9月になっても猛暑日が続いている福岡春日市です。

 

司法書士Oです。

 

司法書士試験筆記試験10月3日の合格発表まで1か月を切りました。

 

この試験は、合否が発表まで確信を持てない受験生の方が多いと思います。

 

もう少し落ち着かない日々が続くと思いますが、体調にはくれぐれも気をつけてお過ごし下さい。

 

司法書士試験に合格すると新人研修・特別研修が待っています※体力も気力もお金もかなり必要です。

 

簡裁訴訟代理等関係業務をおこなうためには、特別研修を受けて認定考査(令和6年度は今月の8日)に合格しなければなりません。

 

晴れて、認定考査に合格すると、訴額が140万円以下の簡易裁判所の管轄に属する民事に関する訴訟代理及び裁判外での和解や交渉・相談などの業務を行えるようになります。

 

司法書士試験の試験範囲ではない法律についての紛争の相談も多くあります。

 

借金問題(司法書士事務所もテレビのCMをしています)はよく知られているところですが、貸金の請求、交通事故(物損が多い)、給与の未払い分の請求、敷金の返還請求、家賃の請求なども業務の範囲内になることがあります。

 

どんな司法書士でも最初から全ての事件について詳しいとい

うことはあり得ないので、相談者の話を聞いてから具体的な準備を始めることになります。

 

よくある分野であれば専門書を購入し、同期や先輩司法書士に知恵を貸してもらいながら解決を目指すことが多いのではないでしょうか。※司法書士の仲間を作っておくことはとても重要です!

 

某県の知事(以下、「A」という。)についての話題が世間を賑わせています

 

この件では、少なくとも1人の方の命が失われていますので司法書士が関わることはまずありませんが、公益通報に関する雇用関係の問題で損害賠償請求などであれば関与の可能性があります。

 

このような問題の相談を受けた場合には、まず関連する法令の条文にあたることになります。

 

今回の場合は、「公益通報者保護法(以下、「同法」という。)」からです。

※法令については政府のe-govに掲載されており印刷もできます。

 

全部で22条しかない短い法律です。

 

せっかくですのでAの発言について考えてみましょう。司法書士試験の受験者の方は是非考えてみて下さい。

 

A「この文書は真実相当性がないので

  公益通報にあたらない」

  真実相当性:条文では「信ずるに足りる相当の理由」

 

Aはこの発言を繰り返しているようですが、

果たして正しいのでしょうか?

前提として公務員・地方公共団体にも適用があります(第9条)。

 

第2条(定義)では、

第1項

この法律において「公益通報」とは、次の各号に掲げる者(補足:労働者・役員等)が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、当該各号に定める事業者〈中略〉その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を〈中略〉通報することをいう。

 

ちなみに通報先は、

①事業者内部②権限を有する行政機関③その他の事業者外部(例 報道機関等)となっています。

※1号通報、2号通報、3号通報と呼ばれます。

 

第2項

この法律において「公益通報者」とは、公益通報をした者をいう。

 

第3項

この法律において「通報対象事実」とは、次の各号のいずれかの事実をいう。

第1号

この法律及び個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の用語、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として別表に掲げるもの(補足:刑法、金融商品取引法、不正競争防止法、個人情報の保護に関する法律、労働基準法等が限定列挙されています)〈中略〉に規定する罪の犯罪行為の事実又は同表に掲げる法律に規定する過料の理由とされている事実

第2号(省略)

 

第3条(解雇の無効)

労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者(補足:労働者を雇用している事業者)〈中略〉が行った解雇は無効とする。

第1号(※1号通報のことです)

通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合  当該役務提供先等に対する公益通報

第2号(※2号通報のことです)(省略)

第3号(3号通報のことです)

通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている信ずるに足りる相当の理由(補足:真実相当性)があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報

イ 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱をうけると信ずるに足りる相当の理由がある場合

ロ 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合

ハ 第一号に定める公益通報をすれば、役務提供先が、当該公益通報者について知り得た事項を、当該公益通報者を特定させるものであることを知りながら、正当な理由がなくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合

ホ・ヘ(省略)

 

第5条(不利益取扱の禁止)

※解雇と同様に降格、減給、退職金の不支給その他の不利益な取扱を禁止する内容です。

 

さて、条文の抜粋を記載しましたが、いかがでしょうか?

