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** 組曲モルフォ 第十曲 瓶の中の小悪魔 **



(2)


世の中にはいいやつと悪いやつ、どうでもいいやつがい
る。
そいつらは、自明の存在としてくっきりと区別することが
できない。

区別は自他の認識の差から生まれ、差が大きければ大きい
ほど反対側の極へと離れる。
つまり、自分が認められない側を悪いやつ、自分がすっぽ
り入る側をいいやつと認識するわけだ。
当然のことながら、帰属が不明瞭なものは全部ひっくるめ
てどうでもいいやつってことになるのさ。

いいと自称するやつは、往々にして神だの善だの真理だの
という称号でくくられる。
その逆側に集まるやつらが、悪だの悪魔だの不義だのと呼
ばれるわけだ。

しかし、それをきちんと峻別できるやつは、世界のどこに
も存在しない。
全ては混沌の中にあって、その大海からぱちんと飛び出し
た泡をいいやつ、ゆるゆると海底に沈む塵を悪いやつと称
する。それだけのことだ。

どちらにも属さない曖昧な存在があまりに膨大で、いいや
つと悪いやつはその一部しか取り込めない。
極に近いところでどんなにいばり散らしていても、結局連
中が世の中を統べることはできないのさ。

それでも、くだらない夢を見ちまうやつがいっぱいいるん
だよ。
我輩は絶対善だとか、絶対悪だとか、世の中を俺一色に染
めてやるとか、世界の支配者は俺一人でいいとか、な。

まあ、全能だと思い込んだり野望を口にするのは構わない
よ。
与太を垂れ流しているだけなら何も害がないから、好きに
してくれていい。

だが極の反対側にいるやつ同士でどんぱち始めたら、そら
あしゃれにならないんだ。
なぜかって?
絶対者を気取るやつほど、そいつ自身に絶対的な力がない
からさ。

口だけ達者なやつは、その他大勢を巻き込もうとしていろ
いろなトリックを考え出す。
やれ真理だ、やれ予言だ、やれ経典だ、やれ天啓だ……や
れやればかりで、やれやれだよ。

その他大勢が、勘違い野郎どもの戯言をばかばかしいと笑
い飛ばせばそれまでさ。
でも、口車にまんまと乗っかるのがその他大勢ってやつな
んだよ。

そんなわけで、これまで何度かでかい衝突があったんだ。
白と黒、天と地、光と闇……いろいろな極が作り出され、
その極に乱雑に詰め込まれた同士が、無益な戦いを繰り広
げて来た。
俺も、まんまとそいつに巻き込まれたってわけさ。

◇ ◇ ◇

俺の顔の真上で、蝶の落とす影がゆらゆらと変化してい
る。
蝶は、俺の話を聞いているんだろうか?

いや、俺の話をまじめに聞いたところで何一つ有益なこと
は起こらない。ひたすら時間の無駄だ。
その時間の無駄を押し付けるってのが、俺の扱える唯一の
災厄ってことになるんだろう。
でも、目の前の蝶が災厄っていう概念を理解できるのかど
うか、どうにも怪しい。

蝶はまだ瓶に留まっている。
ゆっくりと羽を開閉し続けている。
俺の話に飽きて、すぐに飛び立つってわけでもなさそうだ
な。じゃあ、話を続けよう。

◇ ◇ ◇

俺は見ての通り痩せっぽっちのちびすけで、なんの力も取
り柄もない。その他大勢の中でさえ卑小な存在なんだ。
そうだな、俺が下敷きにしている海藻とたいして違わない。
違うのは口を利くかどうかだけさ。

だが、対極にある者同士がぶつかり合う時には、俺が何者
かなんてまるで関係なく色分けされちまうんだよ。
どっちかの極にね。

俺には何の力もないが、やたらめったら旗だけを振り回す
阿呆の欺瞞を見破るくらいの智力はある。
阿呆のやらかすとばっちりを食わないようにするには極に
近い連中から遠ざかるしかないんだが、世の中が真っ二つ
に割れちまう争いが起こる時には逃げる場所も隠れる場所
もなくなるんだ。

仕方なく、俺は黒に付いた。
大した理由はないよ。
たまたま俺の見てくれが黒かったからで、帰属と俺の思想
信条とはなんの関係もない。

吹けば飛ぶような俺は、扱えもしないどでかい槍を持たさ
れ、歩兵として決戦の地へと駆り出された。
もっとも力のない者が、もっとも危険な戦場の最前線に送
られるなんて……。
理不尽な扱われ方がどうしようもなく悲しくなった俺は、
あえて白い軍の大将に突っ込んでいった。
どうせ討ち死にするなら、格好くらいはつけたいなと思っ
てね。

そいつは、俺を戦闘に値する者とは見てくれなかった。
雑魚の相手をするのがうっとうしかったんだろう。
俺をこの瓶に封じ込めて海に放り投げたんだ。
神に逆らった罰だとかなんとか抜かしやがってね。

だが、そいつの気配はいつの間にかしなくなった。
きっとどこかで討ち死にしたんだろう。
偉そうにしてた割には大したやつじゃなかったってことだ
な。

どんなに大物らしく振舞ったところで、くたばりゃ無にな
るのさ。
存在している俺以下になるわけだ。ざまあみやがれ。

俺が巻き込まれた悲惨な戦いの勝敗がどうなったのか。俺
は知らないし、結末には興味がない。
ただ。瓶の中の俺がぷかぷか漂っている間に、両極の連中
ががあがあ連呼していた天国にも地獄にもなっていないっ
てことだけは確かだ。

そんなわけで。
俺は瓶に封じられたままずっと海面を漂ってきたんだ。

幽閉されたことは不幸か?
最悪の不幸だと思うやつもいるんだろう。
だが、俺にとってそれは無上の幸福だったのさ。
ああ、ここにいればくだらんことに一切関わらなくても済
むってね。

俺の望みは、こうしてずっと惰眠をむさぼり続けること
だ。
それを叶えてくれたやつを神と呼ばなければならないのな
ら、そのくたばった神とやらにうんと感謝したいところ
だ。
俺の身代わりにおっ死んでくれて、ありがとよってな。












Message In A Bottle by The Police



《 ぽ ち 》
ええやんかーと思われた方は、どうぞひとぽちお願いいた
しまする。(^^)/


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