映画/『大日本帝国』 | みやのすけの映画倉庫/『ゴジラVSコング』への道


1982年8月7日公開
東映
監督:舛田利雄
出演:あおい輝彦、三浦友和、篠田三郎、西郷輝彦、関根恵子、夏目雅子、丹波哲郎

対米開戦から終戦間際まで、首相として太平洋戦争を指導し続けた東条英機(丹波哲郎)を中心に、戦争に運命を翻弄される庶民の姿を描く。
脚本は笠原和夫。

公開当時、東条英機が主役でしかもこのタイトル。
大いに物議を醸したものですが、今観ると東条英機の物語にはなってないので拍子抜けします。
「あの」丹波哲郎が東条を演ずる所に私は興味があったのですが、ドラマ上彼のウェイトは低く、どことなく特別出演的な演技に終始した感じです。




物語の構成も、どこか歴史の教科書のように、さしたるドラマチックな山場はなく淡々と進み、正直これで180分の長尺は観終わるまでかなり忍耐を必要としました。

ただし、特筆すべきはサイパン島の戦いが割と克明に描かれている事。
これは、太平洋戦争を描いた映画としては、唯一ではないでしょうか。
さして盛り上がらない物語のボルテージも、サイパン玉砕に一応のピークが置かれています。

そして、軍民がごちゃごちゃになって、手に手に武器を持ち(民間人は竹槍や鎌、鍬を持っている)、「海ゆかば」を合唱しながら敵陣に亡霊のように行進していくシーンは、異様であり、極めて抽象的で強く印象に残ります。
作品はこのシークエンスのみで「大日本帝国」とは何だったのかを表現しようとしていると言っても過言ではありません。

作品を通じて更に印象的なのは、天皇の戦争責任の追及と、極めて反米的な姿勢です。
終戦後、B級戦犯としてあえて罪を被り、銃殺される篠田三郎。


「天皇陛下お先に参ります。天皇陛下万歳!」と叫び、目隠し代わりの白い頭巾を日の丸のよに血に染めるその最期に、少年兵として終戦を迎えた脚本の笠原和夫の怨念が込められています。
また、アメリカ軍人の野蛮さと無神経さがここまで強調されるのも、日本の戦争映画としては異例ですが、笠原和夫が「仁義なき戦い」で一貫して描き続けたテーマを考えればこれは至極当然のことといえるでしょう。

かくして、本作は右派からは「巧みに作られた左翼映画」と言われ、左派からは「巧みに作られた右翼映画」と評されることになります。
ってことはこの作品が真ん中あたりということになりましょうか。

役者では必死で生き抜く関根恵子が良く、彼女の熱演に救われた感じがします。
ま、男はあかんな、っちゅうことで(笑)。