 

「公益通報」とは・・・「一定の法令の犯罪行為の事実又は過料の理由とされている事実」について「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく」・・・通報することをいう

 

下線部は「通報対象事実」つまり、第2条第3項第1号を一文にまとめました。

 

要件は、「一定の法令の犯罪行為の事実又は過料の理由とされている事実」について「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく」ということだけです。

 

つまり、Aの発言は間違いです

※これを擁護する弁護士が存在するようですが・・・

ちなみに、今回の通報は、3月22日に3号通報、4月4日に某県の窓口に1号通報がされました。

 

ちなみに、「不正の目的」は最終的に訴訟になったときに裁判所が判断します。数個の通報を同時にした場合、すべてについて「不正の目的」がなければなりません。

※このあたりは裁判例が多くあります。=訴訟が多く提起されているということです。

 

「不正の目的」の判断は難しく、ましてや通報されているAが判断するものではありません。

 

ということは、某県の知事らに対してされた通報は「公益通報」であったことになります。

 

仮に、司法書士が相談を受けていたとすればここがスタートラインとなります。

 

「公益通報」にあたるならば、どのように相談者を援助することができるのかを考えることになります。

 

ちなみに、「真実相当性」は「公益通報」をした者への解雇等の不利益処分がされた場合に、保護されるか・保護されないかの要件です。つまり、解雇や不利益処分がされてしまっていた場合に無効や損害賠償の主張が認められるかという最終的な問題の要件です。

 

この「真実相当性」についても最終的には訴訟で裁判所が判断します。※これも裁判例が多くあります。

 

また、公益通報をする時点で証拠自体(誰の証言であるかを含む)を添付する必要はありません。ましてや、通報をしている相手に対して自己の証拠を開示し、手の内を見せる必要もありません。

 

Aは今月の百条委員会で「公益通報者保護法」を知っているかとの委員の問いに「知らない」と答えています。

 

同法の第11条には【事業者がとるべき措置=内部統制構築義務】がさだめられており、内閣総理大臣は指針も定めることになっています。この指針に違反することは法令違反と評価されます。

 

消費者庁のHPにもありますが、この指針によると、

第2 用語の説明

「公益通報」とは、法第2条第1項に定める「公益通報」をいい、処分等の権限を有する行政機関やその他外部への通報が公益通報となる場合も含む。

※3号通報も含むということです。

 

第4

2事業者は、

(1)不利益な取扱いの防止に関する措置

イ 事業者の労働者及び役員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をとるとともに、公益通報者が不利益な取扱い受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる。

ロ 不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の初版の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる

(2)範囲外共有等の防止に関する措置

イ 事業者の労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。

ロ 事業者の労働者及び役員が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる

ハ 範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の初版の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる

 

某県は、上記(1)及び(2)の措置をとる義務を怠り、公益通報者に対し不利益な取扱いをし、範囲外共有及び通報者の探索をして法令違反をしている。

 

また、その行為によりAの懲戒処分をしていないという法令違反も犯している。

 

「法の不知はこれを許さず」

 

地方公共団体の長であるAは法令に違反し、人命を失わせています。

 

「死をもって抗議する」

 

ここからは私の推測ですが・・・

 

亡くなられた某県の元局長は7つの通報をしていたということです(その中には同法では保護されない公職選挙法に関するものも含まれていましたが、同法で保護されるべきものも含まれているようです)。おそらく、その通報内容の証言をした方について百条委員会で聞かれた場合には答えなければならず、その方に迷惑がかかると困ると考えられたのではないでしょうか。

 

なぜなら、自らは死をいとわない覚悟があるのであれば自身の保身は考える必要がないのではないかと思うからです。

 

「公益通報者」を「保護」するために「公益通報者保護法」が施行され、改正されています。

 

もし、亡くなられた局長が信頼できる弁護士に相談していたら現状も異なるものになっていたのではないでしょうか?

 

法に携わるものとして、守られるべき人権・人命が守られなかったということに憤りを感じざるを得ません。

 

もし、万が一・・・今回の通報が過失によるものであったとしても、退職金を返納しなければならないことになったとしても、Aの対応が法令に違反していなければ人命は失われなかったと考えます。

 

Aは自己の責任について深く考えなければならないと思います。

 

私自身、全くできのよい司法書士ではありませんが、行政庁の長が法令を理解できない、条文を読むことさえできないというのは如何なものでしょうか?

 

今回は「公益通報者保護法」について考えてみました。

 

できれば、早急に亡くなられた方の名誉が回復されることを願います。また、亡くなられた方のご冥福を心よりお祈り致します。

 

今日も最後までおつきあいありがとうございます。

当ブログの内容については私見ですのでご批判はご遠慮願えると幸いです。