『帰ってきたマイ・ブラザー』レビュー | ことのは徒然

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日々の徒然に思いついたことを書き留めてます。

久々の世田谷パブリックシアター。

 

なつかしいなぁ、ここが出来てすぐくらいに、平田オリザさんのワークショップ通ってたんだよね。あの頃は、まだやっぱりお芝居に関わることがしたくて、いろいろ模索してたんだった。いや、若かった私。

 

思い出話はさておいて、今回のお芝居ですが。

 

 

今月から娘への仕送りが始まるので、少し倹約せねば、、、ということで、当分の間、自己投資を自粛中なんですが、

『帰ってきたマイ・ブラザー』

これは行くでしょ。

行くしかないでしょ。

 

だって、私の大好きな段田安則さん。

そして、私の青春時代の推し劇団、「劇団離風霊船」の顔だった高橋克実さん。

それからそれから、いつだって期待を裏切らない絶品芝居の堤真一さん。

 

勢ぞろいですよ!!!

 

あと、主役の水谷豊さんね。

舞台は見たことないし、実は『相棒』も見てないけど、『熱中時代』世代ですからウインク 毎週欠かさず見てましたから。舞台でどんなお芝居をされるのか、気になります。

 

そして、初代相棒の寺脇康文さん。元SETの看板ですよ!

女性陣は、池谷のぶえさん、峯村リエさん。

 

安心感しかない布陣。

 

で。

何より何より。

作家が マギー さん ですよびっくりマーク

 

ねえ、ジョビジョバ大好きだったんですけど? 深夜放送毎週楽しみだったし、なんなら2017年の復活公演も行きましたから!!!(そのあと行けてないけど……ゴメンナサイ💦)

 

ということで、今回はもうね、即買いですラブ

 

唯一心配だったのは、「水谷豊オンステージ」っぽい演出だったらやだな、、、という点のみ。

まあ、全然杞憂でしたよ。

そりゃそうですよね。これだけ個性派並べといて、使わない手はないもんね。

 

かつてバカ売れしたイッパツ屋の兄弟ボーカルグループ「ブラザー4(フォー)」。活動期間たった2年でフェードアウト解散して、それぞれ普通の暮らしをしていたのに、ひょんなことから40年ぶりに再結成するというストーリー。

 

※以下、ネタバレあります※

 

 

 

  登場人物

とにかく、四兄弟のバランスが絶品でした。

 

長男(若村ハジメ):水谷豊

陽気で、その場のノリでどんどん話を決めていっちゃう長男のハジメ。長男だけ名前がカタカナなんだよね。お芝居観ていたときは名前の字面はわからなかったのだけど、コミカルで、ちょっと現実離れしているところがあって、確かにカタカナ名っぽいキャラ造形だったな、と。あとでパンフレット見て納得しました。

 

ハジメ本人は、いつも本気で「みんなのため」って思ってて、悪気は全くないんだけど、結果的に周りを振り回してめんどくさい状況を生み出してる人。でも、実はお兄ちゃんの無茶振りがあるから、結果的に、なんか楽しいことおもしろいことが起きてる。まあ、物語を展開させていく主人公だよね。ゆるすぎて長男ぽくないんだけど、行動の根本に「みんなのため」があるから、最終的に長男に見えるところが不思議な人物。この絶妙なキャラ設定は、作家のマギーさんの手腕かなぁ。水谷豊のかる~い口調と軽快なステップがぴったりはまってました。いや、ほんとにびっくりするくらい軽快なステップなのよ、舞台上で。体重を感じさせない動き。あれはすごいね。何歳だっけ。(……中断してGoogle先生に質問中……)え、待って待って、70歳!!! マジか。マジですか。うそでしょ。絶対に見えない。最後、四兄弟で歌を歌うんだけど、ソロパートの声の若さよ。「カリフォルニア・コネクション」とか歌ってた頃を彷彿とさせる声だったよ。すごいな。それだけで尊敬するな。日常の努力がなかったら、ぜったいキープできるもんじゃない。『相棒』とか、人気長寿番組になりすぎて、キャスティングとかなんとか、ゴシップ記事もいろいろ出てて、水谷豊って老害なの?とか思わせるような書きぶりもあったりするけど、第一線で長くやり続けられているのには理由があるんだなあ、ってね、改めて痛感しましたよ。そういう見えない努力を無視して、おもしろおかしく伝えている情報を鵜呑みにしたらだめだねぇ。はあ、やっぱり物事は自分の目で確かめないといけませんなぁ。

