少し前ですが1月15日、中日(なかび)に新橋演舞場へ行きました。
初春歌舞伎公演を昼夜通しで観てきました
前日1月14日に、海老蔵さんの團十郎襲名、勸玄君の新之助襲名記者会見があったので、満席の客席は普段より一層おめでたい空気一色でした
まずは、昼の部の感想から。
2度目なので、初日に観た時には気付かなかった、より細かいところまで楽しむことができました。
1.『義経千本桜 鳥居前』
舞台いっぱいに紅白の梅が咲き誇り、お正月らしく華やかですね~。
初日に初めて見た時は、なぜ義経が弁慶を鉄扇で打ったのかわからず、帰って調べて分かったという初心者っぷりでした。
今回は、幕開きに義経の口から、弁慶が土佐坊と海野を討ったので、兄頼朝の怒りをかいやむなく都落ちしているという語りを聞き取れました。
中村獅童さんは肺腺癌を克服されたとは思えないとても力強い佐藤忠信でした。狐の本性を現すところはドロドロした妖しさがあり、狐六方もユニークですね。ところどころ高音が「あらしのよるに」のガブになるのが少し気になりましたが第一声の「あたくしがめえったからは」や「やぶってくれべえか」など
澤村國矢さんの逸見藤太はやはり軽快で大変良かったです。静御前は義経の「思い人(おもいびと)」であると言うのを「かるいびと」とわざと言い間違えたり
大谷廣松さんの哀愁に満ちた静御前も前回同様良かったです。義経の大谷友右衛門さんとは、恋人同士というよりは、親子のイメージが先行してしまいます。いつか大谷廣太郎さんの義経と廣松さんの静御前で兄弟共演も観てみたくなりました
今回は衣装にも注目しました。市川九團次さん演じる弁慶の衣装は、成田屋にゆかりのある六弥太格子(ろくやたごうし)なんですね。
そして、佐藤忠信は源氏にゆかりのある源氏車。この車にかけた、逸見藤太の車尽くしの台詞も面白かったです。
2.『極付 幡隨長兵衛』
九世市川團十郎初演の当たり役。海老蔵さんがこの演目を選んだのは團十郎を継ぐものとしての心意気が感じられて嬉しいです
序幕 村山座舞台の場
前回は劇中劇の「公平法問諍」を流して見てしまったのですが、今回はこの部分も楽しみました!
現在見ることのできない荒事の原型や、江戸時代の芝居小屋の様子を窺い知れるので、史料としても大変貴重な一場です。
片岡市蔵さん演じる坂田公平(きんぴら)は荒事の原型!勧善懲悪のスーパーヒーローです!
一見すると赤ッ面で乱暴な坂田公平が悪人で、白塗りで大人しい慢容上人(まんようしょうにん:片岡松之助さん)が善人っぽいのですが、逆なんですね。当時の荒事は赤ッ面慢容上人はお金欲しさに出家を進めるナマ臭坊主なんですね。
市蔵さんの荒事、良かったです!見得を切るところなど、もっとたくさん拍手をしたかったのですが、劇中劇だからあまり拍手をしない感じなのでしょうか衣装は、これも荒事成田屋にゆかりのある柿色の格子の衣装です。
大薩摩連中も江戸時代のやり方で頭巾を被っているのが珍しかったです。そしてここでは大薩摩の奏者たちも一芝居するのが珍しくて萌え~でした
客席から海老蔵さんの登場で急に周りがザワザワ、みんな一斉に双眼鏡を取り出し姿勢を正して前のめり気味に
世話物の海老蔵さんは声と江戸言葉がとてもいい。高音低音聞き取りやすくて謳い過ぎないのがいいですね。
二幕目 花川戸長兵衛内の場
この場面は、堀越勸玄君のちっちゃな男伊達姿にメロメロになりました
勸玄君演じる長松は、江戸随一の男伊達、花川戸長兵衛の息子です。
長兵衛と同じく、筋が通って賢しいんです。体はちいちゃいけど、心意気は立派な男伊達
例えば、花道から負ぶさって登場するときも
「そんなにくたびれたと言うなら、歩いてやろうよ」
「それじゃあ歩きてえが負ぶさってやろうよ」
