川美紀さんとは、前回の岡沢幸さんのご紹介です。
仙台七夕3日目の駅地下レストランでランチを頂きながら、お話をおきかせ頂きました。
繊細で、感性鋭く、日常のモノ、風景をじっと見入ってしまうような絵の中に
引き込まれるような素晴らしい作品にしていらっしゃると思いました。
デッサン力など描画の技術と感性が秀逸だと感じました。
ご自身も2歳になるお子さんの子育てをしながら、制作活動をされているということで、
私も昨年出産した者として、とても共感を覚えました。
皆さんもぜひ白川美紀さんの作品をご覧になってみてはいかがでしょうか。
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◆白川美紀さんのホームぺ―ジ⇒ ⇒http://www.miki-s.com/
◆白川美紀さんの展覧会予定
◇展覧会名 ~りらく大人の文化祭~「 F NALE(エフナーレ)みんなのアート
日時 2012年9月27日(木)~10月2日(火)10時~19時
展示全体の会期は、9月20日(木)~10月9日(火)
会場 藤崎百貨店 一番町館5F 仙台市青葉区一番町3-2-17 ⇒http://www.fujisaki.co.jp
*詳細は、白川さんのHP⇒⇒http://www.miki-s.com/でご確認ください。
◇展覧会名 青葉アートスクール展
日時 2012年9月21日(金)~26日(水)10時~19時 (最終日は~16時)
会場 せんだいメディアテーク 仙台市青葉区春日町2-1
⇒http://www.smt.city.sendai.jp
◆白川美紀さんのインタビュー記事が掲載された雑誌
「大人の情報誌 りらく 2012年6月号」
⇒http://www.riraku-sendai.co.jp/