演劇/「THE BEE」 | みやのすけの映画倉庫/『ゴジラVSコング』への道

2012/5/3水天宮ピットにて
作・演出:野田秀樹
出演:野田秀樹、宮沢りえ、池田成志、近藤良平

平凡なサラリーマン、井戸(野田秀樹)が帰宅すると、自宅には脱獄囚小古呂(おごろ、近藤良平)が井戸の妻子を人質にして立てこもっていた。
小古呂はストリッパーの妻に逢いたい一心で脱獄したのだが、小古呂の妻(宮沢りえ)は逢うのを拒否している。
井戸は、担当刑事百々山(どどやま、池田成志)に、小古呂の妻(宮沢りえ)の説得を依頼されるが、小古呂の妻の心ない態度に逆上し、警官から拳銃を奪い、小古呂の妻子を人質に立てこもる…。
原作は筒井康隆の「毟り(むしり)あい」

さて、井戸が立てこもる家には蜂が一匹紛れ込んでおり、井戸はその蜂を異常に恐れています。
その蜂の羽音を含め、突然鳴り響く電話など、日常の音がノイズとして井戸を、そして観客の神経を逆撫でするようでピリピリします。

舞台はすごいスピードで狂気をエスカレートさせていく井戸を中心に描かれます。
野田秀樹の舞台の中でもこれほど野田本人の演技が中心になるのは珍しいのではないでしょうか。
大嫌いな蜂を拳銃で撃ち殺した時など、井戸の狂気と狂喜が最高潮に達した時に、尾藤イサオの「剣の舞」(あるんですよ、そういうのがにひひ)に合わせて踊り狂う野田秀樹の動きが凄まじく、圧倒されます。
ちなみにこの踊りは作中三度出てくるのですが、野田さんは57歳なのですよビックリマーク
狂気に染まる演技が全く説明的でないのも良いですね。

宮沢りえは肌も露わな薄物一枚の衣装。
漂うくたびれた色気、その肉体の生々しい存在感がこれまた…
透き通るような肌、こぼれ落ちそうな胸元。
本物のストリップ舞台以外でここまでダイレクトにセクシャルな舞台を観たことがないです。
今回のりえちゃんは小手先の演技がどうこう、というより肉体の存在感で観客を魅了していましたねニコニコ

「立てこもり合う」二人の男は、互いに暴力と報復をエスカレートさせてゆきますが、延々と続く異常な暴力が次第に平凡な日常と化すのがこの舞台の最も異常な点です。
この「日常」を「蝶々夫人」のハミング・コーラスに乗せ、セリフを一切排して描く演出には驚かされます。

私は野田演劇を本質的にロジカルなものと考えますが、これはそういった従来の作品とは全く異質なもの。
上演時間79分。
ナマの感情をぶつけてくる観たことのない野田秀樹の姿に茫然とした一夜でした。