奈良県が舞台であり、こういった雰囲気の映画はどうしても河瀬直美監督の「萌の朱雀」を思い出させるものでした。本作は河瀬直美がエグゼクティブプロデューサーを担当しているという事もあり、監督は村瀬大智ではありますが、どこからどう見ても河瀬直美の世界観ではあるなと思いました。河瀬直美が当時は大阪の写真専門学校という名前であり、現在は大阪ビジュアルアーツ専門学校の名前である専門学校に通っていて、卒業した後も講師を務めながら映画を撮り続けたという部分はかなり有名なところではあるなと。

 

同じビジュアルアーツであります東京ビジュアルアーツ専門学校に通っていた自身も河瀬直美監督のそういったところがかなり尊敬できる部分ではありました。河瀬直美監督の「朝が来る」はかなりの傑作映画と思っている自身にとっても河瀬直美監督は自身とシンクロしてハマる部分の多い監督と感じてました。ですが、こうした河瀬直美監督のデビュー当時のような映画を作るという事も、やはり原点回帰の必要性を感じたからかなと思う部分も多々ありました。

 

三宅朱莉演じるイヒカと、三浦誠己演じる良治と、水川あさみ演じる咲との家族の自然な様子部分もかなりいいなと思いました。映画の中でイヒカは「私はまだ子供だから」と言っていても実際にイヒカの年齢がわからなかったり、咲も姉かと思ってたら母親だったりという部分は多少混乱を覚える部分でもありました。堀田眞三演じるシゲ兄と呼ばれている祖父が突然いなくなってしまうところも、前後関係がわからないために不思議に感じてしまうところもありました。

 

咲は実年齢より若く見えて、イヒカは実年齢より上に見えるという部分も気になるところではありました。エグゼクティブプロデ
ューサー担当の河瀬直美がこうした映画を作る事はライフワークでもあり、奈良県の人たち、特に若い頃の自身を反映した女の子の事を強く知ってもらいたい願望があるからこその今回の映画かなと。「朝が来る」も実際に河瀬直美が通っていた学校でロケもしていることも含め、本当に河瀬直美自身を知ってもらいたい強い思いが全てかなと。

 

この映画の家族は自然な雰囲気で見せていて、情報をかなり排除して少ない会話で構成してるのはやはり映画的かなと感じるものでした。木々の中での場面や、坂の道を母と娘で下ってくる場面もかなり印象的でした。こうした世界観はやはり落ち着く感じがあり、奈良県南東部の山々に囲まれた静かな集落を舞台に旅館を営む家族の姿を描いたという点はよかったなと。周囲を山々に囲まれていてかつては商店や旅館が軒を並べてたこともあり、登山客などで賑わった奈良県南東部の静かな集落という点でもかなり惹かれました。

 

シゲ兄が突然姿を消してしまうところがやはり全体の中でのキーポイントかなと。あらゆる意味で旅館の存続の危機を迎えた中で起きる家族の葛藤を描いた貴重な親子映画の異色作と実感です。 

 

872点 山々に囲まれた中で生活する人々の姿が強烈に共感ポイント 8.7点