ファミリア | これ観た

これ観た

基本アマプラ、ネトフリから観た映画やドラマの感想。9割邦画。作品より役者寄り。なるべくネタバレ避。演者名は認識できる人のみ、制作側名は気になる時のみ記載。★は5段階評価。たまに書籍音楽役者舞台についても。

『ファミリア』(2023)

 

監督 成島出(『八日目の蝉』『脳男』『ちょっと今から仕事やめてくる』他)

脚本 いながききよたか

 

役所広司、吉沢亮、佐藤浩市、MIYAVI、高橋侃(たかはしなお)、室井滋、中原丈雄、松重豊、サガエルカス、ワケドファジレ、アリまらい果、シマダアラン、スミダグスタボ、他。




 

妻には早いうちに先立たれ、山里で一人暮らしの陶器職人の神谷誠治(役所広司)には、仕事でアルジェリアに赴任している一人息子学(吉沢亮)がいる。その息子が現地で見初めた女性ナディア(アリまらい果)を連れて、紹介と今後の考えを父親に話すために一時帰国する。子供の頃から厳しい紛争を生き抜いてきた孤児のナディアに第二の故郷を作ってあげたい思いもあって、学は仕事を辞めて父親と陶芸をやって一緒に生活したいという。嬉しさはあるが、せっかく仕事も順調なのに、さらに家庭を持つというのに、金にならない陶芸をやることはないと反対する。そうしてひとときの日本滞在を終えて学とナディアはアルジェリアに戻るのだが、武装勢力によるテロに巻き込まれてしまう…。

一方、誠治はたまたま半グレ集団に追われているマルコス(サガエルカス)を助けたことがきっかけとなり、マルコスの恋人のエリカ(ワケドファジレ)を通して近隣に住むブラジル人との交流が始まる。誠治としては深くも浅くもない適度な距離感で接していたが、地元有力者の息子の榎本海斗(MIYAVI)の半グレ集団、地元ヤクザらのいざこざに巻き込まれてしまう…。

 

事の始まりは文化の違いから起こった悲劇だ。復讐という負の連鎖が描かれている。その連鎖を誠治は身を挺して止める。学をテロで失い、後悔と絶望にいる中、頼ってくるマルコスとエリカを学とナディアに置き換えたのかもしれいし、またそこには自身も孤児だった過去が影響しているのかもしれないし、結局は人間性かな。

 

助けたい一心でテレビで耳にした身代金を用立てて東京は永田町に向かう誠治の短絡さ、直情気質は心が痛かった。また、ナディアに子供ができた喜びを報告しようと動画を撮った学、その動画の中の学が、明るい未来しか見えてない光と喜びあふれていて、なのにその動画が誠治の手元に届いた時にはすでにその中の学は実存しない、その描写がひどく切なかった。学を照らしてる砂漠の光が夕陽な点も。

その他、リアリティがあって心に響いたのが、クラブのある場所。中は色彩豊かなライブで熱気に溢れているのに、一歩外に出ると緑のある静寂とした片田舎であったこと。若者の様々な感情が混ざったパワーと普遍的な地方色の対比が、抗えない現実の強さを表しているようで物悲しさがあった。

あと、ポスターなどにもなっているのだけど、ブラジル人たちが住んでいる団地に囲まれるよう座る役所広司の画はインパクトがある。それも目線をはずしている(その視線の先にはパーティーを楽しむ住民らがいるのだが)。背負うもののない人生なんてないと言っているようだ。

 

マルコスは誠治に自殺した父親を重ねていた。誠治もやがてマルコスに学を重ねるのだろう。家族にはなれなくても、同じ国に住み、同じ町、地域で暮らす人間としての協和は生まれる。生まれるのが普通であるようにという願いを感じた。これはもちろん脚本もあるけど、監督の視点もあるけど、たぶん役所広司の力。役所広司の力で一気に見せられた(魅せられた)感じのする作品だった。

問題を提起したその答えは誠治≒役所広司の答えであり、観客側の答えはお任せするという余白もあった。その余白を引き受けてたのが佐藤浩市で、警察官としての駒田隆の立ち位置が多くの日本人なのかもしれない。

すごくいい映画だった。

 

★★★★★

 

 

ブラジル人役はほぼ素人だそうだ。格闘家でもあるサガエルカスは役者としてもいけそうな気がする。音楽活動をしているというルイ役シマダアラン、マノエル役スミダグスタボも良かった。

高橋侃は半グレの役だけど、よく合う。

吉沢亮の英語が、上手くも下手でもなく、赴任先で仕事上必要だからという程度の発音で、すごく良かった。これが流暢だったら一気に興醒めだ。

 

 

 

 

制作 ディグ&フェローズ

配給 キノフィルムズ

 


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