またまた二次創作です^^;感想記事はもうしばらくお待ちくださいっ!!
今回は、以前pixivに投稿したマサ葵の小説「ミズイロ?ソライロ?」をリメイクしてみました!!完成度の保証はいたしませんが(笑)、よろしければご覧ください♪
〇ミズイロ?ソライロ?(remake)〇
「狩屋君の髪って、空色なんだね。」
*+*+*+*+*+
そう、彼女に言われたのは、ある日の昼休みの事だった。俺は丁度弁当を食べ終わったところで、片付けの真っ最中。そんな中、目の前に現れて、いきなりそんなことを言う彼女にちょっと驚く。
彼女…空野葵。ご存じのとおり、雷門サッカー部のマネージャーだ。
「は?」
突然のことだったので、ついついそんな声を出してしまった。いきなり何を言い出すんだ、こいつ。
「だから……狩屋君の髪って空色だなって、急に思ったの。ほら、今日快晴でしょ?」
彼女の言葉に窓の外の空を見上げてみれば、確かに。そこには雲ひとつない晴れ空 が広がっていて、まさに『空色』の景色だった。
「空色、ねえ……。」
つぶやきながら、自分の髪を一束つかんで、見てみた。「水色だね」とはよく言われるけど「空色だね」と言われたのは初めてかもしれない……。
そんな事を考えているうち、ふと、あることに気がついた。
水色と空色って、同じ色かと思うけど、そうじゃないんだな。ほら、今日の空の色は『空色』って言っても違和感ないけど(まず空だから、空色じゃなかったらなんなんだって感じだけど)、俺の髪色は空色というと、ちょっと違和感がある。あくまで俺個人の意見だけどね。
なんていうか、空色っていうのは水色より、もっと綺麗な色な気がする。透き通ってて、見ていて誰もが心地よい……。
*+*+*+*+*+
そう、空野さんの目の色のように。
*+*+*+*+*+
「どっちかっていうと、空野さんの目の色の方が空色だと思うけど。」
「ええー?」
思ったことを口に出せば、空野さんは俺の髪を触りながら、まじまじと見始めた。空色の瞳が、やけに真剣に俺の水色の髪を見ていて……今までにないお互いの顔の近さに、思わず少し赤面する。
……その瞬間、突然視界に空野さんの顔が映りこんだ。
「狩屋君……大丈夫?顔赤いよ?」
「そう?大丈夫だけど。」
お前のせい、というのが正直な気持ちだけど、口から出てきたのは違う言葉。無意識に適当に笑って受け流そうとする自分がいて、今更ながら、自分の嘘つき癖に呆れ果てた。過去の傷はほとんど癒えても、この癖だけはなかなか完治しない。
自嘲の意味も含めて笑って見せると、空野さんは更に心配そうな顔をする。本当にお人好しの、優しいコだ。普通だったらここで、お大事に、くらいで終わるのに……
「ええー?でも、ホントに赤いんだって!!」
空野さんがそう言った、次の瞬間。
*+*+*+*+*+
額に、何かが当たる感触。
目の前には、空野さんの顔。
*+*+*+*+*+
「……ちょ、ちょ、近い!!近いっつーの……!!!」
動揺しながら、慌てて空野さんを押しのけた。なんで熱があるか、おでここっつんこで確かめようとするんだよ……!?
