いつの間にか、自分を取り巻く環境が大きく変っていた事に気が付いていなかった。
その事が家庭的にも社会的にも、どうであるかは自分の問題ではなかった。
そう、
他人の問題でしかなかったのだ。
だからこそ自分は、今まで積み上げた実績やプライドを駆使して、みっともなくもソレにすがろうとするのだ。
分かっている。そういった行為が、どう呼ばれる類のものか?
自分は、そういった離反的な行為を唾棄すべき立場である人間であったはずである。
だが、それすら許されないものであるとするならば、自分がとるべき道は、自ずと定められてしまっているのではないか。
息をひとつ、つく。
目を閉じ頭を無にする。
あらゆるものから自我を解放するのだ。
すがりつく見栄や、しがらみからの解放。
それからゆっくりと自分の世界に戻るのだ。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと。
予め定められた螺旋を緩やかに現世へと降りてくるのだ。そこで初めて、その世界を自分の物とするのだ。大丈夫。そこは草原の上だ。さわさわとした葉ずれの音と鼻孔を刺激する草の匂いは胸いっぱいに広がっている。
ああすればよかった。
こうすればよかった。
そうすればよかった。
簡単だが、簡単には思いつかない事柄。
だからこその自分のやり方。
………でも……分かっていた。
そんな方法が邪道である事も、またそうするしかない自分が愚かである事も。
君の生気を失った瞳は虚空を見詰め、リノウムの床に突っ伏していた。
『届かない想い』