春、バーニーズで(まあまあなネタバレ有り) | これ観た

これ観た

基本アマプラ、ネトフリから観た映画やドラマの感想。9割邦画。作品より役者寄り。なるべくネタバレ避。演者名は認識できる人のみ、制作側名は気になる時のみ記載。★は5段階評価。たまに書籍音楽役者舞台についても。

『春、バーニーズで』(2006)WOWOWドラマ

原作は吉田修一の小説。

監督・脚本 市川準

 

西島秀俊、寺島しのぶ、栗山千明、田口トモロヲ、倍賞美津子、利重剛、光石研、山中聡、他。




 

会社員の筒井彰(西島秀俊)は取引先でバツイチ子持ちの瞳(寺島しのぶ)と出会い恋に落ちる。

周りの心配はあったものの二人は結婚し、瞳の実家で瞳の母親(倍賞美智子)とまだ幼い瞳の息子文樹と暮らすことになる。たまに瞳の妹で絵描きの沙江(栗山千秋)もやってくる。文樹は定期的に瞳の元夫、実の父親に会いに行く。それさえも難なく受け入れ、それどころか文樹を自分の子のように可愛がり、家庭に不満などなかった。仕事だって小うるさい上司がいるものの、特段気に病むことでもない。

そんな日常を過ごしていたが、ある日、立ち寄ったバーニーズニューヨークで、昔一緒に暮らしていた男閻魔(田口トモロヲ)にばったり会う。けれどなぜか閻魔はそっけない。口に出た嫌味な言葉にはゲイの悲しみがあった。そういえばなぜ閻魔のもとを去ったのか思い出せない。

また、沙江の個展に行った時、「楽園」とタイトルがつけられた絵の前で立ち止まる。それを見た沙江は彰が思う楽園はどんなものか問う。最初はつまらない形だったが、誘導されるまま想像を巡らせると、自分の楽園が色付けされていく。

まだ小さい文樹の誕生日に腕時計を贈ったのには忘れられない思い出があったからだ。高校の修学旅行で日光東照宮へ行った時、時計を石畳の間に置き忘れた。沙江はもしかしたら今でもそこにあって違う時を刻んでいるかもねと言う。例えあったとして電池はとうになくなっているだろうからあり得ない。でもなぜだかもう一つの時間軸が気になり始める。

そうしていつのまにか閻魔の元を飛び出した理由も蘇る。

瞳とはどちらが上手い嘘をつくか「狼少年ごっこ」という思いつきのゲームをしたあとだった。自分はつい閻魔のことを話し、瞳もそれに匹敵するような嘘を話し、互いに嘘だとは言うのだが、彰は衝動にかられ日光東照宮へ忘れてきた時計がまだあるか見に行く…。

 

時計があれば家には帰らずそのまま失踪しようと思っていたが、時計はなかった。おまけに携帯には無断欠勤した会社からも、心配した瞳からも留守電が入っている。現実に引き戻された瞬間だ。思い切りをつけ、彰は今から帰ると瞳に連絡する。

 

おそらく、嘘話で、瞳は彰の話を本当だと思ったのだろう。それだけよく彰の様子や表情を見ていたのだと思う。だから迷った挙句、自分も本当の話をしたのではないか。彰は自分が本当の話をしたことで、瞳も本当の話をしたと思ったに違いない。もちろん瞳の話が嘘か本当かはわからない。

その嘘話が失踪の引き金にはなったが、淡々と何の変哲もない、どちらかと言えば幸せそうな日常のシーンが続き、なんら不満の持ちようがない、あったとしてそれは些細なことと片付けられるレベル、なのに何か心にオリが溜まっていく、そんなことが根底にあった。人の心の不思議に焦点があてられてる。

俳優の表情、仕草、声色が重要となる繊細な作品で、面白かった。

 

ラストは帰るにしても時間も遅く、瞳が気を利かせて一晩ゆっくりしてきてとホテルを手配する。彰はそれになんと答えるか…、で終わる。表情からは泊まるとも、泊まらず帰るともどちらとも取れる。ただ、わかるのは彰は瞳のもとへ帰るということ。

 

とにかく俳優の表現力が素晴らしいんで、そういう確実な役者を使う映像の醍醐味ってこれよな、と思った。

 

★★★