6月9日の党首討論において、菅総理は枝野代表に対し、「日本は野党からも強い要望があった中で国内治験をやったことで、世界から見れば3ヶ月遅れている」と述べました。

 与党の一部の中で、この発言を引用しながら、立憲民主党と日本共産党への批判をおこなう向きもあります。

 

 私自身は、新型コロナワクチンの有効性、安全性の確認をしっかりおこなうことは、命と健康を守る上できわめて重要だという立場です。

 

 その上で、菅首相の言っていることには大きな事実誤認があります。

 

 というのは、国会で野党がワクチンの有効性、安全性の確認をどうすべきかという議論をおこなったのは11月の法案審議の際ですが、その前に、国内治験をおこなうことは決まっていたからです。

 

 ワクチンを含む薬事承認の審査をおこなうPMDA(医薬品医療機器総合機構)は、2020年9月2日に、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの評価に関する考え方」を発表しています。

 その中で次のような記述があります。

「SARS-CoV-2 については、COVID-19 の流行の程度が国・地域によって異なること、ウイルス

株が地理的・時間的条件によって異なっていく可能性があること、また、COVID-19 が重症化する患者の割合が国・地域によって大きく異なり、その背景については様々な検討がなされていることを踏まえると、SARS-CoV-2 ワクチンのベネフィット・リスクの判断については、各国・地域の状況によって異なる可能性がある。その他、民族的要因の差が SARS-CoV-2 ワクチンの有効性及び安全性に影響することも考えられる」

 こう指摘した上で、国内での治験について、

「海外で発症予防効果を評価するための大規模な検証的臨床試験が実施される場合においても、国内で臨床試験を実施し、日本人被験者において、ワクチンの有効性及び安全性を検討することは、必要性が高いと考える。」

 としています。

 

 この9月2日の「考え方」にもとづいて、ファイザー社などに対して、国内治験のお願いをしたのであって、野党の要望で国内で治験がおこなわたわけではありません。

 

 野党が国会で治験や有効性、安全性の確認のあり方について政府と議論したのは、PMDAが国内治験をおこなうという方針をだした、2ヶ月後の11月です。この時には、すでに、ファイザー社などの国内治験ははじまっていたわけです。

 

 ワクチン接種のスタートが諸外国より遅くなったことについて、菅首相が本来説明すべきことは、ワクチンには人種による免疫差もあるので、有効性、安全性をしっかり確認するためにおこなったことだったのではないでしょうか。そして国内治験をおこなうことになった経緯について、まったく事実と違うことを述べ、野党批判の材料にするというのは二重に問題がある姿勢だと考えます。

 

 これは総理発言だけでなく、たとえば公明新聞でも

 ”立憲は「日本人における有効性、安全性を十分に確認しないまま、海外の臨床試験データのみをもって承認を行う特例承認は、今回のワクチン承認にはそぐわない」(2020年11月10日の衆議院本会議)などと、国内での臨床試験(治験)をおこなってから承認するよう訴えてきました。こうした主張にも配慮する形で、日本で接種中のワクチンはいずれも、国内治験を経た上での承認となり、他国より承認・接種開始の時期が遅くなったのです”

 と書かれています。これも菅総理発言同様、事実の時系列をかえています。

 

 なお、11月の衆議院の予防接種法の審議の際には、各社の国内治験が250人、160人規模でおこなっていることなどの報告がありました。有効性、安全性の確認がこの規模で十分なのか、第三相試験をおこなうことが基本ではないのか(菅総理が任命した岡部内閣官房参与)などの議論がおこなわれました。

 

 たとえば、審議の中で、公明党の高木美智代議員は、

「医療関係者等、また高齢者、基礎疾患のある方など、分科会で優先順位が検討されておおりますけれども、むしろ、この方たちにいきなりではなくて、若い方、希望する方に接種してもらってデータをとるなど、事前のことが必要ではないかと思います。

 先ほどの二社の250人、160人という日本人への治験データを見ますと、そうした準備作業というものを、国として、優先順位を少し変えながら、その前段階として準備する必要があると思いますが、大臣、いかがでしょうか」

 と、安全性、有効性をさらにしっかり確認すべきという立場からの提案をおこなっています。もちろん公明党の高木美智代議員の提案どおりにやれば、医療従事者や高齢者、国民全体のワクチン接種のスタートは遅れることになりますが、私は、有効性、安全性をしっかり確認しようという立場からの大事な指摘だと、審議の中で受け止めていました。

 高木議員のこの日の国会質疑は、「恐らく正林局長も、250人とか160人とか、それでいきなり医療関係者から接種していく、それでいいと思っていらっしゃらないと思います。そうした点を申し上げているわけでございますので、よろしくお願いします」と念をおして終わっています。

 

 海外の方がワクチン接種が早くはじまりましたが、一方で、アストラザネカのワクチンは血栓が稀にできるということが判明し、接種に年齢制限をかけることになった国も多く生まれました。日本は当面、接種に使わないという判断をしました。

 

 ファイザー社のワクチンについてもイスラエルの保健省が10代の男性で心筋炎の副反応が一部でていることを発表しました。

 

 ワクチンの有効性が高いことは示されていますが、安全性については大規模な接種の中で判明することもあります。

 

 インフルエンザワクチンも含めて、稀に重篤な副反応がおきることはさけられません。それでも、個人と社会にとって、ベネフィットがリスクを上回るという判断で、予防接種は世界で推奨されています。

 しかし、薬と違い、健康な人にうつのがワクチンであり、そのことによって稀であっても重篤な副反応が生じるというのは、可能な限り、最大限、避けたいというのは、厚生労働委員会の審議の中でも、与野党問わず、みんなの思いでした。

 

 ワクチンによる集団免疫の獲得は、人類が今回のパンデミックを抜け出す道です。だからこそ、有効性、安全性をめぐる議論を政争の具にすべきではないことを私は強調したいと思います。

 

 日本国内の今回のワクチンの遅れを問うのであれば、やはり、10年前に専門家のみなさんから国内のワクチン開発体制の強化を提言されていたのに、実行できなかったことが一番でしょう。また、ワクチン確保の遅れや接種体制についての国の準備と遅れなどが問われるべきでしょう。