「何するの!?心配してあげてるのに!!」
「いや、だから、その……ってああ!!ごめんなさい、すみませっ……痛ぇ!!」
空野さんは、不機嫌そうに俺のことを睨みつけると、容赦なく頬をつねってきた。正直洒落にならないくらい痛くて、思わず悲鳴をあげる。
痛みに顔をしかめる俺の顔を、空色の瞳がとらえていた。悪い悪いと叫びながら、ちらっとその瞳を盗み見る。
*+*+*+*+*+
綺麗な目だな…と思った。
透き通ってて、キラキラしてて、本当に綺麗だ。
*+*+*+*+*+
……ふいに、頬に感じていた痛みがなくなる。
痛みに閉じていた瞼を上げると、顔を赤らめた空野さんが見えた。何が起こったのかわからず、痛む頬をさすりながら、首をかしげて問いかけてみる。
「どうした?」
「どうした?じゃないでしょ……!!」
怒ってんのか?でもそれにしては、語尾がすごく小さい。なんだか、俺が数分前にしていた……恥ずかしがる時の反応に、似てる気がするけど。
「あっと……その……。」
「……?」
「その……目が綺麗だって言われたの……初めてだったから…さ。」
「……!?」
おい待て待て……!!俺は口に出してはいないはず……!!
「俺…口に出してました?」
「それはもう思いっきり……!!」
*+*+*+*+*+
体がボッと、火がついたように熱くなった。
*+*+*+*+*+
たぶん、顔も火がついたように赤くなっているに違いない。慌てて表情を悟られないよううつむきながら、心のなかで罵倒する。バカか、俺。バカなのか……!?
「あーっと、えーっと、あ……ありがと……!!」
自分を必死に罵倒していると、早口な空野さんの声が聞こえた。慌てて顔をあげれば、もう空野さんは、教室を飛び出していて。
「あ、ちょ……!!!」
*+*+*+*+*+
待って……
*+*+*+*+*+
……その一言が、なぜか出てこなかった。
ため息をついて、席に座りなおす。一部始終を見ていたらしいクラスメート達がわいわいうるさい。
……だけど頭の中は、その恥ずかしさよりも、別の事で占められていて。
*+*+*+*+*+
彼女との顔の近さが。
真っ赤になって照れていた、あの顔が。
そして、俺が強く惹かれた、あの瞳が。
…忘れられない。
*+*+*+*+*+
「……ねえ、狩屋、狩屋ったら!!」
「ん?ああ……天馬君と信助君か。」
聞きなれた友人達の声に、空野さんの幻影が消えていった。こいつらも一部始終見てたな、たぶん。すっごいテンション高いし。
「ねえねえ!!狩屋って葵のこと好きなの!?」
案の定、天馬君からそんな質問が飛んできた。ただのサッカー馬鹿だと思ってたのに、恋バナとかも好きらしい。隣の信助君も、瞳を輝かせてこちらを見ている。
「んなわけねーだろ。」
口をついてでたのは、またしても「嘘」だった。無意識のうちに嘘をついてしまう自分に呆れ果てているのに、口は勝手に動いて、まだ嘘をつき続ける。
「空野さんが勝手にあんなことしただけ……。勘違いされちゃたまんねーよ。」
「えー!?あんなに仲良くしてたのに?」
「だからあれは空野さんが……!!」
できるだけ平静を保とうとしたのに、思わずどもってしまう。それはきっと、表では冷静にふるまっていても、裏ではずっと、空野さんの事を考えていたから。
「狩屋の髪って、空色なんだね。」
そんなことを言われたのは、初めてだった。
*+*+*+*+*+
彼女のことは、前から気にはなっていたんだ。
可愛いし。性格いいし。
でも、俺が彼女に惹かれた理由って、実はそういうことじゃない。やっぱり俺は、あの瞳に惹かれていた。初めて会った時に、顔よりなによりその瞳に目がいって、どうしようもなく惹かれてし まった。可愛い、性格がいいというのは、冗談 抜きで後からわかったんだ。
*+*+*+*+*+
ちょっと前のことに思いを馳せているうち、 サッカー棟に着く。サッカー棟に入る直前、昼休みのことを思い出して、思わず足が止まった。
あれ以来、空野さんと話してないんだ。それに、図書館に本を返してくるだかなんだかで、今は俺達と一緒じゃない。変に気を使ってないかな?後で来て、休憩時間とかに気まずくないかな?
