演劇/「盲導犬~澁澤龍彦『犬狼伝説』より~」 | みやのすけの映画倉庫/『ゴジラVSコング』への道

2013/7/24Bunkamuraシアターコクーンにて
作:唐十郎
演出:蜷川幸雄
出演:宮沢りえ、古田新太、小出恵介、金守珍、木場勝巳

何故 そんなに飢えるのか
俺のファキイル
何故 そんなに影を憎むのか
俺の犬
ここは魚の都
おまえの遠い先祖がつくったミイラの国だ
ああ いくつかの太陽を喰ってしまった
なまぐさき都
忘れるんだファキイル
勝ち目はない

劇場に古田新太の歌声が響く。
どこか懐かしいメロディだが聴いたことのない類の新しい曲にも思える。
1973年、アートシアター新宿文化で初演された時と同じ音楽。
「これがアングラってやつか…」
久々にこれまで触れたことのない異質なわからないものを観ている感覚に戸惑いながら1時間30分の上演時間が飛び去るように過ぎる。

舞台にはズラリと並んだコインロッカー。
説明はないのに、なぜかそこは新宿西口の地下に違いないと確信する。

本物の盲導犬(ジャーマンシェパード)が5匹も登場する出だしから、舞台には常に張り詰めた空気が漂う。

不服従の犬ファキイルを探し続ける盲目の男、古田新太。
彼と出会い、その先導役となるシンナー中毒のフーテン少年、小出恵介。
なぜか爪でコインロッカー330番を開けようとしている人妻、宮沢りえ。
その夫、木場勝巳はバンコックで愛人に殺されたはずだが、妻の前に忽然と姿を現す。
木場勝巳は盲導犬の訓練学校の「先生」と二役だ。

妖しい輝きを放つ唐十郎の台詞に眩惑されつつも、物語が支配する者とされる者を描いていることは明解で、「先生」=夫は妻に取れない胴輪(ハーネス)をはめ、「先生」の下で盲導犬の訓練をしていた生徒たちは犬そのものとなって盲人と少年を襲う。

突然一斉に開き、犬の毛をキラキラと吹き上げるコインロッカー。
そしてそのコインロッカーが二つに割れ、背後に現れる巨大な赤い月ビックリマーク
新宿西口のコインロッカーから始まった物語が壮大にイメージを飛躍させていく終盤にはただただ圧倒される。

作品は70年代の社会状況に深く関わるものだが、その訴求力は今でも変わらない。

「飼われるな」

人間は自由であるべき、というテーマは普遍性を持って現在の我々に突きつけられる。
その問いかけに、自分を含む観客はどう応えるのか。

問題はそこだ。