「あ、あんなに振り回して!」
「ああ、シンシア姫が・・・!」
ベルンハルトとシンシアには身長差がありすぎる。
そんなことを考慮せずに自分のペースでどんどん踊り出したベルンハルトを見て、エルヴィンとベルニスは同時に声をあげた。
しばらくして、ベルンハルトのペースにシンシアが合わせ出したのを見て、二人はほっと胸をなで下ろし話をし始めた。
「ところで、皇帝からのお話とは?国王ではなく、私でよろしいのですか?」
「はい。我が国とアトラジェーニは国交を開いて日も浅い。国王陛下にお話する前に、まず王弟殿下であるロードリック公にお伺いをしてからと」
「なるほど」
チラチラッとシンシアのほうを気にしながら、エルヴィンはベルニスの話を聞いている。
「我が国はアトラジェーニのように自給自足ができるほど農業が盛んではなく、自国内の自給自足が四割程度です。
アトラジェーニの小麦粉とオリーブの買付を我が国としては増やしたいと考えております」
「小麦とオリーブですか・・・わかりました、国王には伝えておくので、のちほどお互いに外交を通じてやり取りをいたしましょう」
「はい」
ベルニスはほっとしたような表情をした。
細い絹糸のような真っ直ぐな髪の色は、ベルンハルトと同じ漆黒。
瞳の色は少し茶色がかった黒い瞳。
がっしりとした体躯のベルンハルトと比べてこそ、華奢な感はあるが、そこそこ鍛え上げられている身体をしているが、少々頼りなげな印象の青年だ。
突然、ベルンハルトの笑い声が聞こえてきて、エルヴィンもベルニスもギョッとして声のするほうを見た。
「え、あ、あの兄上が笑っている・・・」
「シンシアは、何をしたんだ?」
周りのことなど気にせずに笑い続けるベルンハルト。
そのうち二人は、一言、二言話をすると壁際のソファまで移動していった。
そこに座り、話をしだす二人。
おもむろにシンシアがベルンハルトの口許(口角)を思いっきり両手で
引き上げる。
「ぶっ・・・」
その様子を見て、吹き出しそうになり、エルヴィンは慌てて自分の口許を手の平で押さえた。
見ると、ベルニスも肩を震わせて笑うのを我慢している。
「あのような兄上を見るのは初めてです。
国ではあのように感情を表にださない、人を寄せ付けない雰囲気のある方なので」
ぎこちなくではあるが、笑みを浮かべてシンシアと話をしているベルンハルトを眺めて、ベルニスはなんとなくほっとしたような気持ちで、エルヴィンに言った。
「ベルンハルト殿下の心情も、なんとなくわかる気がします」
イストムス。たしか男子が第六皇子までいて、女子が第七皇女までいた。
皇位継承権争いも水面下で起ころうというもの。
自らを守るために心情を読まれぬように無の表情に徹することを幼少の頃から身に付けたのだろう。
「ベルニス殿下は兄思いですね」
柔らかい笑みを浮かべてエルヴィンは言った。