 

次男(若村信二):段田安則

次男の信二は堅実派で現実志向。兄と正反対であるがゆえに、兄にめちゃくちゃ振り回され続けていて、兄の思いつきに辟易している。おかげで「堅実派」を越えて「超保守派」になってしまったタイプ。

もうね。出てきた瞬間にキャラが全身で伝わるの。ああ、段田さんだよ! さすがだよ!って思う。半分くらい白髪になったボサボサ頭にグレーの作業服。ちょっと前かがみっぽい歩き方。それだけで、経営している「店」の様子まで見えてくるくらいのカンペキな役作り。『セールスマンの死』のときも思ったけど、くたびれた中年をやらせたら右に出るものはいないんじゃないですか? なんていうか、あそこまで徹底してみすぼらしくしようっていう意気込みに感動する。しかも、不思議なことに「くたびれてる」んだけど「諦めてない」というか、なんか希望の灯火を秘めてる的な、そんな雰囲気を漂わせてるんだよね。ウイリーみたいに心の中に消えない過去の栄光があったりとか、今回の次男坊みたいに、堅実派で兄ちゃんには振り回されてうんざりしているくせに、復活コンサートするぞと言われると、文句言いながらも来ちゃうところとか、なんかまだ「内に何かが残されてる」って感じさせる「くたびれ感」なんだよね。やっぱり声のせいかな。風貌はめっちゃよれよれなんだけど、声がいいからねぇ。張りがあるからねぇ。あの声があることで、秘めた活力というか、そういう「生」の部分がにじみ出るのかもね。

 

人が良い感じもそこはかとなく漂ってましたよ。口では怒りを露わにして頑固に兄に反対してるんだけど、結局受け入れちゃうみたいなのが、ものすごく自然。すごいよね。セリフとセリフの間の感情の揺れがちゃんと流れているから、自然に観客を納得させることができちゃうんだろうなって思う。いやほんと、大好きです!

 

三男(若村裕三):高橋克実

三男の裕三はもう、高橋克実でなくっちゃできないヤツ。風来坊。どんな人生でも楽しめるヤツ。レモンイエローの上下の派手派手衣装で現れてね。ちょっと間違ったら、チャラく見えたり、ヤクザっぽくなっちゃったりするだろうに。なんだろう、あの独特な感じは。チャラくもなく、ヤクザっぽくもなく、ただただ「毎日楽しく生きてます」って感じがいい。何をやっても愛されて許されちゃう人。あんなヤンキーみたいな格好してて、人の良さが出てるってすごくない? まあ、でも、同じ黄色でもああいうレモンイエロー的な優しい色使いとか、衣装の妙もあるんだろうね。そういうところが、やっぱり演劇って総合芸術でおもしろいなぁ、って思っちゃう。

 

高橋さんは、ハゲを割り切ってからいい男になったよね。もしかして生まれた時からずっとハゲだったのでは?って思っちゃうくらい似合ってる。日本人でなかなかいないよ。スキンヘッドがかっこいい人。日本人はスキンヘッドにするとどうしてもしょぼくなりがちなんだけど、ばーんと顔が大きくて背格好も立派だから、西洋人的な迫力があるんだろうね。『セールスマンの死』のベンのときみたいに白スーツをビシッと着ても似合っちゃうし、今回みたいなカラフル派手派手衣装も着こなせちゃう。でも、くすんだ色の作業着とか着せたら、現代社会でくたびれたおっさんにもなれる。稀有な存在。ワタシ的には小劇場の星ラブ

