世間を騒がせた「霊感商法」

教団について何も知らない人から見れば、とても怖いイメージだと思うが、
実際のところ
家に訪ねてくる教団の人間はイメージに反して
「若くて優しい娘さん」的存在であるため、
ターゲットとなる奥様方の警戒心はゼロに近い。

「新規隊」が売る商品は、一次商品として「表札」「念珠(数珠)」「香合仏」等、比較的単価が安い商品(3万~20万円程度)である。
【香合仏の一例  (教団が売っていたものとは別物です)

一次商品を授かったゲストを店舗に連れて来て、店長がトークをし更に高額の商品を売り付ける。これを二次商品と言う。

主に弥勒菩薩などの仏像。水晶玉、等(20~300万程度)であるが私が現役だった二十数年前は霊感商法の代表的な商品である「壺」や「多宝塔」は既に売っていなかった。それ以前に相当マスコミに叩かれたからだ。

商品が一新されたことに関して店長(新規隊のアベル)は
「霊感商法の欠片も感じさせない」
と誇らしげに語っていた。


新規隊は表向き「仏壇店」の店員が戸別訪問により、在宅の主婦をターゲットに教団の商品を売り付ける。


訪問先で最初に
「今、キャンペーン期間中で無料で手相を見させて貰っています」
と言って手相を見る。
特に専門的な知識は、あまり持っていなくとも問題ない。

手相を見る相手、ほぼ全員に使うトークとして…
親指の付け根の脹らみにある多数の橫じわを指して(下図赤線部分)
「情が深い方ですね。涙もろいんじゃないですか?」
と言うと、大概の奥様は
「そうなのよ~、わかる?」
と、乗っかってくる。

手相を見るために手の平を触ることにも意味がある。
身体が触れることで一気に親近感が増すのだ。
「苦労されてるんでしょうね?」
なんて言葉をかけると人によっては
苦労話を延々話す人もいる。


親指の第一間接に人の目の形をした線(下図 緑線)がある人、また手の平のどこかに十文字の線(下図 青線)が出ている人。これは先祖に守られている相である。
後々、「使命感」を植え付けるための伏線となる。
分かるのはこの程度だ。


詳しいことをゲストが訊いてきた場合、
「手相は3ヶ月くらいで変わって行きます。詳しいことを知りたい場合は変わらないもので見ていくと良いですね。例えば誕生日とか名前とか…。
良かったら姓名判断で見てみましょうか?
紙に書きますので、テーブルをお借り出来ますか?」
これで居間や台所に上がり込むことが出来れば、かなりの確率で一次商品の契約が決まる。

姓名判断は統計を元に作られたもので目に見えないスピリチュアル的な要素は少ない。
この鑑定についても知識は浅かったが、常に画数についてのマニュアルを持ち歩いていたので、分からないときはそれを頼りにゲストにトークをすることもあった。

浅い知識ながら押さえるべきポイントは
・相手のニード(悩み)を知ること。
・「転換期」であることを伝えること。
・神仏に対し徳を積むこと。
などである。


画数にはそれぞれ特徴がある。
吉数、凶数、人気数、極端数、聡明数等、
それらの数が総画、外画、天画、人画、地画、のどこにあるかで性格等々がわかる。

【姓名判断の画数の出し方例 占いサイトより引用】

また、引き合う数字と言うものがありその数字同士を線で繋いだ時の形で、その人の持つ因縁などもある程度分かる。
特に水子を持たれている場合、かなり高い確率で分かるようになっていた。あくまで統計である。

ゲスト本人の反応と、ある程度、画数から図り知ることの出来る性格、これまでのこと、これからのことなどを諸々交えながら、ポイントを抑え、商品を買うことのメリットを伝える。

ゲストが悩みを打ち明けてくれれば、こちらの思うツボと言える。
苦労話を受容し、労い、称賛する。
ビデオセンターの手法も同じだが、とにかく聴いて、相手を喜ばせる。

「転換期である」
ことを伝えるのは最大のポイントと言える。
「これまでの苦労が今まさに報われる時」
「今日、私がここに訪問し奥様と出会えたことは先祖様の導き。偶然ではなく出会うべくして出会った」
「今日のチャンスを逃してはならない」等々

今この時を逃してはならない、と言うことを強調する。「今日、たまたま家に居た」と言う人には出会いの偶然を先祖の導きと思わせるのに更に都合が良くなる。
とにかく「今」、を強調し即決させる。家族に相談されたりしては、反対され絶対に契約は決まらない。


「神仏に対して徳を積むこと」
として、特に先祖供養に関連した一次商品を買うことが大きな徳積みになることを強調する。
ここで、前述した先祖に守られている手相を持ち出すと、ゲストの使命感を強くさせる。
「あなたにはこの家を守っていく使命があります。先祖に期待されています。」

