「だから、毎日教えているだろう?『浮遊術』を。外に行くときは使えと言っている。何故使わない。やはり難しいか?」
って、言いながらしょーちゃんが横一列に並ぶ僕の式たちの足を順番に拭いてる。
僕はというと、足を拭いてもらった子からただいまの撫で撫でで『気』の譲渡中。
しょーちゃんが何で『式』たちにお小言を言ってるかって、今日もまた、外に出た足そのままでうちの中に入って、どたどた走り回っちゃったから。
しょーちゃんがキレイに掃除した部屋を、小さな砂の足跡でいっぱいにしちゃったから。
僕の『式』は手のひらサイズの、一番近い動物は多分ハリネズミ。
顔や身体の感じがどことなくあんな風で、けど、ハリネズミみたいな毛じゃなくて、毛はふわふわしてて、はっきり言ってかわいい。
そのかわいいのが今一応5人いて、ひとりずつ顔つきや性格がちょっとずつ違ったりする。
眠るみたいにいつも丸くうずくまってる一郎。
顔がシュッとイケメンで一番お利口さんな二郎。
いつも走り回ってて、いつも一番に僕に飛びついて来る、一番元気な三郎。
何かというと一郎にちょっかいを出してるマイペースな四郎。
他4人に可愛がられる、目の上にキリッと眉毛のような模様がある五郎。
あ、名前の由来は『召喚』した順番ね。
一郎が僕が一番最初に、小さい頃に『召喚』した子。だから付き合いは一番長い。
ほとんどの『術者』は、必要な時にしか『式』を『召喚』しない。
普段『式』は『依り紙』状態で、『術者』がその『依り紙』を持ち歩いてて、必要な時に『召喚』する。
仮に『式』と離れ離れになっても、『依り紙』さえあれば、それが例え全然別の『依り紙』でも、『依り紙』でさえあれば、『式』はどこにでも『召喚』できる。
けど僕は、母屋に居た時から何となくそれがいやで、いつも『召喚』状態で部屋で放牧してた。もちろん今も。
しょーちゃんが来るまで、この子たちはずっと部屋やうちの中に居るだけだった。
でも、しょーちゃんが来てからはしょーちゃんについて外に出るようになっちゃったんだよね。
しかも、散々外で暴れまわって足が汚れてるのに、今日みたいにそのままうちの中に入っちゃって、しょーちゃんに怒られるっていうね。これがもう定番。
怒るって言っても、こらって5人を優しく回収して、一列に並ばせて、優しくぶつぶつ言いながら足を丁寧に拭くだけなんだけどね。
しょーちゃんは、僕の『式』たちをすっごくすっごく、かわいがってくれてる。
僕はそれが嬉しくて、それを見てるのが、かわいいの大渋滞で大洪水で幸せ。
「え、しょーちゃん、『浮遊術』を教えてるの?この子たちに?」
「ああ、教えている。毎回毎回うちの中を砂だらけにされるのは困るからな」
えええええ⁉︎
伝説級の『高位式』のしょーちゃんが、こんな小さいハリネズミみたいな『式』たちに『浮遊術』を⁉︎本当に⁉︎
「………何故笑う?」
「だってそれすっごいかわいい図じゃんっ」
「図?」
しょーちゃんにはイマイチ伝わらなかったけど、しょーちゃんが真面目な顔でこの子たちに『術』を教えてるところを想像したら、笑っちゃうぐらいかわいくてかわいくて僕は脳内で悶絶した。
人型の『式』は、男女ともに見目麗しいと習ってた。
で、しょーちゃんはその通りすごく整った顔をしてる。めちゃくちゃかっこいい。時々キレイにも見えるぐらい。
そんなしょーちゃんによるハリネズミ的な超かわいい小動物5人への『術』の講義なんて、最高でしかない。記念写真ものだよ。
よし、いいぞって最後五郎の足を拭いて床に下ろすしょーちゃんは、すごくすごく、優しい顔。
それを見て思うんだ。
しょーちゃんの横に座る僕の足の上でわちゃわちゃしてる小さな『式』たちを見て思うんだ。
これ以外、要らないって。
僕はこれ以外、これ以上要らない。
それはどうしたらあの人たちに………父さん母さんを含む一族の人たちに伝わるんだろう。伝えられるんだろう。
僕の足の上でふわふわなお腹を見せてもっと撫でろな五郎を撫で撫でしながら、思わず小さく、ため息を吐いた。
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