演劇/「ハムレット」 | みやのすけの映画倉庫/『ゴジラVSコング』への道

2012年彩の国さいたま芸術劇場インサイドシアターにて

作:ウィリアム・シェイクスピア
演出:蜷川幸雄
出演:川口覚、露敏、こまどり姉妹

劇場に入ると10平米程度のコンパクトな舞台の三方を囲むように観客席が作られており、舞台は黒い布で覆われています。

開演数分前に黒い布が取り払われると、舞台は透明なアクリル板でできており、舞台下は役者たちの楽屋という設定にまず驚きます。
メイクする者、談笑する者、役者たちに声をかけて回る蜷川幸雄ビックリマーク
もう芝居は始まっています

舞台はアクリル板を挟んで地上と地下の二層に分かれており、役者はこの間を行き来しながら、時には上と下とで演技します。

演じるのは蜷川が立ち上げた「さいたまネクストシアター」の若者たち。全員がほぼ無名。
よく訓練され、全員が自分の全てを絞り出すような芝居をしており、舞台には熱気が立ち上がります。
特にハムレットを演じた川口覚が良く、若さ、繊細さ、潔癖さ、自己愛、という普遍的な若者の姿を熱演して見事。
シェイクスピアの物語は古くならない。

そして、「尼寺へ行け!」という、恋人オフェーリアとの有名な愁嘆場。
若い二人が地に倒れ伏して不条理な悲しみに身をよじるその時、舞台奥の巨大なカーテンが開き、突如として現れるこまどり姉妹ビックリマークビックリマークビックリマーク
歌謡ショーさながらに、五色のライトを浴びながら、スパンコール煌びやかでド派手な振袖姿で、往年のヒット曲「幸せになりたい」を四角い舞台をぐるりと回りながら歌い、カーテンの向こうに消えます。
私も含めて呆気にとられる観客たちビックリマーク

こまどり姉妹はラストにも現れて、やはり「幸せになりたい」(曲の内容がこの戯曲のテーマと重なるのが面白いです)を歌います。

「我々の舞台の途中にこまどり姉妹が現れた時、我々の芝居は彼女たちに拮抗できるのか」
蜷川幸雄の40年来の妄想はこうして現実のものとなりました。
結果はやや残酷で、表現に硬さと未熟さも残る若い役者たちは力を出し切ったと思いますが、舞台は見事にこまどり姉妹の印象しか残りません。
誠に、板の上は平等。
舞台に3年と50年の違いは、たとえジャンルが違えど明らかです。

しかしこれは蜷川の若い役者たちへの檄。
誰よりも悔しさを感じたであろう彼らの次の舞台が楽しみです。

帰り道、「(こまどり姉妹が)目の前に居るのにとても現実のこととは思えなかった」と若い観客が語っていたのが印象的でした。