読書ノートの14回めは、 近藤史恵さんの『天使はモップを持って』(2006年発表。文庫版は文春文庫)です。以前ご紹介した『モップの精は深夜に現れる』の前作。キリコシリーズの発話、一作めに当たります。

 同じ作家さんを二回取り上げるのは初めてですね。でも前回と違い、今回はかなり辛口になります。(^^;;







 二作目の方で登場人物等は紹介済みですので、今回はさらっと。

 主人公のキリコはハタチそこそこの年齢で清掃婦として働いており、とても清掃婦とは思えないおしゃれな服装でいつもキメていますが、仕事はどこまでもきっちりです。そして、オフィスで起こる様々なトラブルの出どころを見逃しません。
 キリコが清掃作業しているビルの会社に勤めている新入社員の梶本大介は、そんなキリコと絡むことで危機を乗り越えたり、一緒に難題に取り組むことになりますが、やがて……。

 ……というお話。




(チヂミザサ)



 さて。感想を。
 残念ですが、これは期待値以下でした。というか、読む順序が前後した弊害をもろにかぶりました。このシリーズは読み切り短編を重ねるという形式ですから、どれを読んでもトーンは同じはずなんですが……。そうはいかなかったです。

 基本的な骨格は、一作めと二作めの間で何も変わりません。お掃除探偵としてのキリコの活躍を、第三者の目線で描写する。小さな疑問を見過ごさず、オフィスに起きる不可解な出来事を解き明かす。メインは謎解きそのものではなく、ヒューマンドラマ。そう、全く同じなんです。

 じゃあ、読後感も同じか。これがね、まるっきり違うんですよ。もしわたしが本作を先に読んでいたら、二作め以降には手を出さなかったと思います。一、二作めを比べると、本作の難点がよーくわかっちゃうんです。

 難点その一。本作では後にキリコの夫になる大介がナレーターで、大介の働く会社が舞台。そこが全話固定されているんですが、特に後半しんどくなってきます。だってそうでしょ? いくら作り物の舞台だとはいえ、次々トラブルばかり起こる会社はちょっと……。現実との間に大きな落差があるから、ヒューマンドラマが安っぽく感じてしまうんです。

 難点その二。大介は後にキリコの夫になるわけですから、キリコ像が大介の中で変化して好意につながるラブストーリーが、一作めの柱の「一つ」になっています。つまり謎解きものに恋愛要素をプラス……という感じなんですが、肝心のラブストーリーが「柱の一つ」になり得ていません。一番しんどいのは、ナレーターの大介の作り込みがどうにも薄っぺらいこと。読んでいて、彼にちっとも魅力を感じないんです。だから、二人の間の心の通い合いがリアルに見えてこない。それで最後に結婚しましたって言われても、はあ? ……ですよ。

 難点その三。謎解きメインでないとは言っても、人間関係の綾を読ませるのが持ち味なんですから、もう少ししっかり背景や経緯を書き込んで欲しかったなあ。一話の尺があまりに短かすぎるんです。感情醸成が進まないうちにさっと終わってしまうので、印象が残りません。近藤さんの文章の特徴である「さらっと感」が、完全に裏目に出てしまった感じですね。

 難点その四。オフィスで起こる出来事の中に死人が出る事件を入れ込んだのは、大失敗だったと思います。表に出ない隠れた心模様があるからトラブルが生じる。キリコはその小さな違和感を見逃さない。そこがこのシリーズのもっとも大きな売りだと思うんです。なのに場違いな大ネタをぶちこんじゃった。しかも他の話と同じ短尺で。当然、生煮えもいいとこです。
 社屋で関係者が変死するっていう事件があったら、普通は大騒ぎどころの話じゃ済まないでしょう。影響は長く尾を引きますよ。それなのに他の話と同じ尺でさらっと流しちゃった。これをやらかすと、キリコも大介もすごーく乾いた薄情なやつに見えちゃうんです。
 近藤さーん、これはダメだよー。リアリティゼロになっちゃう。説得力もなにもあったもんじゃない。ファンタジーじゃないんだからさ。




(ササクサ)



 いやあ、シリーズっていうのはほんとに怖いですね。第一作では舞台と登場人物を固定した上で、恋愛要素を入れたり、ネタの大小を変えたり、短尺を畳み掛けたりと、いろいろ試行錯誤しながらの作話だったんじゃないかな。そういう手探りの弊害がもろに見えてしまっているように思います。

 ところが先にご紹介した二作めでは、気になった難点が全て解消されてるんですよ。
 ナレーターも舞台も各話毎に違うので、ダレや違和感がありません。尺が確保されていますから造形不足を感じません。それぞれの話が完全に独立しているので、ネタの軽重の影響を受けません。キリコの恋愛要素が排除されているので、並存するテーマ間で話がふらつくこともありません。
 実に見事。さすがプロやなと思います。わたし自身もシリーズものでは苦労していますので、大変勉強になりました。

 かなりこき下ろしてしまいましたが、キリコちゃんは出だしからチャーミングですし、軽い読み物としては十分楽しめると思います。でも、しっかり味わうなら二作め以降かな。


 次回の読書ノートは、阿川せんりさんの『厭世マニュアル』です。








Hands Clean by Alanis Morissette



《 ぽ ち 》
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しまする。(^^)/


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