近藤誠氏批判⑦専門家を説得出来ない近藤理論の手法の問題 | がん治療の虚実
2013-11-21 18:11:15

近藤誠氏批判⑦専門家を説得出来ない近藤理論の手法の問題

テーマ:近藤誠氏への反論
先々週と先週の週刊文春で近藤誠氏と長尾和宏氏の誌上論争が掲載されている。
長尾和宏氏は単行本「「医療否定本」に殺されないための48の真実」や雑誌掲載に伴うさまざまな誤解とクレームが一般人から来て、理解してもらう事の大変さに辟易しているようだ。
近藤誠氏との対談も自分が断ったかのように週刊文春に書かれたと憤っておられる。
http://www.nagaoclinic.or.jp/doctorblog/nagao/2013/11/post-3555.html#comment-4932

この手の記事はもう随分前から繰り返されているが、今後も決着はつかないだろう。

なぜなら論点がかみ合わないからだ。その理由としては

・がん治療全体のテーマが広大すぎ(手術、抗がん剤、放射線治療だけでなく、検診や緩和療法も含め、効果があるないの意味の定義まで混沌としている)、各論だけでも時間や誌面が全然足らない。

・お互いの異なった臨床経験をぶつけ合っても水掛け論になるだけ。

・臨床試験などのエビデンスを根拠に挙げても、自分の理論を支持するエビデンスのみを選択して主張するから決定打にならない。

・どちらの言い分が理にかなっているように感じるかは各読者の先入観と価値観、リテラシー(医学的読み書き能力のこと)で決まる。

等々
したがってこの連載では、従来とは違った視点で近藤理論の非現実性を指摘する。

以前、なぜがん医療界は組織的に反論しないのか?と言う記事で、各種がんの治療ガイドラインが出そろってきているのが一つの理由と説明したが、近藤誠氏の手法の誤りはこのガイドライン作成の手順を理解できると明確になる。

その前にエビデンスレベル(科学的根拠: 真実に確率的に近い尺度とも言える)の復習をしよう。

これは近藤誠氏が臨床試験やそのエビデンスをたびたび引用して主張しているので避けて通れない。
科学的根拠と言っても信頼性の高さはさまざまだが、無駄に論争しなくもある程度は信頼性の高さの序列が決まっている。

まず最も重要であるランダム化(比較)試験の意味だが、臨床試験登録患者を新治療群と従来治療群にサイコロで振り分けて、どちらの方が成績が良かったかを比較する臨床試験のことを指す。
サイコロ(実際にはコンピュータで無作為に割り付ける)で治療選択を強制的に決められてしまうので登録患者さんにとっては心理的抵抗があるだろうが、色々な個人差(年齢、性別、がんの転移場所や個数など)というバイアス(偏り)が入りにくいので、非常に客観的なデータが得られる。

この前提をもって、医学データのエビデンスレベルの段階を高い順から並べると

---------信頼度高い↑---------

レベル 1 --- システマティック・レビュー/メタアナライシス(メタ解析)
複数のランダム化試験を組み合わせた数万人レベルの最も信頼度の高い情報。
担当医や個人の事情は無視できるほど治療行為のパワーが抽出される。この結果は非常に重みがあって覆すことは困難。

レベル 2 --- 一つ以上のランダム化比較試験による
新旧二つの治療法を無作為に(患者、主治医の意向には無関係にと言う意味)それぞれの患者群に割り付ける、新薬と従来の標準治療の決勝戦ともいえる試験→抗がん剤の認可にも大きく影響する
このレベルであればエビデンスとして十分通用する。しかし同じレベルのランダム化比較試験でも結果が食い違うことがあり、その解釈は専門家でも意見が分かれる。

近藤理論の問題はここで抗がん剤の効果を否定する臨床試験だけを選んで、自分の主張の根拠としているところにある。

レベル 3 --- 非ランダム化比較試験による(前向き試験)
抗がん剤臨床第二相試験がこれに相当する。前向きなので不成功率もわかるし、期待の新薬はここで選別される。
欠点はこのレベルでは元気な患者さんを集めることで実際以上の良い成績を作り出せる。また比較試験でないのでその奏功率などがどれほど意味があるか解釈が難しい。

レベル 4 --- 分析疫学的研究(コホート研究や症例対象研究による後ろ向き研究)
既にあるデータを集めてその傾向を探る。新治療法開発へのヒントを探る意味を持つ。
欠点は研究者によるバイアス(偏り)が入りやすく、意図的な研究成果がよく発表されている。これを安易に信じてはいけない。この後ろ向き研究はレベル3前向き試験の10分の1ぐらいしか価値がないと思っても良いかもしれない。
多少気の利いた民間療法でここまで発表しているものもあるが、意図的な操作が可能なレベルと言うことを忘れてはいけない。

レベル 5 --- 記述研究(症例報告やケースシリーズ)による
たまたま治療が著効した珍しい治療例の紹介や稀少がんの治療例を紹介する意味がある。膵がん、胃がんのstage IVが抗がん剤で治ったという報告も珍しくないが、たまたまという以上の意味はない。
うまくいった患者さんの報告が自分の同じ病気に当てはまるのではという誤解が多いが、無視すべきレベルである(宝くじに当たったという報告のようなものなので)。

レベル 6 --- 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見
エビデンスとして発表されている治療法は全体のごくわずか。それに当てはまらない事に関しては専門家が推測するしかないのだが、確固たる根拠無しなので最低のレベル。
テレビなどの専門家の発言はこのレベルだから真に受けてはいけない。

ちなみに近藤誠氏の著作「がん放置療法」はこのレベル。上記のレベル4ではないかと思う人もいるだろうが、個人的自由度で好きに書いているだけなので学会では通用せず、このレベルとした。

---------信頼度低い↓---------

上記が難しくて理解できないという方にあえて簡単な説明をすると、多くの登録患者が参加した臨床試験ほど(ただし良い試験デザインのものに限る)真実に近いという科学的根拠の序列を示している。

このエビデンスレベルが高いほどその治療法が有効としているが、ある患者さんにとっての最良の治療法と決定づけている訳ではない。ここを勘違いされている人が非常に多い。
つまりエビデンスとは患者さん自身の事情(病態だけでなく運勢も含む)というノイズを薄めて、あくまでもその治療法の純粋なパワー(有効性)を示そうとしているだけなのだ。
となると、実際の治療現場においてエビデンスは参考にするだけで、治療法選択の唯一の決定要因ではないことがわかるだろう。
これをひっくり返して考えると、近藤誠氏の「がん放置療法」の奇怪さが理解できるようになる。多彩で個人差の激しいがん治療を一律「がん放置」が一部のがん種を除いてほとんど例外なく正しいとする主張自体に無理がある。
と言ってもなんのことかさっぱりわからない人も少なくないと思われるため、次回以降じっくり解説していきたい。

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