昨日のBlogでete perleご紹介しましたが、実はわたし宝石のなかで一番パールが好きなんです☆

真珠は別名「月のしづく」「人魚の涙」とも言われ、白で上品なのに様々な色彩感や表情がありますよね。

清楚にもなるし、妖艶にもなれる。

白鳥にも、黒鳥にもなれる。

ブラックパールもあるからね。

派手じゃないのに、どんな装いにも溶け込むのに、ちゃんと自らの存在感があるのが好きな点です。

実は、真珠って音楽とも関連があるのですよ。

たとえば、バロック真珠。

バロックパールの「バロック」の語源は、歪(いびつ)の意味。

以下、Wikipediaより「バロック」の概念を引用します。

【バロックという語は、真珠や宝石のいびつな形を指すポルトガル語barrocoから来ている(ただし名詞barrocoはもともとはいびつな丸い大岩や、穴や、窪地などを指していた。いずれにせよ、この語にはいびつさの概念が含まれていたと思われる】

バロック時代の音楽、たとえばバッハやヴィヴァルディに象徴される音楽を演奏するときには歪な音色(ツルツルでない音)を求められます。

歪の反対は、

モーツアルトの音楽。

古典派ですね。

モーツアルトは、粒の揃った球状の本真珠ネックレスのように美しい。完全なる美です。

しかし、バッハをそれと同じように弾いてはいけません。もっとゴツゴツした荘厳な音色が必要です。

対して、

ドビュッシー印象派の音楽も、歪さが求められますがバロックのように荘厳ではありません。

妖艶かつ自然光のような、柔らかな歪なのです。

そう、

真珠に例えるならドビュッシーの音楽は、淡水パールではないでしょうか。

小粒だけれども軽やかで、光の当たる角度によってピンクやブルーに反射し規則的に並ばずに変幻自在です。

フランス人のハーピストとコンクールで競っていた学生時代に、こんな事を教わりました。

「フランスのハーピストがなぜ色彩豊かな音色を奏でられるかわかる?音の粒を均一にしないために、わざと指が弦から離れるとき8本8通りの角度になるようバラバラに弾くのよ。全部同じ方向に単調にはじいてる日本人には、ドビュッシーは表現できっこないわ!」

と自慢気に(笑)

わたしは、悔しいというよりも、なるほど~!と尊敬の念をもって納得してしまい、彼女と同じ流派のフランス人ハーピストのビデオを入手し、毎日朝から晩まで見続け、数ヶ月にわたりノートに指が弦から離れる角度のパターンを分析して、徹底的に検証しました。

ミヤビメソードの代表的なテクニック「まわして」「おこす」「ひねって」「はらう」の4通りの技術はそこにヒントを得て生まれたものです。

手首の方向性4通り×両手で合計8通りになる訳です。さらに、左右違うことを組み合わせて同時に弾けば、音色を変えるパターンは無限に増えます。

完全な「美」、歪な「美」。

芸術家はこの二つの美のパターンを見極め、的確に表現しないといけません。

ミヤビメソードでは、フランス音楽およびそれに近い柔らかな雰囲気の作品を弾く場合には、先に述べたように手首の方向性を変えますが、

モーツアルトの音楽を弾くときには、真円の本真珠のように完全な音色をつくるべく、あまり手首をひねらずにストレートに明るく指を離します。

それが、ミヤビメソードでいう「ネコ」「キツツキ」のテクニック。これは、フランスからきた技術ではありません。

ただし、モーツアルトはオーストリア出身だけれど世界中を旅していて、その装飾音符を多用した軽快・優美・繊細な音楽様式は、音楽におけるロココ様式とも呼ばれています。

ロココ様式は、18世紀フランスのルイ15世にはじまる様式美で、バロック時代後期から古典派まで様々な形で現れ、別名ギャラント様式ともいうんですよ。

とりわけ、ハーピストのバイブルとも言われる、モーツアルト「フルートとハープのための協奏曲」←ミヤビメソード教本第六章参照。

この作品は、モーツアルトの膨大な作品のなかでも、とくにロココ様式の影響を大きく受けていますので、1楽章や3楽章はドイツ語圏の粒の揃った技術に加えて、2楽章で歪なフランスの技術もミックスすると軽やかさと優美さが両方表現できて素敵に仕上がると個人的には思っています。

ワンパターンでなく、様々な技術を駆使してこそ、作曲家の時代の様式に合わせて、どんな時代のどんな国の音楽にも対応できるんじゃないでしょうか。

たしかに、

フランスのハーピストが指摘した通り、日本の音楽教育は「すべての音を均一に弾きなさい。音の粒を揃えなさい。そのために弱い指を鍛えなさい。」とハープに限らずどの楽器でも子供の時分からそう教育しますよね。

ピアノも戦前は、ゆで卵を手のひらに入れる形を作って指を丸めて均一に弾くとか、指強化トレーニンググッズなんて流行ってたらしい。

今ではピアノ界は、手首で弾くメソッドが主流になりましたが、改革に半世紀近くかかってるんですよね…。

ハープ界も早くそうなりますように(T_T)

モーツアルトの音楽も粒の揃った真珠のように完全な美と申しましたが、ウィーンフィルメンバーとモーツアルトのハープ協奏曲を共演したときに、

「日本人が考えてる完全と、ウィーン人が考えてる完全は違うよね」

という話をツアー移動のバスの中でしてました。

日本人演奏家は勤勉なので、ミスがなくコンクールでも上位に入賞するんだけど、表現力がないのでその後プロとして通用しない現象が起こりやすい。←音楽が面白くないのでファンがつかない、の意味。

この現象を皮肉って、海外の演奏家からは「Japanese machine」ジャパニーズ マシーン。と呼ばれています。

たしかに、モーツアルトを弾くバイオリンにしてもウィーンフィルの音は粒は揃っているけど、モノトーンで均一ではなく多彩でした。

真珠に例えるならば、

日本人演奏家に多く見られる音は、人工的なプラスチックパール。

ウィーンフィルの音は、天然の本真珠。

と比喩できるかもしれない…。

天然ものは、粒が揃っていても一つ一つに微妙な輝きの差があります。

蛍光灯のような単一な真っ白さではなく、白のなかにも虹色の多彩なプリズムが秘められています。

日本人ミュージシャンの皆さん!

国産の天然真珠の素晴らしさは世界に誇れるものなのですから、我々もJapanese machineと彼らに笑われないよう、本物の音色めざしてご一緒に切磋琢磨して参りましょう^o^