程なくゲストと契約が成立し、支払いをさせた後、
「商品を迎えるにあたり自らの心を清め、また先祖供養の意味も込めて十日間の写経をしていきましょう」
と言う約束を取り付ける。
信仰的な話をしているように見せかけ、実は本人の心変りがしないよう、クーリングオフ防止対策だったのである(これは店長に実際に教えられたこと)。訪問販売のクーリングオフ有効期間は8日間以内。真面目に写経を続け、約束の十日間が終わってからでは、既にクーリングオフは出来ないからくりだ。


他の店舗のことはよく分からないが、私が居た店舗ではあまり脅迫めいたトークはしていなかった。

商品を買ったゲストが後日ビデオセンターに入会し、教団のことを知ることになれば、内部事情も分かってくるが、ビデオセンターに繋がらなかったゲストは、おそらく自分が騙されたとは気付かないままであろう。

私が新規隊に居た頃、ゲストが160万円の水晶玉を二次商品として購入した。
当時、桜田淳子さんが合同結婚式を受けることで、連日、統一協会のことがテレビで報道されていた。
当然、霊感商法のこともワイドショーの再現VTRなどで詳しく伝えられていた。
それを見たゲストが
「この間、霊感商法のことがテレビでやっていたの。なんか凄く怖かったんだけど、あなたたち、誤解されたりしない?あんなのとは全然違うのにね?」

冷や汗ものだったが、あまりに報道のイメージとのギャップが大きすぎて、それとは結びつかなかったのであろう。

一次商品の段階では新規隊メンバーがゲストとマンツーマンでトークし契約を取る。
しかし、その後は
「アフター婦人」と言う新規隊とは別の壮婦のメンバーがかり出される。
新規隊メンバーは若くて独身のため、年配のゲストの本当の気持ちを理解することに限界がある。
そこで同年代のアフター婦人が、同じ立場の主婦としてゲストの気持ちを共有した上で、改めて神仏に徳を積むことを強調する。
一次商品を買った時点では、当然二次商品を買わされることになるとは思っていない。

アフター婦人は
「この店で商品を買う前には、周囲に色々と良くないことが起こっていた。これは先祖からの何かしらの報せであった」、であるとか、
「自らが持つ因縁のなせる業であった」とか、結構、脅迫めいたトークを入れていた。
また商品を買った人間として、良かったことの証しも行う。

アフター婦人とゲストを出会わせるのは、アフター婦人本人の自宅であった。
新規隊メンバーが「うちのお客様で商品を買って頂いたことで、人生が凄く変わった。良くなった、と言って下さる方がいらっしゃるのです。○○さんも一度会って、話を聴いてみられたら良いですよ。」と言った具合に持ちかけ、自宅に連れていく。

そこにはアフター婦人本人が本当に購入した「弥勒菩薩」などの高額二次商品が飾られており、実際にゲストに見せるのだ。

店舗の人間ではなく、ゲストと同じ立場の「一お客」として証しをすることは、ゲストの購買欲を高める効果的な方法であった。その上で、改めて店舗に連れていき、店長の話を聴かせ二次商品をすすめていく。
非常に巧妙で手が込んでいた。



新規隊でも毎日、朝から晩まで任地をひたすら訪問して歩いた。
留守宅も多く、玄関で呼び鈴を押し、中から人が出てくるまでの間に立ったまま眠ることがよくあった。

中から人が出てきて、手相を見ながら相手の話を聴いているつもりがウトウトと居眠りをしてしまい、姓名判断をするため、居間に通されたのに、ゲストの話が全く頭に入っておらず、ニードが掴めないままの、あやふやな姓名判断トークをしたこともある。

昼休みは各々、最寄りの商店で昼食を買って近くの公園などで食べる。
メンバーは朝、送迎担当のメンバーに任地で降ろされ迎えが来るまで単独で歩く。その為、食事を車内で食べたりすることは出来ない。

私の任地には海があった。
海岸でパンなどを食べ、人目につかないところで横になり、昼休みの僅かな時間に爆睡した。

教団に居るときは、まともな給料も貰えず、靴もせいぜい1980円程度の安物しか買えなかったが、毎日歩くことで一ヶ月で履き潰してしまうのだった。

毎朝、出掛ける前の出発式では、各々その日の目標を発表する。
月末が近づき全体の売上が月の目標に遠い場合には店長の激しい分別がある。

また任地から定期的に電話を入れるのだが、その日の実績が全体でゼロと言う日は、店長から
「霊界の空気が悪い」
と言われ、線香一つでも良いから、ゲストに買わせることで
「霊界の空気を変えろ」
と指示されることもあった。

ノルマは厳しかった。それでもお父様のみ旨の為なら、と日々命懸けだった。
同じ目標に向かって心を一つにした新規隊のメンバーとのホームでの生活は、体力的にはハードだったが楽しいことも多かった。

余計なことは考えない、思考停止の状態で行う万物復帰の毎日。
教団に居た間で一番、充実感を感じていた時だったかもしれない。