近藤誠氏への批判②なぜ近藤理論が受け入れられる素地があるのか | がん治療の虚実
2013-06-16 22:12:44

近藤誠氏への批判②なぜ近藤理論が受け入れられる素地があるのか

テーマ:近藤誠氏への反論
なぜ近藤理論が一般がん患者に受け入れられる素地があるか

※まず最初に断っておくが、受け入れられる素地があっても、広く受け入れられているという意味ではない。

近藤誠氏の著作が数十万部売れていると言うことで、最近週刊誌やアマゾンのレビューなどで話題となっている。
インフルエンザワクチンやタミフルの話題も一時盛り上がっていたが、論争で一般人も含めて盛り上がっている病気はそれほど多くない。

例えば一般的な肺炎や膀胱炎という病名で同様な活発な論争が行われたり、サプリメントや代替医療、民間療法を大々的に宣伝している場面はあまり見たことがないだろう。
理由は簡単。
抗生剤の効果が十分期待でき、異論を挟む余地が無いからだ。
一方、特効薬のない病気ほどたくさん治療法がある。

身近な病気としては風邪が好例だが、ウイルス感染であるため抗生剤は効かないし、自然回復を待つしか無い。
病院でもらえる薬も「症状緩和」が目的であって、治すためではない。
となると、民間療法やサプリメントなどいろいろな風邪対策をうたうものが出てくる。
同様に糖尿病も治らないから、たくさんの治療法やサプリメントが目に付く。

がんもstage IV(遠隔転移あり)になってくると完治は難しい。それに加え、風邪や糖尿病と違っていきなり余命を意識させられる。
また不治の病で治療で苦しむと言う世間一般のイメージも出来上がってるため、よりよい治療を求める切実度が違う。

十数年前は、固形がんに対する抗がん剤も各医師が個人的経験を元に選択治療していた。
しかし実際の奏功率も10~20%が良いところ。
しかもそれは一時的に腫瘍が縮小するという意味だけで、いずれ再増大して死に至るというのが医師の間での認識だった。

抗がん剤の最大の副作用である吐き気に対する予防策も未発達で、こんな苦しい思いまでして助からないし、延命効果もわずかだから理不尽な治療だと研修医だった自分も考えていた。

それでも肺の癌性リンパ管症で呼吸困難となっていた乳がん女性が、化学療法後、肺がきれいになり、呼吸も楽になっているのを見て、それなりに意味があるんだなと思った。

あるとき外科の上司から、胃がんstage IVの50代男性を紹介された。
手術はもう無理だから治療は内科で御願いというわけだ。
当時、stageIV 胃がんの化学療法といえば5FUかそれにシスプラチンを加える治療ぐらいしか無かったが、色々調べても奏功率は15%前後。

がっくりきて、患者さんへの治療説明でも抗がん剤はあまり効かないし、副作用を考えると...という感じの会話になったのを覚えている。
その患者さんは見識のある男性で動揺は見せず、結局緩和療法のみを選択した。
数ヶ月で亡くなるまでの間、病気のことを忘れるかのように会社の仕事を続けていた。
このとき実は胃がんに対し奏功率3割はある内服抗がん剤TS-1は既に発売されていたのだが、自分は知らなかった。
また同時に奏功率が全てと思い、抗がん剤の意味のなんたるかを理解していなかった。

当時、抗がん剤というのは非常に奏功しやすい造血器腫瘍(白血病や悪性リンパ腫など)を担当する血液内科医が主導してきた。

彼らは、副作用を恐れて中途半端な治療をするなということを常々言っていた。抗がん剤に慣れていない医者が、副作用が怖いからと勝手に抗がん剤を減量投与すると、結果的に患者さんに不利益を与える。
しかし副作用対策をしっかりやった上で治療を完遂させると治癒するチャンスが増える。

かたや、消化器がんは抗がん剤の効果が低いとされていた。
切除しないと完治は難しく、遠隔転移・再発の場合、効果は期待出来ない。
患者さんは最後まで治療を希望するため、副作用もきつくない5FU系内服抗がん剤でお茶を濁すのが普通だった。
実際にはそれなりにきついので患者さんは飲んだふりして家に山ほど抗がん剤が積まれていたのだが....