「狩屋、どうしたの?行くよ!!」
「あ、ごめん。」
天馬君に声をかけられ、少し緊張しながらサッカー棟に入る。着替えてグラウンドに集合。軽くミーティングをして、練習が始まった。
空野さん、まだかな。遅いなあ。
そんな事を思いながら、パス練を始めた。
*+*+*+*+*+
……おかしい。
空野さんが、いつまでたっても来ない。もう休憩時間で、練習開始から一時間弱たっているのに。
図書館に本を返すだけで、こんなにかからないだろう?
「葵……どうしたんだろ。」
「天馬、お前も聞いてないのか?」
水鳥さんも心配そうだった。茜さんも。サッカー部の皆も。俺だって、その例に漏れない。
考えれば考えるほど、不安は募った。何か大変なことが起こってるんじゃないか。何か、事故に巻き込まれたんじゃないか……。
「……狩屋。」
不安のあまり混乱しかけた頭に、聞きなれた声が入ってくる。予想外の声の主に驚きながら、振り返った。
「……何さ。」
皆の輪から外れて向かったのは、どこか不機嫌そうな剣城君の側。オレンジ色のつり目が、軽く俺を睨んでいるように見える。
「お前な……。」
潜めていても、怒りの混じった声だった。なぜ彼が怒っているのかわからないまま、続く言葉に耳をすます。
「いい加減に、大嘘つくの、やめたらどうだ。」
「え……?」
予想外の言葉に面食らって、間抜けな声が出てしまった。今日ずっと気にしていたコンプレックスをえぐられて、不安だった心が更に痛む。
慌てて顔を引き締めて、いきなり何を言い出すのかと言い返そうとした、その瞬間。
*+*+*+*+*+
「……空野が、昼休みに泣いていた。」
*+*+*+*+*+
「…え?」
泣いていた?あの、いつも笑顔で明るい、空野さんが?
驚きを隠せずにいると、剣城君はため息をつきながら言葉を紡ぐ。
「昼休みの騒動、俺も偶然見てたんだが……。教室から急に飛び出してきたろ、空野。
あの後あいつ、教室の側にはりついてた。お前は気づかなかったかもしれないけど……。」
はりついてた?
つまり、空野さんはあの後、俺が天馬君達に絡まれたところも、全部聞いていたってこと?
「……で、いきなり涙目になって、どっかに走っていったけど。……原因くらい、もう言わなくてもわかるだろ。」
*+*+*+*+*+
「ねえねえ、狩屋って葵のこと好きなの!?」
「んなわけねーだろ。空野さんが勝手にあんなことしただけ……。勘違いされちゃたまんねーよ。」
*+*+*+*+*+
平静を保って、嘘をついて、空野さんが好きだということを否定して。
それで、空野さんを傷つけてしまったのだとしたら?
*+*+*+*+*+
……謝らなきゃ。
ちゃんと探して、嘘だって伝えなきゃ。
*+*+*+*+*+
「…剣城君、キャプテンに言い訳頼んだ。」
「はっ!?」
それだけ言い残して、俺は更衣室に急いだ。
ユニフォームを脱ぎ捨てて、学ランに着替えて、カバンをひっつかむ。空野さんの行き先なんてわかんないし、見つけられる保証はない。
でも、謝らなきゃ。
強い決意だけを持って、驚くチームメイト達も完全無視して、俺はサッカー棟を、雷門中を飛び出した。
*+*+*+*+*+
きつい。いっつもサッカーでめちゃめちゃ走ってるはずなのに。
雷門中を出て、とにかく走った。とりあえず空野さんの家に行こうか……。でも、突然押し掛けていったら迷惑だよな。でもそんなの関係ない。 謝らなきゃ。走れ、走れ。
空野さんの家に向かって走った。早く、早く謝らないと。今、この瞬間にも、彼女の空色の瞳が涙で濡れているかもしれないんだ。
河川敷に出た。夕日に輝く川。キラキラしていて、空色ではないけど、綺麗だ。いや、でもあれも空色って言うのかな。夕方の空色は水色じゃなくてオレンジ色だし。
*+*+*+*+*+
オレンジの川。
キラキラとした川。
そこに体育座りをして、膝に顔を埋める少女。
*+*+*+*+*+
「…空野さん?」
息をきらせて立ち止まる。紺色のボブヘアに、雷門中の制服。ストラップのたくさんついた、見慣れたスクールバッグ。
間違いない、空野さんだ!!