 

四男(若村四郎):堤真一

そして四男の四郎。すごいよね。このメンツに囲まれたら、堤真一さんがもう末っ子にしかみえないから。かつての美少年、今はただのおっさん。言い得て妙。堤さんの顔はめっちゃ濃いから美少年というよりは、精悍な青年って感じだろうなとは思ったけどね。そして「造形のいいゴリラ」っていう、若干ディスりの入った形容がツボでした。兄貴3人に翻弄される末っ子がすごくよく出てた。いやいや堤真一の末っ子はなかなかレアなのでは? 

 

昔、ブラザー4が売れていたころは、すべて口パクで1回も歌ったことなかったし、今回も兄ちゃんが怖いからとりあえず集合はしたけど、舞台に上がるなんて絶対無理、とか言ってたくせに、実は40年ずっと持ち歌の練習してたとか。かなりこじらせてるけどかわいすぎる。まあ、演出上の都合のいい設定なのかもしれないけど、なんかそれもありそうだな、と納得させてくれるキャラでしたよ。なんだろね、堤さんのお芝居は、ものによってはガンバリすぎてて見てるほうが疲れちゃうこともあったりするんだけど(あ、これは私だけかもしれないです。個人的な感想です。)、今回は、なんか、いい具合に肩の力抜けてて楽しそうだったかも。いい意味で主張しない感じ? 堤さんは、すごく繊細な演技をされるので、どちらかというと映像向きかな、と思ってるんですが(これも個人的な見解です)、今回は末っ子というのがいい感じにはまってたと思いますね。

 

  ターゲットは中年世代

ストーリーとしては、再結成公演をやる/やらないがメインなんだけど、兄弟のあり方とか、過去をどう消化して前向きに生きていくか、とか、中年以上の心に直接響くテーマがもりだくさんでしたね。「明星」とか懐かしいワードも出てきたし、ヒット曲も昭和感満載。あからさまに私たちの世代がターゲットだなぁ、って。まあ、客層も同世代が多かった爆  笑

 

だから、若者はどんなふうに感じたのか、すごく興味があります。10代~30代で、この作品を鑑賞した方、ぜひ感想をコメントで教えてください!

 

 

  4兄弟と2姉妹の過去と未来のストーリー

個人的には、ブラザー4の追っかけ姉妹が抱える問題がすごくリアルでシビアだなぁ、って思いました。40年ずっと2人で毎晩のようにブラザー4に浸ってきたのに(いや、それはあまりにもファンタジーすぎるとは思ったけど爆  笑 でも私は演劇的ご都合主義設定はそれほど気にしないのでOK)、このまま2人共独身で、ずっとブラザー4を語り合いながら一緒に過ごしていくのだろうと思っていたのに、60歳を前にした姉が、結婚してブラジルに移住することになったという事情。姉も妹も思うところは色々あったろうに、それぞれが前を向いて進むことを決めたんだよね。

 

中でも「私、本当に行ってしまっていいのでしょうか。」っていう姉のセリフが妙に心に残ってます。セリフの前の間と、声の感じが絶品でした。残される方のつらさはもちろんわかるけど、この場合、残していく方はもっとつらいんじゃないかな、って思えてひときわ沁みました。去っていく人物が、妹ではなく姉だというところに、さらに重みを感じちゃったなぁ。私が上の子だからかな。下の子はもっと違う感じ方をするんですかね?

