「ねえ、幽霊っていると思う?」

 

その日、夜の巡回にきた鈴木副師長に問いかけた。

 

 

 

渓太郎の体力も限界に近づいているのを感じていた私は、「渓太郎は死んだらどうなるのか」ということが気がかりで仕方がなかったのだ。

 

 

 

「死んだら終わりなのか・・・。その先の世界はあるのか・・・」

 

 

「死んだ先には幸せが待っているのか・・・」

 

 

 

だからといって、その時の私は、懸命に看護をしてくれている人に向かって「渓太郎は、死んだらどうなるの?」と聞く勇気はなかった。

 

 

 

霧の中を模索するような状態で、つい、こぼれてしまった質問だったのだけれど、私の気持ちに反して、鈴木さんの口からは明るい声が返ってきた。

 

 

「うん。いると思うよ!」

 

 

あまりにあっけらかんとした答えに驚いた私は、とんでもない叫び声をあげてしまった。

 

 

 

「えー!!!怖くないの!?」

 

 

 

(「いるよ!」と断言したわけではないけれど、確実に見えているに違いない。だって、相手は看護師さんなのだから・・・)

 

 

 

すると鈴木さんは、点滴のルートを確認しながら、鼻歌でも歌いだしそうな勢いで話しだした。

 

 

 

「怖いことなんてないよ~。だって、もともと人なんだから。幽霊になったって、な~んにも変わらないよ」

 

 

 

(「もともと人なんだから」・・・か!)

 

 

 

私にとって、これほど威力のある言葉はなかった。

 

 

 

さっきまで心の中に広がっていた霧が一瞬にして消え去った。

 

 

 

『死』 は 「流れの一部」 「変化」 ――― 渓太郎は消えることなく存在する!

 

 

 

たくさんの「死」をみてきた看護師さんの言葉は、私の中で 「確信」 として残った。

 

 

 

 

 

―――今ならわかる。

 

鈴木さんは、きっと気がついていたのだ。

 

 

「ねえ、幽霊っていると思う?」=「渓太郎は、死んだあとどうなるの?」 という問いかけだったのだと・・・。

 

あっけらかんとした表情の裏で、どれだけの切なさを呑み込んでいたのだろう・・・。