荒い息をつきながら、土手をかけ降りた。川縁に座り込む空野さんに向かって、歩く。
……もう、走れない。
足音に気がついたのか、空野さんがこっちを向いた。
*+*+*+*+*+
驚きに見開かれた、濡れて、涙のあとのついた空色の瞳。
今は水色じゃなくて、夕日に染められてオレンジになっている。
*+*+*+*+*+
ああ、やっぱり空色は空野さんの目の色なんだな。空の色によって色が変わる。透き通ってて、キラキラしていて、 綺麗だ。
「大丈夫?」
来たはいいけど、何て言えばいいかわかんなくて、こんなことしか言えなくて。大丈夫じゃないことくらい、俺にもわかるのに。
「だい……じょうぶ。」
何て言えばいいのかわからないのは、空野さんも同じらしい。その戸惑った顔を見ているうち、忘れかけていた本来の目的が、ようやく頭に浮かんでくる。
「……ごめん。あんなこと言って。」
「あんなことって何?」
*+*+*+*+*+
こんな時まで、無理しないでよ。
わかってるんだろう?
傷ついてるんだろう?俺の言葉に。
*+*+*+*+*+
また口に出してたみたいで、空野さんの顔が強ばる。また泣き出しそうだ。空色の瞳が涙に濡れる前に、何かしたい。
「葵。」
思いきって、呼んでみた。
空野さん……いや、葵は驚いて俺を見る。 どん、どん、と心臓がうるさい。大きく息を吸って、そして。
「俺、お前のこと……好きだから。大好きだから。」
今度口から出てきたのは、嘘でもなんでもない、正直な気持ち。
嘘つきな俺だけど、これだけはほんとに、ほんとに、嘘じゃないから。
「狩屋君…っ。」
みるみる空色の瞳から涙が盛り上がり…頬を伝って流れ落ちる。でも、さっきみたいな悪い涙じゃない。いい涙だと、思う。
俺はそっと、葵の頭をなでた。
その空色の瞳が、喜びに細まるのを見たくて。
Fin
今回は、以前pixivに投稿したマサ葵の小説「ミズイロ?ソライロ?」をリメイクしてみました!!完成度の保証はいたしませんが(笑)、よろしければご覧ください♪
〇ミズイロ?ソライロ?(remake)〇
「狩屋君の髪って、空色なんだね。」
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そう、彼女に言われたのは、ある日の昼休みの事だった。俺は丁度弁当を食べ終わったところで、片付けの真っ最中。そんな中、目の前に現れて、いきなりそんなことを言う彼女にちょっと驚く。
彼女…空野葵。ご存じのとおり、雷門サッカー部のマネージャーだ。
「は?」
突然のことだったので、ついついそんな声を出してしまった。いきなり何を言い出すんだ、こいつ。
「だから……狩屋君の髪って空色だなって、急に思ったの。ほら、今日快晴でしょ?」
彼女の言葉に窓の外の空を見上げてみれば、確かに。そこには雲ひとつない晴れ空 が広がっていて、まさに『空色』の景色だった。
「空色、ねえ……。」
つぶやきながら、自分の髪を一束つかんで、見てみた。「水色だね」とはよく言われるけど「空色だね」と言われたのは初めてかもしれない……。
そんな事を考えているうち、ふと、あることに気がついた。
水色と空色って、同じ色かと思うけど、そうじゃないんだな。ほら、今日の空の色は『空色』って言っても違和感ないけど(まず空だから、空色じゃなかったらなんなんだって感じだけど)、俺の髪色は空色というと、ちょっと違和感がある。あくまで俺個人の意見だけどね。
なんていうか、空色っていうのは水色より、もっと綺麗な色な気がする。透き通ってて、見ていて誰もが心地よい……。
