厚生労働委員会で、GoToトラベルの影響で、消費者物価指数が大きく下がっており、来年度の年金が減額改定される可能性が高いと指摘し、年金が減額とならないよう特例措置をとることを求めました。

 

 来年度は、年金カット法の新たな年金改定ルールが適用されます。物価はあがり、賃金改定率はマイナスの場合は、これまでは年金は据え置きでしたが、来年度から、賃金改定率に合わせて、年金が減額となります。(下図参照)

 

 

 図にある物価(物価改定率)は、前年の物価変動率で、総務省の統計にある、消費者物価指数の変動率を使います。

 図にある賃金(賃金改定率)は、名目手取り賃金変動率とよばれ、次の式で計算することになっています。

    2〜4年度前(3年度平均)の実質賃金変動率+前年の消費者物価指数の変動率+ 可処分所得割合変化率

   この式を見ればわかるように、賃金改定率の計算にあたっては、物価変動が加味され、物価が下がれば、賃金改定率が下がる仕組みです。

 

 総務省の発表ではGoToトラベルの影響で旅行代金が大きく下がり、消費者物価指数を大きく押し下げています。

 

 総務省は11月20日に、「消費者物価指数における「Go To トラベル事業」の影響」を試算し、公表しています。

  

 

  この2つの表を比べれば、8月以降、「Go To トラベル事業」の影響で、消費者物価指数が下がっています。

  8月は−0.3、9月は−0.4、10月は−0.4下がっています。11月、12月も同様の傾向がでるでしょう。

  ちなみに、11月の消費者物価指数東京都区部の速報値だけでていますが、前年同月比で−0.7です。11月のGOTOトラベルの影響はまだ発表されていません。

  

 年金額を試算するためには、2020年度の物価変動率の推定が必要です。そのために11月、12月を仮置きします。

 11月、12月の物価変動が、東京都区部の11月速報値水準となった場合、2020年度の物価変動率は、0.0です。

 11月、12月の物価変動が、10月並みの場合は、2020年度の物価変動率は、+0.1です。

 

 かりにGOTOトラベルの影響がなければどうなるでしょうか。

 11月、12月の物価変動が、東京都区部の11月速報値水準となった場合、+0.2です。

 11月、12月の物価変動が、10月並みの場合は、2020年度の物価変動率は、+0.3です。

 

 どちらの場合でも、GoToトラベルの影響で消費者物価指数は0.2程度引き下げられます。

 

 さらに、年金額を試算するためには、賃金改定率を推定する必要があります。わかっている数値は次のとおりです。

 

賃金改定率=名目手取り賃金変動率

      = 2~4年度前(3年度平均)の実質賃金変動率

            (2017年度 -0.2、2018年度 -0.2、2019年度 ?)

       +物価変動率(2020年の値 0.0もしくは0.1)

       +可処分所得変化率(0.0%)

 

  年金改定に使う平均の実質賃金とは、標準報酬月額の平均額をさします。賃金上昇局面でも、非正規雇用の加入者が拡大することで、この額はマイナスになることも少なくありません。2019年度の実質賃金改定率はこの12月中に公表されるときいています。2〜4年度前(3年度平均)の実質賃金変動率は、0.2もしくは0.1で仮置きしたいと思います。(0.3はなさそうだと年金局担当者からうかがっています)

 

  年金改定額を試算する上で、もうひとつ推定しなければならないのが、マクロ経済スライドの調整率です。年金がプラス改定のときに、マクロ経済スライドがかかります。2020年度は調整率は-0.1%でした。2021年度は−0.1もしくは−0.2と思われます。

 

 そこで、まず、マクロ経済スライドの調整率は 今年同様の-0.1%とかりおきして試算すると、次のようになります。

 

<2~4年度前(3年度平均)の実質賃金変動率 を -0.2でかりおきした場合>

 

 ▽11月、12月の物価変動が東京都区部の11月速報値水準となった場合

  物価 0.0 > 賃金 -0.2 ➡︎ 年金が下がる

 (GOTOの影響がなければ

  物価 0.2 > 賃金 0.0    ➡︎ 年金は据え置き)    

 

 ▽11月、12月の物価変動が10月なみの場合

   物価 0.1 > 賃金 -0.1 ➡︎  年金が下がる

 (GOTOの影響がなければ

  物価 0.3 > 賃金 0.1   ➡︎ 年金は据え置き)   

 

<2~4年度前(3年度平均)の実質賃金変動率 を -0.1でかりおきした場合>

 ▽11月、12月の物価変動が東京都区部の11月速報値水準となった場合

  物価 0.0 > 賃金 -0.1 ➡︎ 年金が下がる

 (GOTOの影響がなければ 

  物価 0.2 > 賃金 0.1  ➡︎ 年金は据え置き)

 

 ▽11月、12月の物価変動が10月なみの場合

  物価 0.1 > 賃金 0.0  ➡︎ 年金は据え置き

 (GOTOの影響がなければ

  物価 0.3 > 賃金 0.2  ➡︎ 年金が+0.1上がる)

 

 マクロ経済スライドの調整率が-0.2になればどうなるか。上のケースの、年金が上がるケースが「据え置き」となります。あとは、影響がありません。

 

 その結果、8パターンの試算のうち、6パターンでGOTOトラベルの影響がなければ据え置きであった年金が、GOTOの影響で賃金改定率がマイナスになり、年金がマイナス改定となります。1パターンでは、GOTOの影響がなければあがる年金が据え置きとなります。1パターンでのみ、GOTOトラベルが影響をあたえず、年金は据え置き。

 

 厚生労働委員会では、こうした試算を示して、GoToトラベルがなければ据え置きの年金が、GoToトラベルの影響でマイナスになるのではないかと質しました。田村厚生労働大臣は、「当然マイナス要因である」と、年金がマイナスになる可能性を否定しませんでした。

 

 国民年金だけで生活を切り詰めて生活をされている方は、GoToのトラベルとは無縁の生活の方も少なくありません。さらに、東京では65歳以上はGoToは自粛してくださいといわれています。GoToトラベルの影響で年金がマイナスになることは、理不尽なものを感じます。年金を下げない特例措置を検討することを求めました。

 

 

 

追記:2020年12月14日

 

 年金改定率の計算に使う「消費者物価指数」とは、どう計算しているのか。

 日本の消費者物価指数は、基準時の家計の消費構造を一定のものに固定し、これに要する費用が物価変動をどう変化するのか測定するため、ラスパイレス式を採用しています。主要国もラスパイレス式です。

 

 ラスパイレス式は、基準年の物価水準を100として

 

 指数=(比較時の価格×基準時の数量)の総和/(基準時の価格×基準時の数量)の総和 ×100

 

 という式で算出します。

 

 基準年は5年に1度で、西暦で下一桁が5と0の年です。現在は2015年が基準となっています。次の基準年は2020年ですが、次の5年の基準となる消費者物価指数が完成するのは、2021年の夏ころです。そのため、2021年度の年金額改定にあたっては、2015年を基準年とした2020年の消費者物価指数で計算することになります。

 

 価格は、実際の店舗を調査した「小売物価統計調査」です。

 

 基準時の数量とは、基準年の「家計調査」の消費支出金額の割合。「ウェイト」といいます。ちなみに「宿泊」の2015年基準のウェイトは「1万分の113」です。