164⭐️ 企業風土はドライバーを育成するためになぜ必要なのか? | JTDO酒井誠

JTDO酒井誠

プロドライバーを育てる3つのルール【5刷】と
プロドライバーの教科書【3刷】の著者(共に同文舘出版)一般社団法人 日本トラックドライバー育成機構 [JTDO]代表理事


私が現在の前身の会社(合資会社)に入社した当時と現在の会社(株式会社)の風土(社風)全く別物になっています。それは経営者である私がかける時間と労力を惜しまずに会社を一から作り直す覚悟のもと、行った結果なのです。
 入社当時の風土は、ドライバーのひそひそ話しや、ドライバーの輪の中に経営者が入っていくとサッと散っていく、または突然会話が途絶える、そんな雰囲気が根底にあるもの(風土)でした。良い人材は去っていき、(言い方は悪いですが)使えない人材が居座る会社になっていました。
 そういった風土のもとでは、例えば「輪止めを徹底しよう」と経営者が推奨したとしても、ベテランドライバーが「そんなのやらなくていい」「やったところで一銭の金にもならない」と経営者の耳に入らない程度に囁くために、何をやろうとしても何も前に進められない状況となっていますし、当時の私の会社も正にそうであったと思います。
 仮に、新入社員が入ったとすると、新入社員が「輪止めは何のためにするのですか?」と先輩ドライバーに聞くとします。
 良い風土の会社では、「目に見える輸送品質だからしっかりやるべき」と教えてくれる先輩ドライバーが育っている。
 悪い風土の会社では、「社長の単なるこだわりだ。一銭の稼ぎにもならないから、社長が見ているとこだけやっておけば良いんだよ」と新入社員に教えてしまいます。だから、良い素材が入っても育たないのです。
 では、どうすれば風土を変えて行けるのでしょうか?
これは私の経営上の最大のテーマでもありました。
私の会社はのどかな田園地帯の中にある田舎の運送会社です。何気なく農作物を収穫する老夫婦の姿を見ていた時にふと思ったのが、すぐ隣にある畑とは農作物の実り方が全く違うことに気づいたのです。同じような陽当たりで、降雨量で、面積でなぜこんなにも収穫に差があるのだろう?と疑問を抱きました。
 答えはありました。耕し方に差があったのです。畑に老夫婦が来る回数が隣の畑とは比較にならないくらい多いことに気づきました。雑草を取り除いたり、耕運機で土を起こしたり、肥料を与えたり、とにかく手をかけているのがわかりました。
 会社も同じで、会社の風土は畑の土を耕すように考えれば、多少種や苗にバラつきがあっても(入社当初の質の差)良い実がなる(人材が育つ)と置き換えて考えたのが、私の会社の風土に関する考え方の原点でした。
 会社の風土を変える=畑を肥えた土壌に変える
具体的にどうすれば良いのだろうか?
 私はこう置き換えて考えました。
・耕す=基本的なアクションを一つ決めて徹底的に行う
・肥料を与える=教育訓練に費やす資金を予算化する
       雑草を取り除く=労使問題やドライバーの不満ごとは小さいうちに(初期段階で)取り除く
 前書でも何度か触れましたが、私の会社は会社の風土を変える目的で「輪止め」を3年くらいかけて、徹底的に行いました。納得いかない者やきつく注意されて反発心を抱いた者の多くが会社を去っていきました。
 生みの苦しみを経営者としてしっかり味わいましたが、会社が根底から変わってきたなという実感も味わいました。「輪止め」という基本アクションが身につくと、徐々に難易度の高い目標も掲げられるようになったのです。畑で例えると、野菜類が上手に収穫できるようになったので、次は果物にも挑戦してみようというようなことです。
 肥料を与えるという位置付けとしての「教育訓練を予算化する」は、いくつか選択肢を用意しました。
       ドライバーに国家資格である運行管理者資格を取得させるための教育訓練予算
       全日本トラック協会が主催する「トラックドライバー・コンテスト」で入賞を目指すための教育訓練予算
       大型自動車免許などの資格取得を支援する予算
       「同期」入社を対象とした泊まり込みの研修開催予算