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そう、空野さんの目の色のように。
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「どっちかっていうと、空野さんの目の色の方が空色だと思うけど。」
「ええー?」
思ったことを口に出せば、空野さんは俺の髪を触りながら、まじまじと見始めた。空色の瞳が、やけに真剣に俺の水色の髪を見ていて……今までにないお互いの顔の近さに、思わず少し赤面する。
……その瞬間、突然視界に空野さんの顔が映りこんだ。
「狩屋君……大丈夫?顔赤いよ?」
「そう?大丈夫だけど。」
お前のせい、というのが正直な気持ちだけど、口から出てきたのは違う言葉。無意識に適当に笑って受け流そうとする自分がいて、今更ながら、自分の嘘つき癖に呆れ果てた。過去の傷はほとんど癒えても、この癖だけはなかなか完治しない。
自嘲の意味も含めて笑って見せると、空野さんは更に心配そうな顔をする。本当にお人好しの、優しいコだ。普通だったらここで、お大事に、くらいで終わるのに……
「ええー?でも、ホントに赤いんだって!!」
空野さんがそう言った、次の瞬間。
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額に、何かが当たる感触。
目の前には、空野さんの顔。
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「……ちょ、ちょ、近い!!近いっつーの……!!!」
動揺しながら、慌てて空野さんを押しのけた。なんで熱があるか、おでここっつんこで確かめようとするんだよ……!?
「何するの!?心配してあげてるのに!!」
「いや、だから、その……ってああ!!ごめんなさい、すみませっ……痛ぇ!!」
空野さんは、不機嫌そうに俺のことを睨みつけると、容赦なく頬をつねってきた。正直洒落にならないくらい痛くて、思わず悲鳴をあげる。
痛みに顔をしかめる俺の顔を、空色の瞳がとらえていた。悪い悪いと叫びながら、ちらっとその瞳を盗み見る。
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綺麗な目だな…と思った。
透き通ってて、キラキラしてて、本当に綺麗だ。
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……ふいに、頬に感じていた痛みがなくなる。
痛みに閉じていた瞼を上げると、顔を赤らめた空野さんが見えた。何が起こったのかわからず、痛む頬をさすりながら、首をかしげて問いかけてみる。
「どうした?」
「どうした?じゃないでしょ……!!」
怒ってんのか?でもそれにしては、語尾がすごく小さい。なんだか、俺が数分前にしていた……恥ずかしがる時の反応に、似てる気がするけど。
「あっと……その……。」
「……?」
「その……目が綺麗だって言われたの……初めてだったから…さ。」
「……!?」
おい待て待て……!!俺は口に出してはいないはず……!!
「俺…口に出してました?」
「それはもう思いっきり……!!」
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体がボッと、火がついたように熱くなった。
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たぶん、顔も火がついたように赤くなっているに違いない。慌てて表情を悟られないよううつむきながら、心のなかで罵倒する。バカか、俺。バカなのか……!?