それから10年たって、各種がんの治療ガイドラインも整備されてきた。
医師の個人的経験より、はるかに確実性の高い大規模な臨床試験に基づいた標準治療は、その時点で最も有益な治療であり、治療担当医の経験の差を埋め、がん治療全体の底上げに貢献している。

がん患者さんの長期生存例も増えており、患者会には化学療法が奏効しやすい造血器腫瘍、乳腺がん、卵巣がんなど以外の呼吸器、消化器などの固形がん患者さんも多く参加するようになったことで実感出来る。

しかし以下のような問題も生じる

①標準化学療法の適応条件を満たす患者さんは全体の5~6割しかいない(注意: 効果が得られないという意味ではない)。

これは抗がん剤認可の根拠となった臨床試験に参加している患者さんの条件が安全性の面から絞られているからだ。
例えば一日半分以上起きていられないほど体力が低下している場合や、年齢70~75歳以上、中等度以上の心疾患、肝腎障害、インスリンを必要とする糖尿病を持つ患者さんは参加出来ない。

もとの臨床試験から除外されているから、安全性、治療効果についてのデータが無い。
治療条件から外れた患者さんに、ガイドラインを参考に治療法を調節するのはかなりの注意を要する。

当方も患者さんの強い治療要望のあまり、適格基準から外れた患者さんに抗がん剤治療を行い(当然治療計画は慎重なものにしていても)、強い副作用で逆に不利益を与えてしまい、後悔したことがある。
これは逆にうまくいくケースが少なからずあるためでもあるのだが。
一方、はっきり治療出来ないと患者さんに通告してしまう医師もいる。

この場合患者さんのために何とかしてあげたいという気持ちがあっても、きわどい綱渡りは避ける方が患者さんのためだと冷静に判断出来る医師かもしれない。
(といっても本当はどんな段階でも治療出来ないとは言うべきではない。良く考えれば患者さんのためにできることはあるのだから)

②標準治療を行っても奏功率(腫瘍径が30%以上縮小すること)は20~60%程度なので、当然副作用だけ出て、治療効果が得られない患者さんが一定の割合で出てくる。
苦しんでいるがんの症状が改善されない上に、抗がん剤の副作用が上乗せされるとなると、患者さんは追い込まれてしまい、抗がん剤をするんじゃなかったということになる。

③がん原発巣、転移巣ともに画像で確認出来ても、がん症状が全くない人もいる。
こういった患者に標準治療をおこなって腫瘍縮小が得られたとしても、実感出来る治療メリットがなく、治療で苦しい思いをするだけというケースもあり得る。
腫瘍縮小が得られれば、延命効果もあるケースが多いが、副作用がきついと本人が実感出来ない。
また効果があっても、CR(完全に腫瘍が消失すること)まで至り、治癒するケースは稀なので、基本的にずっと治療継続しなければならない。
最初はがんばれても次第にへばって、抗がん剤治療でどんどん衰えていくことがある。
こういった場合、がんではなく抗がん剤治療によって苦しむように見える。

④ガイドラインに合致しない、あるいは標準治療が有効でなかった一定の患者群に対する救済策が不十分で、明確な指針がない。
ベストサポーティブケアという緩和療法を推奨してはいるが、方針は個々の医師の裁量に任せるしかない所にがん治療のほころびが目立つ。
現在のがん治療の基本となっているガイドライン(エビデンスと言い換えても良い)は助けられる(治療が有効なと言う意味)患者さんには確実な治療法を施そう、という発想から整備されているため、そこから漏れた患者群に対しては手薄になっている。

治療がきつくても治癒が目指せる造血器腫瘍(白血病など)と違い、一般的に固形がんでは治癒は難しく、がんと共存する治療をずっと継続しなければならない。
しかももともと効きにくいので副作用に耐えられるぎりぎりの量の抗がん剤を使う。
その場合医師は患者さん自身の価値観を知り、その治療の意味を教育する必要がある。
患者さん個人がきつくても家族のためになんとしても生き延びたいのか、苦しい思いをしてまで生きていたくないと思っているのかという違いがあれば、当然治療選択も変わってくる(特に2次治療以降)。
ガイドラインにはその重要性について触れられていない。

以上のように、有用と思えるガイドラインを活用出来ない、あるいは逆に不利益を被る患者さんグループが一定の割合で出てくるのは避けられない。

良く聞くパターンは主治医の言うとおりにがんばって治療したのに、副作用で苦しんでどんどん悪くなった。そのうち、うちの病院ではもう治療出来ないから、地元の病院に移ってください、あるいは緩和ケア病棟を紹介します、と言われたというものだ。

治療がうまく行かなかった患者さん側の不満は大きいし、身内や知り合いが上記のようなケースになった場合、ひどい目に遭ったという証言は増えてくる。

また治療がうまくいった場合も決して楽ではないのが抗がん剤治療だし、うまくいった場合もあまり大きな話題にはならない。

現在のがん治療の有効性で不満を持つ患者関係者が少なくない中、近藤誠氏の「抗がん剤は効かない」という説は、なるほど本当はそうなのだと、つい思えてしまうのだろう。

参考: 抗がん剤拒否の理由⑮医師は標準治療を押しつけるが、その意味解釈を省く
http://ameblo.jp/miyazakigkkb/entry-11175877785.html

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