もう10数年も前のことです。

 

何故かその日のことは鮮明に覚えているのです。

 

きっとそれは厨房から今まで嗅いだこと無い良い香りが漂って来たからでしょうか。(香りはよりその時の記憶を鮮明にすると聞いたことがありますから。)

 

思わずシェフの背後から、「何のお肉を焼いているの?」とフライパンを覗いてしまったのも今でも覚えています。

 

「シャラン鴨だって。」とシェフは言いました。

 

シェフ自身も名前は知っていましたが扱うのは初めてだったようです。

 

もちろん私も初めてその名前を知りました。

 

さらにシェフが、「業者さんがこれから日本に広めたい鴨だそうなんだけれど宮本シェフ味見してみてくれませんか。って持って来てくれたんだよね。」とシェフが言い、

 

焼いた鴨を薄くカットしてその場で塩を少しだけふって味見して、私もその時一緒にご相伴に預かりました。

 

今でもその時の強烈な香りとジュシーなお味は覚えています。

 

さらにシェフ曰く、「とにかく貴重な鴨らしくてね、今のところ北海道のフレンチが1店と京都の料亭、東京の鴨専門レストランと今のところ3店舗しか入ってないらしいんだよ。」と言いました。

 

これまた仕入れの金額を聞いてビックリしましたが、当初はまだ未開の鴨だけにとってもとっても高価だったのを覚えています。

(今も高価ですが。。。)

 

そんな会話は何気にしましたが、既にシェフの気持ちは決まっていたようです。

 

すぐに輸入食材の営業の方を呼んでまたシェフのとった行動にさらに仰天しました。

 

若き営業マンを前に「この鴨はとても素晴らしい鴨ですね。この鴨をちゃんと焼いた状態で食べたことはありますか?」と切り出したのです。

 

営業の方が、「まだありません。」と言うと、

 

「少し待っていて下さいね。」と言って急いで厨房に入って行き、

 

何と前回残しておいた残りの鴨の塊を焼き始めたのです。

 

暫くして、「どうぞ食べてみて下さい。」とシェフは同じくカットし塩だけした鴨をその営業の方に差し出しました。

 

営業の方は呆気にとられていましたが、

 

鴨を口にして、「美味しいです!」と言いました。(当たり前ですが。笑)

 

するとシェフが、「そうなんです。この鴨は美味しいんです。でも焼くのに技術が要る鴨だと思います。

 

この鴨を今後日本に広めたいなら、最初はこの鴨を美味しく焼ける技術のある料理人さんの居る店に入れた方がいい。

 

決して私だけと言うことではありません。でも私はこの鴨を美味しく焼く自信があります。

 

この鴨を「美味しい鴨」と必ず広く知れる鴨にしますからウチの店に入れて下さい。」と言い切ったのです。(驚愕!)

 

こうしてトレフは愛でたく日本で4店舗の中の1店目としてビュルゴー家のシャラン鴨お取り扱い店となったのでありました。

 

その後のシェフの取った行動にもまたまた仰天です。

 

たまたま取材で入っていた料理の掲載は全てシャラン鴨にし、

 

しかも鴨をお皿にびっし~り敷き詰め、原価度外視という感じでしたが、「オレにはこの食材を広める約束がある。」と躍起になっていたようでした。

 

 

ただそれ以上に反応したのはお客様だったように思います。

 

美味しいモノ好き、新しいモノ好きの日本のお客様の舌にシャラン鴨の味は響き、その時他店も併せてシャラン鴨を扱ったお店のお客様から

 

人気は瞬く間に日本全国に広がって行きました。

 

今やフレンチに限らず日本料理店でもシャラン鴨の肉質の美味しさは知る人ぞ知る逸品となっています。

 

「こんな完璧と言うべき肉質に合わせるソースは?」と訊けば、

 

シェフが当初から合わせているのが「ダブルコンソメのソース」なのです。

 

 

シェフ曰く、「ただでさえ美味しい肉なのだから敢えてソースは脇役だよ。」と控えめながらも、

 

こだわり抜いたコンソメ、しかもダブルコンソメを合わせ、シェフらしい一皿に、

 

いえ、シェフにしか作れない「シャラン鴨の一皿」にしています。

 

あれから十数年経ちましたが、今年もシャラン鴨の一皿を作りさせて頂く季節となりました。

 

シェフは今でもお皿にびっし~り鴨を広げるスタイルで、

 

十数年前から変わらずの、「シェフ宮本のシャラン鴨の一皿」を作り続けています。

 

そして当初からの約束、「ビュルゴー家のシャラン鴨の美味しさを広めること」を今も守っています。

 

この機会にシェフが惚れ込んだフランス食材の逸品。

 

またシェフしか作れない「ビュルゴー家のシャラン鴨料理」 を是非ともお召し上がり下さい。