一粒の価値を高めて少数精鋭で実る種類もあるが、植物全体で見れば数で勝負するものの方が多い。
 冬を彩る草木の果実もちょこちょこ実らせるよりも、これでもかと着果するものの方が多いように思う。いわゆる『鈴生り』だ。

 色が少なくなる冬季に鈴生りの果実を見ると、ほっとする。景観を和ませるからというだけではない。食せるものが少なくなる冬季に、鳥や動物たちの貴重な食料になるからだ。
 昨夏が猛暑だったせいか、この冬は鈴生りのものが例年以上に多いと感じる。景気がいいので、ぱあっと一気出しすることにしよう。






 ピラカンサ
 赤が基調だが、黄色やオレンジの実をつける品種もある。どの品種もすさまじい勢いで着果する。植栽の上が真っ赤に見える有様は美しいを通り越し、執念を感じさせることすらある。

 実の色づきは早いものの、果実として熟すのには時間がかかり、完熟するまでは渋みやえぐみが強いので鳥も手を出さないようだ。完熟したところで、決しておいしくはないのだが。あんたに食われるためにおいしくなる必要はねえと文句を言われそうなので、おとなしく見るだけにしておく。





 ヒヨドリジョウゴ
 ありふれた蔓草だが、真っ赤な果実は遠目にも鮮やかだ。ヒヨドリが喜んで酔っ払ったように飛び回るから鵯上戸という名付けになったそうだが、そいつの目は多分腐っていたんじゃないだろうか。
 果実はどれほど熟してもイヌホオズキ以上に生臭く、しかも有毒だ。人間は愚か鳥も滅多に手を出さない。だから、鈴生り状態が長く続く。

 いつまでも寂しそうに木々の間でネックレス状態になっているが、最後は黒く腐ってしなび、そのまま退場するものが多いように思う。
 もうちょいおいしい果実をつければいいのに。そう思うが、彼らには彼らなりに不味くした理由があるのだろう。ぺぺっ。





 カナメモチ
 冬に実る赤い果実としてはモチノキの仲間ばかりが持て囃されるが、バラ科樹木のカナメモチの鈴生りも決して悪くない。単生する木が多いことと、成長が遅くゆっくり大きくなるせいで、押し出しがやや弱いのだろう。

 ひとつひとつの果実が小さいので、どんなに密生してもイメージが柔らかい。大きな鳥に蹴散らされることの多い小鳥でも、この果実ならついばみやすいかもしれない。
 ただし、きちんと熟すまではひどく苦い。鳥もわかっているのだろう。味がよくなるまでは鈴生りのまま残っている。





 ヤブラン
 鈴生りというにはちと数が足らない気がするが、一つ一つの実がそこそこ大きいので集まるとそれなりに存在感を主張する。
 根締めによく使われる草だからよく目にしているはずなのだが、意外に記憶に残らない。地面に近いところに黒い実だと、いくら鈴生りであって着目されにくいのだろう。

 これがもし赤い実ならば、鈴生りでなくとも目につくのだ。もっともっと背の低い這性のヤブコウジのように。





 トウネズミモチ
 大方の果実は鈴生りになれば称賛してもらえるが、中には例外がある。紫黒色に熟すトウネズミモチだ。とにかく、ビジュアルがぱっとしない。いや……もっとぶっちゃけて言えば汚い。紫黒色のうち、赤成分が少しでも前に出ていれば違った印象になっただろう。だが実際のところはほとんど灰黒色に近く、鑑賞要素は乏しい。

 ビジュアルだけでなく、味もよくない。酸甘がなく、苦いだけ。なぜ鳥がこの実を喜んで食うのかはなぞだ。ともかくも、実着きだけは恐ろしくよいので、実生の広がり方も半端ない。そのうち嫌われ者になりそうな鈴生りであった。





 マンリョウ
 センリョウと並んで縁起物にされるマンリョウ。大きくなれない低木ながら、実つきはとてもよく、林床にびっしり密生すると、まさに鈴生り。壮観だ。

 美しさに反して、実にはこれといった味がない。後味もよくない。そして、ほとんど果肉がない。どんなにおいしくても可食部がないのでは魅力に乏しい。ましてやおいしくもないのでは……鳥もぎりぎりまで口にしない。
 ただし不味の要素は、長く鑑賞するという面ではメリットになる。「口福」には恵まれていなくとも、これだけ「眼福」を提供してくれるのなら文句を言うのは野暮というものだろう。

◇ ◇ ◇

 鈴生りをずっと楽しんでいたいところだが、冬の深まりとともに果実は消える。その消失が春を連れてくるのだから受け入れざるをえまい。
 鈴生りの印象は、今のうちに脳裏のスケッチブックにしっかり描き込んでおくことにしよう。




  いつからか箱にころりと南天実





Blackberry Winter by Hilary Kole


《 ぽ ち 》
 ええやんかーと思われた方は、どうぞひとぽちお願いいたしまする。(^^)/


にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ
にほんブログ村