 特に結果が顕著だったのが、トラックドライバー・コンテストでの全国優勝や国土交通大臣賞の4連覇、同期研修に参加した者の高い成長と定着度でした。

 最後に、雑草を取り除くという位置付けとしての「労使問題やドライバーの不満ごとは小さいうちに(初期段階で)取り除く」は、当時の労使間の不満や摩擦の原因となっていた給与問題にメスを入れました。

 経営者の私にとって一番辛い日が毎月の給与支給日の翌日でした。

       思っていたのと違い給与が少ない
       〇〇手当の計算根拠を教えて欲しい
       こんな給料では生活していけないので、割の良い仕事に変えて欲しい
       残業時間がカットされているのでは‥
       歩合手当のもとになっている運賃は本当に正しいのか

重箱の隅を突っつくような内容も含めて、応えるのに私はとても大きな心労を感じていました。

 「思い切って給与体系も刷新してしまおう」そう決心しました。結果から言うなら、給与に関する苦情や問い合わせは皆無に等しくなりました。

 問題や不満を初期段階で摘み採れる給与体系に変えたからです。

 昭和27年の創業当時から変えていなかった「運賃の◯%を歩合給として支払う」給与体系が限界点まで来ていたのです。

 限界点とは、往々にして取引が長い荷主との運賃は高く、新規取引の運賃は低い水準で始めることが多い為、安めの運賃となりがちでした。結果として、きつい仕事なのに給与が低い運行と比較的負担が少ない仕事なのに稼げる(給与が高い)運行と格差が極限まで開いてしまっていたということです。

 運賃の良し悪しではなく、運行にかかる負荷をポイント化して、1ポイント=28円というように明確化し、ポイント設定に(初段階)大きく配慮しました。これが不公平感や割に合わないという不満を初段階で解決するのが狙いです。

 そして、同じ負荷の運行をしてもやる気次第で給与アップできる係数システムも加えました。発想の原点は、航空会社のマイレージ制度でした。同じマイル(当社でいうポイント)でもステータス(利用度に応じた会員の種別)によって貯まるマイル数が変わるように「係数」という考え方を入れました。

 これが、会社の風土を大きく変える転換点になった発想となったのです。係数は入社時1.00ですが、現時点で最高の係数を持つドライバーは1.25を超えています。この係数を稼いだポイントに掛け算するのです。同じ負荷の運行をしても入社当時より2割5分増しで稼げるのです。

 なぜこの「係数」が会社の風土を変えたか?経営者がやって欲しいことを図表◯のように数値化して示し、ドライバーの意思で選択できる「自由度」を盛り込んだのが良かったと分析しています。

 結果どんな良いことが起きたかというと、

       損害保険フリート割引率75%が長年維持できている
       トラックドライバー・コンテストへの参戦選手が多く輩出でき、事故や違反のない模範的なドライバーが多く育った。(無事故無違反が参加条件のため)
       給与改定前より人件費率がダウンして、ドライバーの職場環境改善(物流施設の新築など)に投資できた。

などが大きかったです。

 ただし、ひとつ理っておきたいのが、「会社の風土を変える特効薬として給与改定が有効である」と言いたいのではないということです。

 当社ではたまたま給与改定が必要であった時期に上手く「合わせ技」で、以下の3つを解決しようとした、あくまで「結果」なのです。

   会社(経営者)がドライバーに具体的に何をしてもらいたいかを示したい
   無かった評価方法をドライバー気質に合わせて設定したい
   ドライバーのモティベーションを上げるしくみが欲しい
 さて、ここまでは会社の風土はドライバーの育成になぜ必要かを述べてきました。それを補完する形で「しくみづくり」をすることでドライバーが育ち、会社に利益をもたらすと私は考えます。
更に詳しく知りたい方は、↓
小さな運送会社のためのプロドライバーを育てる3つのルール

現在5刷となった人材育成本です。業種業界を超えて好評いただいています。

現在3刷のドライバーのための教科書です。高校生から理解できる様に編成されております。