質問:低用量治療についていかがでしょうか? | がん治療の虚実
2013-05-30 19:44:34

質問:低用量治療についていかがでしょうか?

テーマ:質問と回答
Reiさんより質問
患者さんは、自分の終末期に気づいていないのかもしれません。
もしくは、そう思いたくない。
今の苦しい状況を緩和ケアーではなく、抗がん剤ががんを治して良くしてくれる。。。と、思い込んでいるのかもしれません。
抗がん剤治療が終わり、緩和ケアーに入ることが、敗北だと思っているのもあるのかもしれません。
緩和ケアーの言葉をきいたとたんに、気落ちしてしまいますから!
そんな中で、腫瘍内科のsho先生のブログで、抗がん剤の考え方について、、無料発信してくださっているのはとても助かっています。
どのような道を自分はたどっていきたいのかを考えられます。
体力がない場合、標準量より低用量で抗がん剤を使うというのは、どうなのでしょうか?
それで、延命効果は高いと言ってらっしゃる先生もいます。
毒性死は、減るでしょうが、効果はどうでしょうか?
効果はさほどなくても延命できていれば、いいとしているのか?
私は、標準治療を行っている病院で、ジェムザールで再発治療を始めたばかりですが、知人は、低用量の抗がん剤治療のクリニックで、効果がなくなってきたため、現在は、80%投与。
私は50%投与で、開始して、漸増投与方式の予定ですが、むやみに低用量で長く続けると、耐性もできてしまうということでしょうか?
標準量投与で命を落としてしまうのも問題ですが。。。
低用量治療についていかがでしょうか?

-----------引用ここまでーーーー
重要な質問なのでシリーズの途中ですが、回答します。

抗がん剤治療の基本的な使い方は治験や臨床試験で推奨量が既に決まっています。それは厳密な手法で安全性と効果が確認されているからです。
ただある程度の体力がある人しか試験に参加できないという前提があります。
これは臨床試験が参加患者さんの体力の問題で失敗することを避けるためであり、やむを得ないことでもあります。
問題は臨床の現場では治療対象となる患者さんの実に4割以上が、臨床試験の基準を満たさないことです。
この場合推奨用量通りの初期投与量で開始すると危険かもしれないのは自明でしょう。

その治療法が認可された前提と食い違う要因としては

・高齢(多くの臨床試験は70~75歳までを対象としている)
・体力(PS: パフォーマンスステイタス)が低下している
・糖尿病や、心疾患(心不全や心房細動など)、腎疾患、神経疾患(パーキンソン、脳梗塞の既往)などの持病がある場合
・骨粗鬆症などさまざまな加齢現象による制約

などがあります。
つまり抗がん剤が承認されるための臨床試験は状態の良い患者さんしか参加していません。
臨床試験に参加している患者さんより条件が悪いから、状態の悪い患者さんにこの抗がん剤は使えませんと一律に断るのなら、問題は生じないでしょう。

しかし現実には治療を受けたい患者さんと、何とかしてあげたい主治医の思いから、多少の危険を承知で治療を開始します。

こういった前提があれば、標準量より減量して抗がん剤治療を開始することもあると思います。
がんと共存をはかる治療であれば、一発勝負でなく、今後継続出来るという落としどころを見つける必要があるからです。

したがって、上記の制約のある患者さんなら半分の量で開始して、副作用がきつすぎないように徐々に抗がん剤を増量していく手法もあります(ただしそういう手法は通常の医学教科書には書いていない)。

がん細胞の耐性を心配していると言うことですが、治療前の段階である程度大きくなったがんなら耐性自体はすでに獲得している可能性が高いものです。がん細胞が増えるほど色々な性質の細胞に変異していくからです。

通常の抗がん剤は用量依存性(つまり投与量が多いほどがんが縮小すると言う意味)ですから、体力を奪うほどの量でなければ、多いほどがんを縮小させると考えて良いでしょう。

ここでは自分が実際に治療を行うときの考え方を披露します。

初回治療であれば、少し体力が低下していてもあるいは患者さんが副作用を恐れ、抗がん剤の減量を希望していても、通常量で治療開始することを説得します。

というのは、ひどい副作用でえらい目に遭う確率の方が低いからです。言い換えると、減量することで治療効果が低下して不利益を被る患者さんの方が多いと判断していると言うことです。

もちろん副作用がひどければ、2回目以降は減量しますし、場合によっては半分量に減らすこともあります。しかし案外きつい思いをせずに、治療継続が出来てしまう患者さんがいるのも事実です。

それでは初回治療でなぜ大量の抗がん剤(といっても治験で一応安全と確認された量ではありますが)を使うのでしょうか。
それは体力がある最初に腫瘍の勢いを頓挫させるためと言っても良いでしょう。
もちろん臨床試験でどのくらいの量が最も延命あるいは場合によっては治癒に持って行けるか確認されています。
その基準を外れた患者さんにはどのくらいの量で開始するのかは主治医の勘と考え方次第です。
例えば
★抗がん剤を標準量で始めた場合(普通に元気な患者さんを対象とはしていないことに注意)
メリットは
・実際に投与して副作用があまり問題とならない患者さんにとっては最も効果的な投与方法となる
・これは腫瘍増殖が急速で、救命が間に合うかどうか瀬戸際の患者さんでは特に重要。
・多少副作用できつい目に遭っても、減量を約束することで患者さんが前回よりは楽だと希望を持たせやすい。

デメリットとしては
・状態が悪い患者さんには重篤な副作用が出やすい
・その場合、2回目以降の治療が体力的に不可能となる可能性がある
・転移巣が小さく、がんの症状が皆無の患者さんで副作用が強く出た場合、抗がん剤の印象が悪くなり、精神的拒否反応が出る事がある。

★抗がん剤を半分以下の少量で開始した場合
メリットは
・副作用は少なくなることが予想され、最悪化学療法死となる可能性を減じることができる(もちろん例外的に死亡することもあり得るが)。
・強い副作用で抗がん剤治療の印象を悪くさせずに、徐々に抗がん剤の量を増量して、その患者さんの受け入れられる落としどころをさがしやすい。

デメリットとしては
・腫瘍が大きく勢いが激しい場合は抑えきれず、増量が間に合わない可能性あり。
・多少副作用が出た場合、それ以上の増量する意欲がなくなる場合がある。
・がんが劇的に縮小する可能性は低くなるため、がんの症状が緩和される実感が薄くなるかもしれないので、抗がん剤治療に対する失望が生じることもあり得る。

どちらも悩ましい選択ですが、自分の場合この治療戦略を患者さんにじっくり説明し、その意図を理解してもらい、どういった価値観、考え方を持っている方かを考慮しながら投与量を決めます。

しかし自分が標準治療派と低用量派のどちらかと問われると迷わず前者と答えます。
減量すべき根拠がはっきりしているときは迷わず低用量で開始しますが、標準量で開始して問題のないケースがずっと多いからです。
ただし、きつい副作用が出た場合は次回からはためらわずに一気に減量投与に踏み切ります。
治療意欲を無くすことや、治療で逆に不幸になることだけは避けたいからです。

以上、状態の悪い患者にしぼった自分の治療戦略を解説しました。

固形がんとの共存をはかる緩和療法的化学療法というのは、最初はがんばってもらいますが、時間と共に落ちる体力を考慮して、徐々に治療強度を減らして無理なく継続することが極意だと個人的には考えています。

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