と元気いっぱい。
家についてからも
「あぁ、おぶさり通しで足が痛いや」と子分に言ってみせたり。
みんなが市川男女蔵さん演じる清公(せいこう)をぶったら
「なぜおれの馬をぶつのだ」
「口が過ぎるなら口で言え、手出しをしちゃあおれが聞かねえ」
「いま手前たちがぶったように、清公にあたまをぶたせろ」
と、とても正義感が強くて筋が通ってる!みんなをまとめるちっちゃな男伊達です
市川男女蔵さん演じる清公も抜け具合がよかったです
海老蔵さん演じる長兵衛が、水野に討たれに行くと決めたら、それを背中から覗き込んで止める勸玄君は涙を誘います
「この春、年始におとっちゃんの、代わりに出たからお屋敷へ、おいらが代わりに行きましょう」
「みんながあんなに頼むから、聞いてやってくださいまし」
「おとっちゃんに分かれるのは、誰よりおいらが悲しいから、どうぞ行かずに下さいまし」
河竹黙阿弥の七五調の台詞を、抑揚をつけて情感たっぷりに聞かせます
すごいな~。
海老蔵さんの着替えを手伝う片岡孝太郎さん(お時)も良かったです。
行くと言ったら聞かない長兵衛への理解、子分たちをまとめる侠客の女房としての気丈さなど。
身支度を手伝う孝太郎さんの後ろ姿に不憫な視線を送る海老蔵さんの表情や、お二人のアイコンタクトからは、長兵衛とお時が長年連れ添った夫婦の愛情を感じました。それとともに、海老蔵さんの相手役を長年つとめてきた孝太郎さんとの信頼関係が感じられて胸がいっぱいになりました。
海老蔵さんの衣装は九世團十郎型で裃に肩衣を付けます。生着替えがあるのですが、帯を締めるときに、腰のあたりをキュッとつまんで裾を上げる仕草が手慣れていて、普段から着物を着こなしていることがうかがえて、なんともカッコ良かったですノールックで着物を着てるのに襟の袷はピシッと整っていてさすがです
三幕目 水野邸
私が観た日は、市川左團次さんがインフルエンザから復帰されていました。よかったですね。やはり敵役としての大きさがあります。
浴衣姿の海老蔵さんは、体格ががっしりしていて、浴衣から覗く大胸筋にドキドキ。本当の長兵衛もこういう若くて強い男だったんだろうなぁと想像しました。
水野も言いますが、やはり長兵衛の死は惜しいですねぇ。
ここで幕が閉まるのは後味が悪いかもしれませんが、でも大丈夫。お芝居には出てきませんが、通し狂言では「仕返しの場」があり、水野は切腹を命じられるのです。長兵衛の死も報われます。
3.『三升曲輪傘売』
「幡随長兵衛」が悲しくて深いお芝居だったのですが、一変して追い出しは明るく華やかです良い番組~
普段あまり見ない、坂東玉朗さんや市川右若さんらが活躍するのが嬉しいです。
坂東玉朗さんは、海老蔵さんの一座でよく抜擢されていますね
市川蔦之助さんも、幡随長兵衛は立役でしたが、ここでは女形の新造。やはりしっくりきます。
今月はこういった方々の舞台写真もありました。
海老蔵さんの登場ですごく良いお香の匂い
今回はどうしても三すじの綱吉から石川五右衛門にぶっかえる瞬間を見たかったのです。頭巾を取った、あの石川五右衛門の鬘が大好きなんです。しかし、演出が上手いですね~。気づいたら手拭い撒きに夢中になって、頭巾を取る一瞬を見逃してしまいました!
もちろん今日も手拭いは取れず
愛嬌や遊び心のある所作事を見て、晴れやかな気持ちで演舞場を後にしました
またもや長文になってしまいました
中日に夜の部も観ました夜の部は海老蔵さんの俊寛に感服!
まいった~という感じで圧巻のお芝居でした。今でもずっと深く深く心に残っています。
最近バタバタしており、ブログの更新が追い付きませんが、これも早く書きたいです
皆さんのブログにもあまりお邪魔できていませんが、落ち着いたらじっくり読ませていただきます