読書ノートの22回めは、柚木麻子さんの『嘆きの美女』(2011年発表。文庫版は朝日文庫)です。アエラのオンライン版で連載されていたものの文庫版ですね。BSでドラマ化されています。





 あらすじは、こんな感じです。主人公の池田耶居子(いけだ やいこ)は25歳。通称ジャイ子と呼ばれる引きこもりオタクで根暗なデブのブス。仕事を辞めてから自室に閉じこもり、ネット荒らし三昧の日々を送るろくでなしです。ひがみ根性丸出しで、美女四人が運営しているブログサイト『嘆きの美女』に悪口コメントを書き込む毎日。ところが、全然ブログ管理人に相手してもらえません。
 どたまにきたジャイ子は、オフ会での美女たちの俗人ぶりをネットに晒してやろうと会場近くに潜み、そこで鉢合わせた変態男とトラブルを起こした挙句、交通事故に遭ってしまいます。ジャイ子が担ぎ込まれたのは、こともあろうに美女の一人、かつて小学校でクラスメートだったユリエの家でした。美女たちの手厚い看護を受けて回復していくジャイ子でしたが……。

……という話。




(スス病に罹ったアメリカヒイラギ)



 感想を。これがね、めっちゃおもしろいんです。

 設定は、わたしの肌に合わなかった宮木あや子さんの校閲ガールによく似ているんですよ。主人公がコンプレックス漬けで、オタク体質。いろいろ起こるイベントを通して自分の真価を見出していく……そんな感じ。でも、読んでいてのおもしろさは、嘆きの美女の方がずっと上でした。

 その差はどこから来るのか。主人公のスタート位置の違いが大きいかなあと。ジャイ子は、最初本当にど底辺もいいところで、容姿も性格も能力も魅力ゼロ。校閲ガールの悦子のファッションに対するこだわりやずば抜けた記憶力みたいな、最初から与えられてる能力や技能が何もありません。どん底からのビルドアップになるので、読者は心情に寄り添いやすいんです。

 加えて、ジャイ子に影響を与える出来事の輪郭がくっきりしていて、そこを通過するたびにステップアップしていくジャイ子の感情や思考がとてもわかりやすいのもいいなあと思いました。イベントにはポジティブなものとネガティブなものがあり、まるで飴と鞭。「全力を出してこなせればご褒美」という感じですね。それが、ジャイ子の必死さをうまく引き出しています。それらのイベントをクリアするごとに自分の資質や課題に気づき、コンプレクスで潰れていた自分を作り直していくという流れはとてもよかったです。
 一方でジャイ子のインフルエンサーになる美女四人は、虚飾を脱ぎ捨ててステップを降りてくるんです。最後はジャイ子とガチで本音をぶつけ合うんですが、そのプロセスがなんともいえずしっくり来ました。




(カプシクム “パープルフラッシュ”)



 文章は、横文字やカタカナ多め。ネット用語、オタクっぽい隠語や世界観もばんばん出てきます。三人称での記述ですが、実質は底辺ジャイ子の一人語りに近いので、必ずしも整った文章ではありません。しかもジャイ子のひがみが酷いので、前半はそういう視点での記述が支配的。ネガな感情をベースに書かれている文章が苦手な人にはオススメできません。
 でも、それはあくまで見た目の問題です。ジャイ子の心理変化は、行ったり来たりや揺れの部分も含めてとてもリアルに描かれています。だから、世界が広がるという感覚がすとんと納得できるんです。また、美女四人や周辺人物のキャラの作り込みも丁寧で、虚飾と実態との落差がわかりやすく、感情を寄せやすかったです。

 一つだけどうにも残念だったのは、本編のあとに追加されているスピンオフ(アフターストーリー)。本編と違ってジャイ子の一人称展開なんですが、おまけ感が強過ぎてしらけます。本編の読後感を損ねるものをわざわざ載せる意味がわかりません。ジャイ子ではなく、ユリエなど他の登場人物の視点から描いたものの方がよかったんじゃないかなあ……。

 ともあれ。綺麗事は描かれていないけど、展開がとにかく楽しい現代版マイフェアレディ。そんなイメージで、わたしは『本編を』最後まで楽しむことができました。気取った文学は苦手だという方には、自信を持ってオススメします。


 次回の読書ノートは、有川浩さんの『植物図鑑』と沖田円さんの『春となりを待つ君へ』です。








Beauty In The Sorrow by Trivium



《 ぽ ち 》
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