統一原理を信じ、教団に全てをささげ生きていくことを決めた私は、大きな葛藤の中で苦しむこととなった。
統一協会で活動することは、家族を裏切ることになるからだ。近い将来、家族に全てを明かす時。彼らはどんなに悲しむだろうか?…考えるだけで涙が止まらなかった。
しかし、やらなければ地獄に落ちる、と言う脅迫観念に加えもう一つ、私を奮い立たせる大きな原動力となる感情があった。
「氏族のメシヤ」としての使命感である。
氏族とは家族を超えた親戚縁者、その先祖…と広範囲に渡る繋がりである。それらが皆、私を統一協会に入らせメシヤに出会わせ救いの道を歩ませるために霊界から長い間、見守りサポートして来たと言うのだ(霊界からの協助、という)。
特に代々信仰のある家庭は徳を積んでおり、子孫がメシヤに出会えるチャンスが大きくなる。教団はそのことを、べた褒めして来る。
「あなたの家は〇〇教の信仰があったから、メシヤに出会うことが出来たのよ。先祖に感謝しなくちゃね!?そして、導いてくれた先祖を今度はあなたが救うのよ。先祖がホントに喜んでいるわ。良かったわね〜。」
実際、元々家に信仰を持っている人間の方が、統一原理を受け入れやすい。「神様」や「先祖」「徳を積む」と言う概念に抵抗が無いからだ。
葛藤の中も使命感に燃え、当分の間は、内緒でビデオセンターに通っていた。
宗教だと知らず、入会当初、母親には全てを話していたのだが、コンサルタントからは、たしなめられてた。あまり話さない方が良いと。
せっかくのいい話を、理解する前に「何かあやしい」と言う猜疑心だけで反対され、やめてしまっては勿体ない。きちんと自分が理解出来るまでは、他の人に話さない方が良い、との言い分だった。その言葉の真意は、マインドコントロールが完了するまでサタンに邪魔されないように、と言う意味だ。
そんなある日、都会に就職している一番上の姉が帰省して来た。
夕食の席。何気ない話題から、姉がとんでもないことを言い出した。
「私この間、こわかったのよ〜。
なんか、姓名判断してくれるって言う人がいてさ〜。見てもらったら開運のために実印作った方がいい、って言われて買ったんだ〜。
そしたら今度、サークルに入らないか?って誘われて、入ったんだけど、忙しくてなかなか行けなかったの。
カルチャーセンターって言うんだけど、ビデオ見せられたり、セミナーとかすっごいあって、しばらく行けない時期に、誘ってくれた人が
『あなたの夢を見た、心配で連絡した』とか言って熱心だし凄く親切なの。
行けなくて悪いな〜とか思ってたら、実はそこ、人から聴いたんだけど
『統一協会』っていう宗教だったんだよ〜。
危なかった〜。洗脳されるところだったよ〜。」
……バレた。私が入会当初、母親に話してたこととほぼ同じ。
すかさず母親が切り出した。
「R子、あなたが行ってるところと同じじゃない?統一協会じゃないの?」
「万事休す」だと思った。
顔面から血の気が引いて行くのが分かった。
その直後、母親の口から驚くべき言葉が発せられた。
「良かったわね〜。早く分かって〜。洗脳されなくてホント、分かってよかった〜。」
幸運にも、母親は一ヶ月ほど前にサークルに入会した娘がもはやマインドコントロールを完了されているなど微塵も疑うことなく、早目に難を逃れたものと勘違いしてくれていたのだ。
私は、母親の勘違いに乗った。
「そうだったの?…分かってよかった〜!お姉ちゃん、教えてくれてありがとう!あのサークル、もうやめる。絶対行かない!あ〜よかった〜!」
必死の演技だった。九死に一生を得たほどの心境だった。冷や汗もの。
そしてサークルを辞めたことになった状況で、更に嘘を重ねた。ビデオセンターに行く日は、ワープロ検定受験のため職場に残って勉強すると言い、3DAYSと言う教団のセミナーに泊りがけで出かける時も、職場の研修と偽った。
それまで母親とは何でも相談出来る関係だったし、信頼し、尊敬し、愛していた。
そんな母親に嘘を重ねるのは心の底から辛かった。
嘘をつくよう指示を出すコンサルタントに辛い心情を語り、涙した。上手く嘘を付けるように、コンサルタントとロールプレイもやった。
全ては氏族のメシヤとしての使命を果たすため。全ての嘘は「善なる嘘」。
やがて来るカミングアウトの日までに教団は、葛藤を乗り越えられるほどの、より強固なマインドコントロールを施そうとしていたのだった。