3 大事なもの

 

 ごおおおおおおおおおお・・・。

 

 次の日、また空から怖い音が聞こえて、シャーラは窓から空を見上げました。

 

 

「今日は1日、外に出てはいけない。」

とお父さんに言われています。

 

 だから、マルラ姉ちゃんもシジ兄ちゃんもマハド兄ちゃんも、みんなそろって家にいます。

 シジ兄ちゃんは学校に行かなくてよくなってちょっと喜んでいましたが、でも外に出られないので残念そうな顔もしていました。

 マハド兄ちゃんはそんなシジ兄ちゃんと家の中で「さっかー」ができるので喜んでいました。

 お父さんは朝からどこかへ出かけています。

 そして、空から音が聞こえたのです。

 

 

 シジ兄ちゃんとマハド兄ちゃんもシャーラと同じ窓から空を見上げました。

 

 飛行機が飛んでいました。

 でもいつもよく見る鳥が翼を広げたような形の飛行機ではなく、蛾みたいな三角形の形をした飛行機でした。

 

「戦闘機だ。」

とシジ兄ちゃんが言いました。

 

 そのせんとうきに向かって、向こうの建物の陰から何かが火を噴きながら昇っていくのが見えました。

 

 せんとうきはお尻から火の玉をいくつも出して、ひらりとそれをかわして空の上の方に上っていきました。

 それから、くるりと宙返りすると、その翼の陰からさっき向かっていったようなものが火を噴いて地面の方に向かって飛び出しました。

 

「かっこいい・・・。」

 マハド兄ちゃんがそう言うと、シジ兄ちゃんがマハド兄ちゃんの頭をゲンコで1つごちんとやりました。

 

 初めせんとうきに向かって何かが昇っていったあたりの建物の陰から、真っ黒な煙が噴き上がりました。

 それから大きな音が聞こえてきました。

 

 どおおおおおおおおおんん!

 

 昨日ほど大きな音ではなかったけれど、シャーラは思わず耳をふさぎました。

 

 せんとうきはそのまま、ひらりと向きを変えて、空の彼方に消えてゆきました。

 

 しばらくすると、空からたくさんの紙がふってきました。

 

「何が始まったの?」

 シャーラはシジ兄ちゃんに聞いてみました。

 学校に行っているシジ兄ちゃんなら、何か知ってるかもしれないと思ったからです。

 

「タラントが壁の外でたくさんの人を殺したらしい。」

 シジ兄ちゃんは学校で聞いてきたことを少し話してくれましたが、シャーラにはよくわかりませんでした。

 

 どうしてそんな酷いことをしたんだろう?

 そしたらどうして、わたしたちの街が「くうばく」されるの?

 

 

 しばらくするとお父さんが外から帰ってきました。

 

 お父さんはポケットから1枚の紙をとり出して、お母さんとおばあちゃんとマルラ姉ちゃんとシジ兄ちゃんに見せました。

 シャーラとマハド兄ちゃんは見せてもらえませんでした。

 

 そのあとお父さんはその紙をカマドの火の中に放り込んで燃やしてしまいました。

 

「ビラを拾ったことがバレると、タラントに捕まるかもしれないからな。」

 それからお父さんは、家族みんなに向かってこう言いました。

「大事なものをまとめなさい。それを持って南に避難するぞ。早い方がいい。」

 

「子供たちは荷物は少なくしなさい。いちばん大事なものと、2番目に大事なものだけに。」

 お父さんがそう言うので、シャーラはちょっと悩みました。

 

 いちばん大事なものは決まっています。

 サラムとメイルです。

 

 でも、2番目は?

 

 家族を描いた絵だろうか?

 仲良しのエミリにもらった髪飾りだろうか?

 それとも、みんなで海に遊びに行ったとき拾った緑色のきれいな小石だろうか?

 

 シジ兄ちゃんは、誰にも触らせなかった漫画の本と、服を丸めたさっかーボールにしました。

 マハド兄ちゃんは、なんだかよくわからない木の人形と木で作った銃の模型を持ちました。

 マルラ姉ちゃんは、大人と一緒に「みんなに必要なもの」を準備しています。

 

「シャーラ? そのお人形2つでいいの?」

「あ、これは、2人で1つだから。」

 

 あと決めていないのはシャーラだけです。

 大急ぎで2番目を決めないといけません。

 

「んと・・・これにする!」

 シャーラが選んだのは、エミリにもらった髪飾りでした。

 

 お父さんがどこかで手に入れてきた荷車に、家族の荷物を積んで家族全員で南に向かって歩き出しました。

 荷車は荷物でいっぱいです。

 その中に、シジ兄ちゃんの大事なものとマハド兄ちゃんの大事なものも入っています。

 

 だからお父さんは子供の荷物は少なく、って言ったんだな。とシャーラは納得しました。

 でも、です。

 シャーラの大事なもの=サラムとメイルはシャーラが手に持っていますし、髪飾りは頭に着けています。

 つまり、シャーラの「大事なもの」は荷車をいっぱいにしたわけではないんです。

 シャーラはちょっと得意な気分になりました。

 

 お父さんが荷車を引いて、お母さんとマルラ姉ちゃんが後ろを押します。

 そのあとを、おばあちゃんとシジ兄ちゃんとマハド兄ちゃんとシャーラがついて歩いてゆきます。

 

 まるで家族みんなで海まで遠足に行った時みたいです。

 シャーラはちょっと気持ちがウキウキしてきました。

 もちろん、海に行った時はこんなに荷物は持っていかなかったけれど。

 

 

『ラザに生まれて』はこちらで最初から読めます。

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