「あーっと、えーっと、あ……ありがと……!!」
自分を必死に罵倒していると、早口な空野さんの声が聞こえた。慌てて顔をあげれば、もう空野さんは、教室を飛び出していて。
「あ、ちょ……!!!」
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待って……
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……その一言が、なぜか出てこなかった。
ため息をついて、席に座りなおす。一部始終を見ていたらしいクラスメート達がわいわいうるさい。
……だけど頭の中は、その恥ずかしさよりも、別の事で占められていて。
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彼女との顔の近さが。
真っ赤になって照れていた、あの顔が。
そして、俺が強く惹かれた、あの瞳が。
…忘れられない。
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「……ねえ、狩屋、狩屋ったら!!」
「ん?ああ……天馬君と信助君か。」
聞きなれた友人達の声に、空野さんの幻影が消えていった。こいつらも一部始終見てたな、たぶん。すっごいテンション高いし。
「ねえねえ!!狩屋って葵のこと好きなの!?」
案の定、天馬君からそんな質問が飛んできた。ただのサッカー馬鹿だと思ってたのに、恋バナとかも好きらしい。隣の信助君も、瞳を輝かせてこちらを見ている。
「んなわけねーだろ。」
口をついてでたのは、またしても「嘘」だった。無意識のうちに嘘をついてしまう自分に呆れ果てているのに、口は勝手に動いて、まだ嘘をつき続ける。
「空野さんが勝手にあんなことしただけ……。勘違いされちゃたまんねーよ。」
「えー!?あんなに仲良くしてたのに?」
「だからあれは空野さんが……!!」
できるだけ平静を保とうとしたのに、思わずどもってしまう。それはきっと、表では冷静にふるまっていても、裏ではずっと、空野さんの事を考えていたから。
「狩屋の髪って、空色なんだね。」
そんなことを言われたのは、初めてだった。
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彼女のことは、前から気にはなっていたんだ。
可愛いし。性格いいし。
でも、俺が彼女に惹かれた理由って、実はそういうことじゃない。やっぱり俺は、あの瞳に惹かれていた。初めて会った時に、顔よりなによりその瞳に目がいって、どうしようもなく惹かれてし まった。可愛い、性格がいいというのは、冗談 抜きで後からわかったんだ。
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ちょっと前のことに思いを馳せているうち、 サッカー棟に着く。サッカー棟に入る直前、昼休みのことを思い出して、思わず足が止まった。
あれ以来、空野さんと話してないんだ。それに、図書館に本を返してくるだかなんだかで、今は俺達と一緒じゃない。変に気を使ってないかな?後で来て、休憩時間とかに気まずくないかな?
「狩屋、どうしたの?行くよ!!」
「あ、ごめん。」
天馬君に声をかけられ、少し緊張しながらサッカー棟に入る。着替えてグラウンドに集合。軽くミーティングをして、練習が始まった。
空野さん、まだかな。遅いなあ。
そんな事を思いながら、パス練を始めた。
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……おかしい。
空野さんが、いつまでたっても来ない。もう休憩時間で、練習開始から一時間弱たっているのに。
図書館に本を返すだけで、こんなにかからないだろう?
「葵……どうしたんだろ。」
「天馬、お前も聞いてないのか?」
水鳥さんも心配そうだった。茜さんも。サッカー部の皆も。俺だって、その例に漏れない。
考えれば考えるほど、不安は募った。何か大変なことが起こってるんじゃないか。何か、事故に巻き込まれたんじゃないか……。
「……狩屋。」
不安のあまり混乱しかけた頭に、聞きなれた声が入ってくる。予想外の声の主に驚きながら、振り返った。
「……何さ。」
皆の輪から外れて向かったのは、どこか不機嫌そうな剣城君の側。オレンジ色のつり目が、軽く俺を睨んでいるように見える。
「お前な……。」
潜めていても、怒りの混じった声だった。なぜ彼が怒っているのかわからないまま、続く言葉に耳をすます。
「いい加減に、大嘘つくの、やめたらどうだ。」
「え……?」
予想外の言葉に面食らって、間抜けな声が出てしまった。今日ずっと気にしていたコンプレックスをえぐられて、不安だった心が更に痛む。
慌てて顔を引き締めて、いきなり何を言い出すのかと言い返そうとした、その瞬間。
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「……空野が、昼休みに泣いていた。」
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泣いていた?あの、いつも笑顔で明るい、空野さんが?
驚きを隠せずにいると、剣城君はため息をつきながら言葉を紡ぐ。
「昼休みの騒動、俺も偶然見てたんだが……。教室から急に飛び出してきたろ、空野。
あの後あいつ、教室の側にはりついてた。お前は気づかなかったかもしれないけど……。」
はりついてた?
つまり、空野さんはあの後、俺が天馬君達に絡まれたところも、全部聞いていたってこと?