 

とにかく、2人は40年間ずっと、今は存在しない「ブラザー4」という過去にしがみついて生きてきたんだけど、やっと、過去を過去として清算して、未来に進みだそうとしているってことだよね。そのために姉は決断しなくちゃならなかったし、過去と決別するための「ブラザー4」の復活公演も、どうしても必要だったんだよね。

 

で、そういう姉妹と、若村四兄弟もやっぱり重なるところがあって。解散公演もしないままのフェードアウト。「ブラザー4」であったことを、なんとなく記憶の外に追いやるようにしながら生きてきた40年。うやむやにした過去は、消えたようでくすぶっていて、前を向いているようで、どこか過去に囚われている人生が続いている感じ。そんな四人が久々に顔を合わせたわけだけど、最初は、話をしても噛み合わなくて、共有している思い出がほとんどないと感じるわけ。でも、話しているうちに、ありありと蘇ってくる共通の記憶もあって、その記憶をたどりながら、一緒に生きてた事実を確認し合うんだよね。

 

で、最終的に公演をしよう、と決めたのは、追っかけ姉妹のためもあるのだろうけれど、自分たちのためでもあるんだろうな、と。過去をなかったことにするのではなく、追っかけ姉妹と同じように、過去に向き合って過去を過去として清算しようという共通の認識で、兄弟全員がつながったからなんじゃないかな、と思いました。だから、今回の復活コンサートが、「40年越しの解散公演」であり、これからのための「再結成」にもなったんじゃないかな。そういうところが、本当におしつけがましくなく、自然にすうっと入ってくるようなストーリーでした。

 

それから、兄弟の関係も本当に自然でリアルだった。

一人一人のキャラは立ってるんだけど、紋切型ではなくて、リアルな人間の複雑な部分がにじみ出ている感じ。たとえば、信二は、ハジメとは正反対なんだけど、どこかハジメが言うことに共感するところも心の中にあって、それがあるから最終的にハジメに渋々同意しちゃうんじゃないかなと思わせるんだよね。そういう心のヒダみたいなのがちゃんとある。だからストーリーに説得力がある。

 

4人ともぜんぜん話が合わないし、すぐ喧嘩になるし、みんな勝手なことばっか言ってるし、そもそも10年以上会ってないなんて兄弟仲悪いのかな? って思うようなことばかりなのに、話を聞いてるとなんか悪ガキがじゃれているみたいな感じで、どこかに確実に絆があるって感じられる。場当たり的なキャラの使い分けじゃなくて、ちゃんと人物が生きてるって、それぞれの過去と共に伝わってくる。さすがベテランの役者さんたちだなぁ、と。そして、何より、そういう人物を書いているマギーさんの人間に対する愛を感じる。愛っていうか、愛しさ? なんだろ。人間が好きなんだな、って感じる。すごいなぁ。こういう人間への優しい愛のある眼差し、かっこいいなあと、改めて思いました。

 

  最後に

今回のお芝居は、メインの四兄弟と、そのストーリーを補佐するサブ2姉妹のお話だったけれど、兄弟姉妹以外のさまざまな人間関係に当てはめることができる普遍的なテーマだったなというのが最終的な感想です。

 

ある程度の年月を生きても、まだまだ先の長い人生を抱えなければならない超長寿社会において、折り返し地点にきてしまった人が、過去とどう向き合い、どうやって次の1歩を踏み出せばいいのか。中年以降の人間にはしみじみと考えさせられることが多いハズ。

 

でも、ぜんぜん湿っぽくはなくてね。

 

最後の場面は、もちろん「ブラザー4」の復活公演で、かつての大ヒット曲を歌うんだけど、おじさま4人、ほんと楽しそうでこっちまで楽しくなる。私は、「四男坊~♪ 三男坊~♪ 次男坊~♪ 長男坊~♪」ってフレーズが好き爆笑

コンサート場面の延長でカーテンコールが始まって、グループ・サウンズのノリノリの音楽と楽しい踊りで幕が降りる。

 

人生の折り返し地点にいる、

あるいは折り返し地点が迫ってる、

または折り返しちゃった人たちへの

エールと希望に満ちてる。

 

オトナによる、オトナのためのお芝居。

 

平凡な表現で恐縮ですが、

「笑って、泣けて、深い」

まさに、そんな作品でした。

 

めちゃめちゃお買い得目目

観てよかったグッド!