「……で、いきなり涙目になって、どっかに走っていったけど。……原因くらい、もう言わなくてもわかるだろ。」
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「ねえねえ、狩屋って葵のこと好きなの!?」
「んなわけねーだろ。空野さんが勝手にあんなことしただけ……。勘違いされちゃたまんねーよ。」
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平静を保って、嘘をついて、空野さんが好きだということを否定して。
それで、空野さんを傷つけてしまったのだとしたら?
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……謝らなきゃ。
ちゃんと探して、嘘だって伝えなきゃ。
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「…剣城君、キャプテンに言い訳頼んだ。」
「はっ!?」
それだけ言い残して、俺は更衣室に急いだ。
ユニフォームを脱ぎ捨てて、学ランに着替えて、カバンをひっつかむ。空野さんの行き先なんてわかんないし、見つけられる保証はない。
でも、謝らなきゃ。
強い決意だけを持って、驚くチームメイト達も完全無視して、俺はサッカー棟を、雷門中を飛び出した。
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きつい。いっつもサッカーでめちゃめちゃ走ってるはずなのに。
雷門中を出て、とにかく走った。とりあえず空野さんの家に行こうか……。でも、突然押し掛けていったら迷惑だよな。でもそんなの関係ない。 謝らなきゃ。走れ、走れ。
空野さんの家に向かって走った。早く、早く謝らないと。今、この瞬間にも、彼女の空色の瞳が涙で濡れているかもしれないんだ。
河川敷に出た。夕日に輝く川。キラキラしていて、空色ではないけど、綺麗だ。いや、でもあれも空色って言うのかな。夕方の空色は水色じゃなくてオレンジ色だし。
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オレンジの川。
キラキラとした川。
そこに体育座りをして、膝に顔を埋める少女。
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「…空野さん?」
息をきらせて立ち止まる。紺色のボブヘアに、雷門中の制服。ストラップのたくさんついた、見慣れたスクールバッグ。
間違いない、空野さんだ!!
荒い息をつきながら、土手をかけ降りた。川縁に座り込む空野さんに向かって、歩く。
……もう、走れない。
足音に気がついたのか、空野さんがこっちを向いた。
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驚きに見開かれた、濡れて、涙のあとのついた空色の瞳。
今は水色じゃなくて、夕日に染められてオレンジになっている。
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ああ、やっぱり空色は空野さんの目の色なんだな。空の色によって色が変わる。透き通ってて、キラキラしていて、 綺麗だ。
「大丈夫?」
来たはいいけど、何て言えばいいかわかんなくて、こんなことしか言えなくて。大丈夫じゃないことくらい、俺にもわかるのに。
「だい……じょうぶ。」
何て言えばいいのかわからないのは、空野さんも同じらしい。その戸惑った顔を見ているうち、忘れかけていた本来の目的が、ようやく頭に浮かんでくる。
「……ごめん。あんなこと言って。」
「あんなことって何?」
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こんな時まで、無理しないでよ。
わかってるんだろう?
傷ついてるんだろう?俺の言葉に。
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また口に出してたみたいで、空野さんの顔が強ばる。また泣き出しそうだ。空色の瞳が涙に濡れる前に、何かしたい。
「葵。」
思いきって、呼んでみた。
空野さん……いや、葵は驚いて俺を見る。 どん、どん、と心臓がうるさい。大きく息を吸って、そして。
「俺、お前のこと……好きだから。大好きだから。」
今度口から出てきたのは、嘘でもなんでもない、正直な気持ち。
嘘つきな俺だけど、これだけはほんとに、ほんとに、嘘じゃないから。
「狩屋君…っ。」
みるみる空色の瞳から涙が盛り上がり…頬を伝って流れ落ちる。でも、さっきみたいな悪い涙じゃない。いい涙だと、思う。
俺はそっと、葵の頭をなでた。
その空色の瞳が、喜びに細まるのを見たくて。
Fin